日産の軽スーパーハイトワゴンのニューモデル「ルークス」。発売とコロナ禍がぶつかってしまった関係で、試乗も叶わない。そこで日産は新型ルークスの開発について、オンラインプレゼンテーションを行なった。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO &FIGURE◎日産
ミニバンの使い勝手 と 軽の運転しやすさ を両立した新しいカタチ
日産自動車は、3月19日に発売した新型ルークスの「開発」に的を絞ったオンラインプレゼンテーションを5月18日に行なった。プレゼン資料をパソコンやタブレット、スマホで見ながら、プレゼンターの説明を聞くスタイルである。資料に記してある前口上によると、新型日産ルークスのポイントは以下の3つだという。
・日本の自動車販売マーケットで約40%を占める軽自動車。そのなかで1番人気のカテゴリーが軽スーパーハイトワゴン(全高170cm以上の背の高い軽自動車)。ルークスはその新商品
・優れた走行性能とクラストップレベルの室内空間を実現
・数多くの先進技術を搭載
筆者はまだ実車を見ていないし、試乗もしていない(実車を見ていないので当然だが)ので、新型日産ルークスの商品概要を理解する目的でプレゼンテーションに参加した。
2020年3月の新車販売台数のデータを確認すると、1位はホンダN-BOXで2万2078台(スラッシュを含む)、2位はダイハツ・タントで1万7370台、3位はスズキ・スペーシアで1万6077台だった。いずれもスーパーハイトワゴンであり、断トツの人気ぶりがうかがえる。4位はダイハツ・ムーブ(1万4023台)、5位は日産デイズ(1万1612台)だった。
ルークスは3月19日の発売(2月25日発表)なのでランキング面では分が悪く、10位7633台だった。オンラインプレゼンテーション時点での受注台数は2万1000台だという。4月以降はトップ3の牙城を崩す勢いである。
競合の牙城を崩すつもりで開発を行なったのは間違いない。ライバルの強みを徹底的に分析し、弱みの解消に努めた。新型ルークスは「日産が得意なミニバン(セレナ)の使い勝手の良さと、軽(デイズ)の運転しやすさを両立した新しい形」を目指したと、セグメントCVEの齊藤雄之氏は説明した(3ページ)。
パッケージング上のポイントは、次の3点だ(4ページ)。
1. 前席の着座位置アップ→見晴らしを良くしたい
2. Bピラーを前出し→後席空間を広くしつつ、アプローチしやすくする
3. 後席ロングスライドの採用→荷室を広くしたい
上記3点を採用した理由について説明する。前席は着座位置を単純にアップしたわけではなく、前方に移動させながら持ち上げている。そのおかげで、「大人が足を組んで座れる」後席ニールームを確保したという(7ページ)。クラストップの寸法で、先代ルークスより81mm長い793mmに達する。750mmの現行デイズも長いが、それよりも長い。ぜひ、実車で確かめてみたい。
後席スライドを一番前にした状態で、荷室の奥行きは676mmに達する。先代ルークス比で+208mmであり、後席ニールームとともにクラストップだ。さらに、後席リクライニングを14度まで立てられるのが特長で、容量48Lのスーツケースを4個積むことができるという。他車は後席シートが寝ているので、3個までしか積めないそう。さらに、新型ルークスの場合はバーベキューグッズを満載したうえでベビーカーを積むことができるという。広々とした荷室は、実車で確かめてみたいポイント2である。
後席スライドの長さは旧型比で60mm長くし、320mmを確保した(8ページ)。ロングスライドレールには高強度のハイテン材を使用。ポイントはシートの折りたたみ方式を変更したことだ。先代ルークスはダイブダウン方式だったため、折りたたむのはいいが、元の戻す際に片手では厳しかった。新型ルークスはフォール&ストーと呼ぶ方式を採用し、片手でも楽に戻せるようにしている。実車で確かめてみたいポイント3としておきたい。
新型ルークスは、後席を倒したときの荷室長もクラストップを実現している。先代比+98mmで、1167mmだ(9ページ)。2WD車限定だが、ありがたいのは容量20L(先代比4倍)のアンダーボックスを備えていること。忘れないように、実車で確かめておきたい。
後席のロングスライドはニースペースの拡大や荷室を広げるほかにもメリットを生んでいる(11ページ)。後席を前方に寄せることで、運転席(あるいは助手席)から振り返った状態で後席に乗せた子供の面倒を見ることが可能になる。後席を小さな子供用に限定すれば、前にスライドさせた状態で使うことができるので、荷室を広く使うことができる。また、後席を後ろにスライドさせて足元に広い空間を作り、そこに買い物バッグやベビーカーを載せるといった使い方もできる。
