ドイツのメガサプライヤー、ZFはCASE時代に全方位で対応できる技術ポートフォリオを持っている。同社が注力する4分野はビークル・モーション・コントロール/自動運転/統合安全/電動化である。得意とするトランスミッション、サスペンション、ステアリング技術はもちろん、センシング、電動化技術も一流だ。今回は、とくに「電動化」に絞ってレポートしよう。
メルセデスEQCの電動ユニットはZF製
メルセデスの市販EV、EQCの電動ドライブユニットはZF製だ。150kWのElectric Axle Drive(eVD2)を前後に2基搭載している。ZFは出力80kWのタイプや2段変速機付きのタイプの電動ドライブユニットを開発中だ。EQCを初めてドライブしたが、出力の制御の緻密さ、レスポンスの良さ、ともにメルセデスの名に恥じない仕上がりが印象的だった。
AMTと電動アクスル(eVD2)を合わせる新発想
1.5ℓディーゼルエンジン搭載のダチア・ダスター(FF)のリヤアクスルに、メルセデスEQCが積むのと同タイプのeVD2を載せている。トランスミッションは、AMT(オートメーテッド・マニュアル・トランスミッション)を使う。AMTは、マニュアルトランスミッション・ベースで比較的安価、伝達効率が高いのが長所だが、変速時のトルク切れという弱点がある。その弱点をモーターで補うという発想だ。
アクセルを踏んで加速する際、アップシフト時のトルク切れの時間をモーターの駆動力で補う。リヤのモーターをエンジンと同等の出力で変速時間中(クラッチでエンジンは切り離されているので、エンジンからの駆動力はない状態)に駆動させることで、トルク切れ(駆動力切れ)とシフトフィールの改善を図る。モーターの出力はエンジンに合わせて90kWに出力を抑えられていた。
もちろん、PHEV化も可能でフロントはエンジン、リヤは電動のAWDとしても使える。後席に搭載された電池で最大51kmのEV走行もできる。
BMW、FCAの採用も決定。2020年代のFR用トランスミッションはこれ
ZFといえば、まず思い浮かべるのは「トランスミッション」だ。ZFは、「ツェッペリン飛行船用のギヤ(歯車)」の製造から始まった会社だけに、この分野は非常に強い。とくに、縦置き用(FR車向け)の8HP(8速オートマチック・トランスミッション)は、世界中の高級車のスタンダード・トランスミッションとなっている。コンベンショナルな(つまり電動デバイスなしで)8HPは現在第3世代(Gen.3)に切り替わりつつある。トヨタ・スープラ/BMW Z4、3シリーズなどが採用しているのが、これだ。
Gen.3の8HPが採用され始めたばかりだが、ZFはGen.4の開発を進めている。Gen.4をベースにPHEV向けにしたのが、「8HP Gen.4 PHEV版」だ。ギヤ段数は8速のままだが、レシオカバレッジはさらに広がる。PHEV版の実機は日本初公開だ。
このGen.4の8HPはすでにBMWとFCAに供給が決まっている。モーターの性能は現行(BMWの5シリーズや7シリーズのPHEVモデルが使う)の90kW/240Nmから150kW/450Nmへと引き上げられ、トランスミッションのレシオカバレッジも広がる。コンベンショナルな8HPと48VマイルドHEV用、そしてこのPHEV用を同じサイズ内で作り分けられるのも新世代の特徴だ。PHEV仕様は80-100kmのEV走行が可能になるという。
CO2削減効果(つまり燃費の向上)は絶大で、Gen.3のコンベ版を基準にすると
・Gen.3+BSG(ベルトドリブン・スターター/ジェネレーターを組み合わせたマイルドハイブリッド)で最大6g/kmのCO2削減効果
・Gen.4+BSGで最大7g/kmのCO2削減効果
・Gen.4P2システムで最大15g/kmのCO2削減効果
そしてこの
・Gen.4 PHEV仕様だと具体的な数字は明らかにしていなかったが、エンジニアによれば「60-70%の削減効果がある。WLTPモードで2-3ℓ/100kmの燃費向上になる」という。
このGen.4の8HPは2020年代の縦置きトランスミッションの標準となるだろう。電動化の程度で、コンベンショナルー48V・BSGマイルドハイブリッドー48V・P1/P2ハイブリッドーPHEV仕様を選択可能としている。登場が楽しみなトランスミッションだ。
CeTrax lite 小型商用車も電動化へ
いすゞ・エルフをベースに電動化した車両総重量5トンの小型トラック。150kW/380Nmの誘動モーターを使ったCeTrax lite(セトラックス・ライト)は、モーター、インバーター、減速機、冷却システムを一体で設計することでユニット重量120kgと軽量に仕上がっている。コンビニへの深夜配送や狭い路地を走行する宅配便などでの使用を考えているという。