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次世代水平対向エンジンへの提言(3)——組み立てカムシャフトで剛性を確保


次世代水平対向エンジンを仕立てるにあたり、OHVとすれば当然カムシャフトはクランク近傍に置くこととなる。限られた寸法のどこに通すか、キャリアの位置は確保できるか。それらを解決するための手段が組み立て式カムシャフトにあるかもしれない。


TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

 水平対向エンジンのシリンダーブロックは、クランクシャフトのメインジャーナル中心で左右に分割される。左バンクの燃焼室で燃焼が行われ、ピストンが押し下げられると、その反力は反対側にある右バンクのシリンダーブロックが受ける。右バンクで発生した燃焼圧力による反力は反対側の左バンクが受ける。直列でもV型でも、通常はシリンダーブロックの下にベアリングキャップを置いてクランクシャフトのメインジャーナル部分を支持し、燃焼の反力を受け止めている。しかし、水平対向エンジンはシリンダーブロックが「互いに反力を受け合う」構造だ。この点こそは、水平対向エンジンと「それ以外のエンジン」との決定的な違いである。




 次世代水平対向エンジンを「OHV化すべし」と提案するMFiは、現在のFB型エンジンの図面でOHVのためのカムシャフト位置を検討した。多少のボア径アップへの自由度を残しながらクランクシャフト回転半径ぎりぎりに左右ブロックの接合面を想定すると、(1)図のようになる。左右ブロックは直線で出合う。太鼓状に緩やかなカーブを描いて接するのではなく直線で結ぶ。その結果、左右のシリンダーブロックは合体後に長方形になる。

(1)図・シリンダーブロックとカムシャフトの位置関係はこのように考えた。線は筆者の手描きなので歪んでいるが、ご勘弁を。OHVは吸気/排気のバルブを1本のカムシャフトで動かすのが通例だが、吸気/排気それぞれにVVT機構を入れる関係から2本に分けた。これ、DOHV(ダブル・オーバー・ヘッド・バルブ)と呼んでいいのか……。この図面はFBエンジンのもの。本物です。(筆者撮影)

 その外側にカムシャフトの穴を設ける。吸気側カムシャフトはエンジンの上側であり(1)図では上側。排気側カムシャフトはエンジンの下側であり(1)図では下側。両方のカムシャフトは図に赤と青の線で描いたような「半割り」のブリッジ構造による固定で構わないが、カムシャフト前端と後端はシリンダーブロックに直に位置決めするか、あるいは別体のカムキャリアを用意して左右のシリンダーブロックを締結したあとにカムキャリアを取り付けるか……。

(2)写真・FB型エンジンのカムキャリア。シリンダーブロックにシリンダーヘッドを載せ、さらにその上にカムシャフトを支持するこのカムキャリアを載せる。(瀬谷正弘アーカイブス)

 (2)写真はFB型エンジンのカムキャリアだ。これは2気筒ぶん(片バンク)でありDOHCなのでカムシャフトを2本入れた状態でシリンダーヘッドの上に取り付ける。バルブを取り付け、燃焼室天井になる部分にこのカムキャリアを載せると(3)写真の状態になる。これがFB型エンジンのDOHCバルブトレーンだ。この状態ではカムシャフトは下側半分しか保持されていないので(4)写真のキャップをかぶせてボルトで留める。シリンダーブロックに取り付けた最終状態が(5)写真である。

(3)写真・FB型エンジンのバルブトレーン。1気筒当たり吸気2/排気2のバルブを取り付け、カムキャリアを載せ、1本だけカムシャフトを載せた状態。(筆者撮影)

この上からさらにカムシャフトを支持するキャップ(4)写真をかぶせて固定する。(筆者撮影)

(5)写真はFB型エンジンのシリンダーヘッドの最終的な状態。これが片バンクぶん。左右それぞれに同じものが要る。(瀬谷正弘アーカイブス)

 たとえば、OHV化にあたっては、こうした別体型のカムキャリアをシリンダーブロックに固定するという方法もある。筐体幅の広いカムキャリアにすれば左右シリンダーブロックの締結剛性アップにつながるかもしれない。ただし取り付け寸法は厳密に管理しなければならない。それともシリンダブロックにカムシャフトを支持する穴と突起を一体成形したうえで機械加工するか。

(6)写真・VWのEA211型3気筒エンジンは、ティッセンクルップが考案したまったく新しい組み立て方法によってシリンダヘッドを作っている。液体窒素で冷やしたカムシャフトをシリンダーヘッドの穴から通しながら、所定の位置にカム山を置き、つぎとカムシャフトに通してゆく。カムシャフトが温まって膨張するとカム山がしっかり固定されるという製造方法だ。もはやシリンダーヘッドは完全なメンテナンスフリーであるという前提の工法だ。(筆者撮影)