荷室の使い勝手も考えており、新型ルークスでは「片手ですべての操作ができる」ようにした(12ページ)。後席シートバックにはそれぞれ2つレバーが付いており、左右別々にリクライニング操作とスライド操作ができる。先代ルークスは荷室側からスライド操作ができなかった。他車は荷室側からスライドできるが、片手ではできない。新型ルークスは軽い力でバックドアを閉じることができるようにしたという。これも実車で確かめておきたいポイントだ。
大開口のスライドドアを採用したのも新型ルークスの特長だ(13ページ)。「このクルマを企画するときに、女性のチームを作っていろんな議論をしました。その際、間口が広いほうがいいという意見がでました。なぜかというと、寝ているお子さんを起こすことなくそのままチャイルドシートに座らせたいからです」と、実験主担の永井暁氏は説明した。
Bピラーの前出しはスライドドアの大開口を実現するためだ。新型ルークスのスライドドア開口幅は先代比+95mmの650mmで、クラストップである。足元の幅も394mm(先代比+148mm)確保し、子供を抱いたまま、あるいは荷物を持ったまま乗り降りしやすくなっている。足元の通過スペースが広くなったのは、お年寄りにとってもありがたい。乗り降りのしやすさを助けるため、グリップを大型化したのもポイントだ。
ルークスはハンズフリーオートドアを採用している(14ページ)。Bピラーの下で足を抜き挿しすると、自動でスライドドアが開く機能だ。新型ではセンサーを2つ付けることにより、足の認識性を高め、誤動作を防ぐと同時に、足を入れれば確実にスライドドアが開くようにしたという。これも、実車で確かめることにしよう。
前席の着座位置アップについては冒頭で触れたが、新型ルークスのアイポイントの高さはクラストップで、先代ルークスより61mm高く、セレナより少し低い程度だそう(15ページ)。つまり、ミニバンレベルのアイポイントの高さであり、それゆえ、「非常に見晴らしが良く、視界がいいクルマになっている」という。これも、ぜひ実車で確かめてみたい。
新型ルークスは遮音・吸音にもかなり気を遣い、静粛性を向上させている(17ページ)。デイズで採用した防音対策に、独自の遮音・吸音材を追加。後席の静かさはクラストップだそうで、実際どうなのかが気になる。
スーパーハイトワゴンは広々とした空間を提供するのと引き換えに、動きが不安定になりがちだ。なぜなら、背が高くなることによって重心高が上がるからだ。とくに、カーブでのロール制御が厳しい(4名乗車した際はなおさらだ)。単純にロールを抑える方向でチューニングすると乗り心地が硬くなってしまう。新型ルークスでは、「カーブでの安定性と振動吸収性をうまく両立させたクルマになっている」(永井氏)という。これもぜひ、実車で確かめておきたいポイントだ。
ルーフ内蔵のリヤシーリングファンは先代ルークスも装備していたが、新型では小型化し、ルーフトリムと一体化させている(18ページ)。シーリングファンで室内の空気を循環させることにより、後席の冷房効果が飛躍的に高まる。これも、実車で確かめてみたい(確かめるのに最適な季節がやってくる)。オプション設定にはなるが、ロールサンシェードやUSBソケットが選択できるのは、新型ルークスのセールスポイントだ。
先進安全装備が充実しているのも、新型ルークスの大きな特長だ(20ページ)。対向車や先行車がいる部分だけロービームにし、その他の部分をハイビームにして夜間の視認性を高めるアダプティブLEDヘッドランプ(ALH)を採用(グレード標準)している(21、22ページ)。筆者の経験からいって、ALHは一度使ったらやめられない機能であり、付いていないと心細く感じるようになる。軽自動車でALHが選択できるのはありがたい。
デイズで軽自動車初搭載となった運転支援技術のプロパイロットは、ルークスでさらに進化している(23ページ)。デイズのプロパイロットはカメラとソナー(超音波センサー)による情報をもとに制御を行なっているが、新型ルークスはミリ波レーダーを追加した。これにより、よりスムーズな制御が可能になったという。例えば、「これまではワイパーを作動させるとステアリングの支援は切っていましたが、新型ルークスはそれができるようになっている」(齊藤氏)。
ミリ波レーダーを追加したことで、ルークスはインテリジェントFCW(前方衝突予測警報)を軽自動車として初めて搭載することができた。インテリジェントFCW は、2台前の車両を検知し、その車両が急減速すると、音と表示でドライバーに注意を促す機能だ。また、「先行車発進お知らせ」もデイズにはない機能である。
運転席ニーエアバッグをグレード標準設定(日産国内初)しているのも、新型ルークスの特長だ。下肢の障害低減と、身体が前に動くのを抑えるのが狙いである(24ページ)。
プレゼンテーションを受けてみると、新型ルークスは軽スーパーハイトワゴンの使われ方や課題を研究し尽くしたうえで導き出した改善点と新機能がふんだんに盛り込まれていることがわかる。「で、実際どうなの?」といった点は、実車で確かめてみたい。