マツダの電子制御四輪駆動システム、i-ACTIV AWDにオフロードトラクションアシストと呼ばれる新機能が加わった。この新機能が実装されるCXシリーズの実力をオフロードコースで体験。舞台となったのは山梨県の富士ヶ嶺オフロードだ。
TEXT&PHOTO:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI)
PHOTO:MFi
FIGURE:相田 悟(Satoru AIDA)
車両運動制御に用いるブレーキ制御技術でオープンデフにLSD機能を追加
マツダのAWDモデルにはi-ACTIVAWDと呼ばれる電子制御式の四輪駆動システムが採用されている。電子制御により4つの車輪のトラクション状態をきめ細かく、また最適にコントロールすることで、走行性能の向上だけでなく燃費効率の向上にも生かすという思想が盛り込まれており、CXシリーズのようなSUVだけでなく、MAZDA3などのモデルまで広くに搭載。横置き配置のFFパワートレーンを基に、ベベルギヤ機構からなるPTO(パワーテイクオフ)で後輪向けの駆動力を取り出し、ドライブシャフトを介して伝達、リヤデフユニットと一体のボールカム(またはテーパーローラーカム)機構付き電磁クラッチを用いて後輪に振り分けられる駆動力の割合をコントロールするという、四輪駆動システムのなかでも、いわば“オンデマンド式” に分類されるものだ。
本格的なクロスカントリー車が採用する“センターデフ式” や“セレクティブ式”(必要時のみカップリングを接続して直結式AWDとするもの)と比べると構造が簡易なオンデマンド式は、オフロードにおける走行性能には及ばないというのが一般的なところだが、それもCX-30から採用が始まったオフロードトラクションアシストと呼ばれる新機能により、大きく変わるかもしれない。ちなみに、この新機能は商品改良を受けたCX-8、CX-5にも新たに実装。主たる目的は悪路走破性の向上だ。
2019年12月、こうしたCXシリーズへのオフロードトラクションアシストの実装を背景に、報道関係者向けのオフロード試乗会が開催された。そこに並んでいたのは前述の3モデルだったわけだが、驚いたことに試乗に供された車両が履いていたのは新車に装着されるノーマルのロードタイヤ(いわゆる夏タイヤ)。なにしろ試乗の舞台となったのは、かなり本格的なオフロードコース、そのうえ筆者の試乗時は直前までの雨があがったばかりという、ある意味かなりハードなコースコンディションだったのだ。
しかし、走り出すとそれまでの懸念はあっという間に吹き飛んだ。スイッチ切り替え式のオフロードトラクションアシストをONにすると、スリップのないイニシャルの状態から後輪へのトルク配分が増やされた状態となるとのことで、最初に試乗したCX-5は壁のようにしか見えない数十メートルもの急坂を、難なく登りきってしまう。もちろんスイッチはONの状態だ。リヤタイヤがしっかりと掻きながらトラクションを稼ぐ様子がシートを通してでもわかる。
CX-5に限らず、i-ACTIV AWDでは前後ともにLSDなどの作動制限機構は装備せず、オープンデフを採用する。これは街乗りでの使い勝手と燃費を意識した選択の結果だが、悪路の走破性の面では有利とはいえない部分。とくに今回の試乗のような滑りやすい路面コンディションでは、空転輪側に駆動力が集中してしまい、充分なトラクションが得られなくなるという問題が起きやすい。そこでオフロードトラクションアシストでは、こうしたオープンデフゆえの問題を補うための機能も盛り込まれている。
具体的には、空転輪にトルクが集中する状況が発生すると、その空転輪のみにブレーキをかけて空転を止めることで反対側の車輪に駆動力を廻す。ブレーキ制御でLSDと同等の効果を生み出すのである。CX-8では三輪状態となるモーグルコース(左右互い違いの凹凸が連続するコース)での走行も体験したのだが、空中に浮いた車輪の空転をブレーキで押さえつけながら、反対側の接地輪に駆動力を集中させ、力強く前進していくさまは豪快そのものだった。
このように、アーバンイメージの色濃いCXシリーズのオフロード走行を一変させる、オフロードトラクションアシストだが、じつはその“正体” は制御ソフトウェアだ。実際それを裏づけるように、当日試乗に供された車両のうちCX-5/CX-8では商品改良前のモデルの制御ソフトウェアを書き換え、切り替えスイッチを追加したものも用意されていた。これまで比較的“ライトな” 立ち位置とされてきたオンデマンド式AWDだが、電子制御技術の進歩を背景にその常識も大きく変わりつつあるようだ。