 (6)写真はVW(フォルクスワーゲン)EA211系1.0Lエンジンのシリンダーヘッドで、カムキャリアは半割りではなく一体型である。カムシャフト前端部分の穴も分割していない。カムシャフトをこの穴に通しながらカム山の部分を次つぎとカムシャフトに挿入するという新しい工法で作られている。この工法はドイツのティッセンクルップが考案した。水平対向OHVでもこの工法は使える。1本のカムシャフトを収容する一体型のカムキャリアにカムシャフトを仕込めばいい。分割タイプに比べてカムキャリアの剛性はアップするはずだ。




 もっとも、ここに掲げたようなエンジン設計にしたら生産技術部門は大変な騒ぎになるだろう。左右シリンダーヘッド接合面に3つの「穴」が形成されるとか、シリンダーブロックをスリムにしてその側面(上下面)にカムシャフト駆動メカと取り付けるとか、いずれにしてもいまのFA/FB型に比べて製造の手間が増える。




 クランクシャフトのための穴は従来からの水平対向エンジン同様にメインジャーナルを受けるベアリングキャップを兼ねる。カムシャフトは前述のように「2つ割り」の軸受けか、あるいは別体型もで構わないが、高い組み付け精度が要求される。シリンダーヘッドからはカムシャフトがなくなるが、気筒当たり4個のバルブとOHVのためのロッカーアームが要るから、シリンダーヘッド側の製造の手間は変わらない。




「ダメ、こんなエンジンは作れない」


「いや、EJ20の技術資産があるでしょ。作れないはずはない」




 初期構想の段階で会議は紛糾するだろう。なぜかといえば、前述の水平対向エンジン「ならでは」の左右ブロック「もたれ合い」構造に加えてカムシャフトまでエンジンブロック側に持たせるからだ。

(7)写真・Aの位置に吸気側カムシャフト、Bの位置に排気側カムシャフトを置き、ここから左右バンクにプッシュロッドを伸ばし、1本のカムシャフトで左右バンクのバルブを動かす。Cの寸法は縮めなければならない。(瀬谷正弘アーカイブス)

 (7)写真はEJ20型エンジンのシリンダーブロック半分だ。この正面の面で左右のシリンダーブロックが合体する。この写真に我われが提案するOHV化のための加工を施すと、Aが吸気側カムシャフト(エンジン上部)の軸中心、Bが排気側カムシャフト(エンジン下部)の軸中心になる。冒頭に書いたようにボアアップのための余裕を少し残し、クランクシャフトが回転してもぶつからないギリギリの距離よりも寸法には余裕を残す。(1)図とセットでご覧いただきたい。




 また、(7)写真の寸法Cは、メインベアリングとシリンダーブロックの左右合体ボルトの位置関係を示す。OHV化してカムシャフトをシリンダーブロックに抱かせるとなると、このスパンは縮めなければならない。左右ブロックの締結方法は再検討になる。

(8)写真・図面で見るとクランクシャフトは短い。しかしクランクシャフト単体では(9)写真のようにピストンとつながるコンロッドを取り付ける部分であるクランクピンは、クランクシャフトのメインジャーナルとわずかなオーバーラップしか与えられていない。この点が水平対向エンジンの設計のむつかしさである。(筆者撮影)

(9)写真:FB型エンジンのクランクシャフト

 (8)図もFBエンジンの図面。これに描かれたピストンとクランクシャフトの位置関係を見ると、水平対向エンジンのタイトな設計がよくわかる。下死点にあるピストンは、向かい合ったシリンダーのクランクシャフトをギリギリでクリアしている。当然、次世代水平対向OHVもタイトな設計は踏襲する。(9)写真はFB型のクランクシャフトである。

(10)写真・過去に何度か取材したEJ型時代のエンジン製造ライン。スバルの大泉エンジン工場は、かつて中島飛行機時代には機体製造ラインがあったところだ。その広大な敷地は、かつて長さ1,500mの滑走路があったことを思い起こさせる。

 (10)写真はかつてのEJ型生産ラインである。奥に6気筒のEZ36型が見える。左右のシリンダーブロックはこのように合体される。締結面は十分な強度を確保できるよう設計されている。このいシリンダーブロックの形を変え、シリンダーブロックにOHVのためのカムシャフトを2本取り付ける。エンジン下側にカムシャフトを置くついでに潤滑はウェットサンプをやめてドライサンプにする……そんなことを割れわれは考えている。(つづく)

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