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〈ボルボS60 T8ポールスター・エンジニアード〉現実のクルマに求める「モノとコト」が大きく変わるきっかけ【試乗インプレッション】


PHEVといえば優しいクルマと認識しがち。もちろんそれはまったく間違ってはいないが、高い環境性能、経済性を持ちながらも圧倒的な性能を得るのもまたPHEVの数あるポテンシャルのひとつでもある。その高い技術性能を見せつけるのがこのT8ポールスター・エンジニアードだ。




REPORT●河村 康彦(KAWAMURA Yasuhiko)


PHOTO●中野 幸次(NAKANO Koji)/花村英典(HANAMURA, Hidenori)




※本稿は2020年1月発売の「ボルボS60のすべて」に掲載されたものを転載したものです。

希少なセダンにハイエンド・スポーツモデル

 日本導入のボルボ車の中にあって、現在唯一のセダンがS60。ラインナップの展開に「SUVこそが主役」という今の時流を感じずにはいられない一方で、そうした時代に敢えて登場したセダンであるからこそ、そこには強い自信のほどが伺えることもまた事実だ。




 日本仕様のS60は、チューニング・レベルの異なる2ℓのターボ付き直噴4気筒エンジンをシーケンシャル・モード付きの8速ステップATと組み合わせて搭載するFWDモデルと、同じく2ℓの直噴4気筒ユニットにターボチャージャーとメカニカル・スーパーチャージャーの“デュアル過給”を図ったエンジンを、前出8速ステップATとのコンビネーションでハイブリッド・システムに組み込んだ4WDモデルという、2タイプに大別が出来る。




 ちなみに、プラグイン(外部充電)機能付きのバッテリーを搭載する後者は、後輪駆動力をモーターで発生。すなわちエンジンが停止した“EV走行”状態では、RWDとなるのもユニークな特徴だ。




 ここに紹介するのは、かつてはボルボのハイパフォーマンスカー部門として名を馳せ、後に「高性能なエレクトリックカーの専業ブランドになる」と表明した“ポールスター”が、ボルボでは『ツインエンジン』を称するプラグイン・ハイブリッドモデルに様々なチューニングを行なった、新型S60のトップパフォーマーでありイメージリーダーと位置付けられた限定モデルである。

専用の精悍さに仕立てられるインテリア。S60としてインテリアに求めているのは、素材感。極めてシンプルな造作の中で素材感、カラーの明確なチョイスをすることによって、ポールスター・エンジニアード の世界観を生み出している。

 長いノーズと前出しされた前輪位置などが演じるスラリと伸びやかなプロポーションを備え、一見では「パワーパックを横置きとしたFFレイアウトがベース」ということが信じられないほどにダイナミックかつ流麗なS60。そこに、“走りのモデル”としての迫力と精悍さが加えられているのが、ポールスター・エンジニアードだ。




 フロントグリルや前後バンパー、ブラックのドアミラーケースやサイドウインドウ・フレームなどは専用アイテム。シリーズ中で最大の19インチ鍛造アルミホイールと、スポーク間からチラリとその姿をのぞかせるゴールドに彩られたフロントはブレンボ製が奢られたブレーキキャリパーが、強靭なシャシー性能をアピールする。

 専用のフロント・ストラットタワーバーによって補強がなされたボディに組み込まれるのは、ボルボ様スウェーデンに居を構える名門サスペンション・ブランド『オーリンズ』と共同開発を行なったというアジャスタブルダンパーと強化されたスプリング。ダンパーは、ピストンスピードが速い領域では過大な減衰力を抑え、ピストンスピードが低い領域でのしなやかさをキープしながら高い運動性を両立させると謳う“DFV(デュアル・フロー・バルブ)テクノロジー”が採用されたオーリズならではのアイテムだ。




 テキスタイルとナッパレザーのコンビネーションによるいかにもホールド性の良さそうな造形のシートへと腰を降ろし、ドライビング・ポジションを決める。ゆったりしたサイズと各調整幅の大きさは、ボルボ車のシートの良き伝統だ。




 “スウェディッシュ・デザイン”ならではのシンプルでクリーンな仕上げの中にも、チャコールを基調としたインテリア・カラーやゴールドのシートベルトが“走りのモデル”らしいスパイスを効かせるのがこのグレードならでは。ブレーキキャリパーにも採用されたゴールド色は、ポールスターの新たなコーポレートカラーなのだ。




 フロント左右席を分断するかの高いセンターコンソールは、内部に駆動用バッテリーを収めるためのデザイン。ポールスターでは物入れとしての容量が限られてしまうのは残念だが、このレイアウトのお陰で後席居住性やトランク容量が殺がれていないのは、評価すべきだ。




 そんなバッテリーを含むハイブリッド・システムや後輪駆動系の採用もあり、車両重量は2トン超とそれなりの重量級。しかし、Dレンジをチョイスしてスタートを切ると、その加速感に“重さ”は一切認められない。2ℓという排気量が俄かには信じられないこの力強さは、メカニカル・スーパーチャージャーがごく低回転から過給を開始しているからでもあるはずだ。

スポーツモデルながら街中はEVでこなすほどの二面性も

 一方、充電状況が良好であれば街乗りシーンの殆どを“EV”として走り切ってしまう2面性も、ライバル不在を実感させる大きな要因。後輪用モーターは65kW(88㎰)の最高出力と240Nmの最大トルクを発する能力を備え、「特に急ぎ」という場面以外は、大半のシーンを“エンジン不要”でこなしてしまうのだ。




 と同時に、エンジンがそのポテンシャルをフルに発揮した場合の速さも特筆もの。専用チューンが施され最高出力が333㎰にまで引き上げられたエンジンを含むシステムトータルでの最高出力は実に420㎰!




 実際、常にエンジンを稼働させる“ダイナミック”のモードを選択した場面での加速能力は、まさしくスーパースポーツカー級と言っても過言ではないものなのだ。




 そんなこのモデルのフットワークはそれなりにかための設定で、時に揺すられ感も強め。一方で、舵の正確性はすこぶる高く、走りのペースを高めて行っても決して狙った走行ラインを外さない。

専用設計のブレーキはブレンボ製の6ピストン式。イエローゴールドのキャリパーが印象的だ。サスペンションには同じスウェーデン生まれのブランド、オーリンズ製可変ダンパーを採用。さらにストラットタワーバーも備えてハイスペックの走りを支えている。

 印象深かったのは、1年前にアメリカで開催された国際試乗会で乗ったモデルに比べると、今回テストドライブを行なったモデルでは、ブレーキのペダルタッチとコントロール性が大幅に改善されていたこと。当時は「まだプロトタイプで、この先リファインを続けて行く」と“但し書き”が付いた状態だったが、そんな予告は確かに成し遂げられた。




 むしろ、今回チェックしたモデルでのブレーキのフィーリングは、「スポーツセダンとして世界トップレベル」と、そのように評価出来るものだった。

電動アシストによって、高回転域のトルクアシストも確保。並みのスポーツカーでは得られない異次元の加速も隠れた愉しみのひとつともいえる。

 EVとしてのおだやかな振る舞いと、圧倒的なエンジンパワーに支えられた硬派なスポーツモデルとしてのキャラクターを両立させたS60ポールスター・エンジニアードは、現存する世界のセダンの中にあっても個性際立つ1台。「世界の市場で奪い合い状態になった」というのも、なるほど当然と納得だ。

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