かつて、子どもたちの憧れであったFRと大パワーの組み合わせであるスポーツカーは、モーターショーなどでは人垣のできる大人気モデルだった。しかしいまどきそんな乱暴な方程式は通用しないのか、走って愉しいスポーツモデルは減少の一途をたどっている。だが、時代に逆行するかのように、古き良き時代のスポーツカーが復活した。日産・新型スカイラインだ。ラインモデルとしては初導入となったスポーツモデル、400Rに自動車評論家の瀨在仁志が試乗した。
TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO:MF.jp
いまのクルマは魅力的なのか
東京モーターショーがお台場の広い範囲で開催された。オリンピック開催に向けて東展示場が使えなかった苦肉の策のようだが、ひと駅分は確実に分散した会場の移動には参った。そうでなくたってヒューマンモーターショーと豊田社長が話しているように、CASEを中心としたコンセプトモデルが中心。デジタル世代の子どもたちにクルマへとつなげる機会を作ることは良いアイデアだが、肝心のクルマが遠い会場にあるようでは実感もわかないだろう。アナログ世代にとっても仮想社会のクルマよりも、目の前にある社会を走り回れそうな元気なクルマを見たかった。せめて仮想と現実を繋いでくれるような演出があれば、想像力も沸くってものだが、ドライバー不在のクルマに興味は抱けなかった。
そんな思いを吹っ切らせてくれたのが今回試乗したスカイライン400Rだった。2019年7月にビックマイナーチェンジを行なったスカイラインは、インフィニティから日産へと意匠替えを行ない、同時にスポーツモデルとしてRの名を冠したモデルを投入。以前にもNISMOからコンプリートモデルとして400Rの投入はあったものの、ラインモデルとしては初めてだ。
FR+大パワーに心が踊る
搭載されるエンジンはほかのターボモデルと同じ、3.0ℓV6ツインターボVR30DDTTながらも、その名が示すように304psから405psへとパワーアップした。3割以上の強化バージョンはカタログモデルとしては記憶にない。しかも、駆動システムはFR。R34までのGT-Rが280ps、R35の初代モデルで480psだったことを考えると、FRにこのパワーはただ者じゃあない。
確か、R32GT-Rが投入されたとき、エンジニア氏はリヤ駆動ではこのパワーを受け止められないから、フルタイム4WD化は避けられないと言っていた。もちろん30年も前のことだから当然の選択だったろう。だが、このFRのスカイライン、遡ってみれば源流は2001年にデビューしたV35型にある。優に20年近くも前のシャシーに405psのパワーを組み合わせたのだ。年々進化しているとはいえ、一輪あたり200psを受け持つ走りは想像するだけでも身震いがする。
単純には比較できないが4輪で駆動力を受け止めるGT-Rに換算すれば800psのパワーが与えられたようなもんだ。
ひと言で言えば現代によみがえるスカイラインGT-R。FRと大パワーの組み合わせは、スペックこそ子どもたちの憧れ、象徴だった古き良き時代のスポーツカーの証だ。モーターショーでは、こんなクルマこそが人垣のできるモデルだったが、いまじゃ、そんな乱暴な方程式は通用しないのか、どこにも見かけることはできなくなった。
スペックだけではなく、走りもホンモノか?
乗ってみれば期待どおりの走りを見せてくれた。一見すると普通のスカイラインと変わりなく、ブレーキキャリパーとエンブレムの赤が特別な存在を表す程度。街乗りも普通にこなせるし、乗り心地も他のモデルよりも良く感じた。足元がスクスクと動いてランフラット特有の突き上げ感が少ない。むしろたわまぬタイヤが上手にサスペンションを押し上げてくれている印象で、ボディの上下動自体はうまく押さえ込まれている。
405psのパワーを感じるのは料金所などからの不意打ち加速の時だ。合流にあわせていつもどおりアクセルを踏み込むと、下からレスポンスよくパワーを引き出し、瞬時に加速体制に移る。
なによりも吹け上がりが早い。秒殺の加速感で合流ポイントにスパッと落ち着く。雨でも降っていようものなら、リヤはズルッと滑り出し、まるで直ドリ状態。それでも大きなステアリング修正をしなくていいのは時代の進化だ。リヤサスは常に大パワーを受け流すように上下左右に柔軟に動く。聞こえは良いが、ひと言で言えばパワーに負けている。ボディはイマ風にしっかりと作りこまれしっかり感はアップしているものの、お尻の下はいつもムズムズと動いている。結果、力は放出されてパワーとのバランスをとっている。
この瞬間だけでもスポーツカーに乗っている、という感動がある。しかも法定速度内で起きるから迷惑もかけず、自分ひとりのパフォーマンスを味わえることも特筆すべき点であろう。これが現代版スポーツカーなら、サーキットでないと体感も感動もできない。だが、400RはFR大パワー故にちょっとした遊び心を許してくれる。運転初心者でもパワーを実感しやすいし、年配の人にはパワーが勝っている時代のスポーツカーを思い出し、かみしめるようにエンジンフィールを楽しめる。
もちろん、ゆっくりと走っていたってエンジンの良さは実感できる。レスポンスの良さに加えてじつにスムーズ。エンジンの振動が感じにくく、V6特有の吹け上がりの波がない。どこから踏んでも精緻な吹け上がりを見せてくれる。加えてターボが間髪入れずにサポートに入るから質の良い自然吸気エンジンのよう。RB26の剛性感と伸びの良さに加えてVR38の切れ味を併せ持つ、といっていい。だからどこでも誰でも気持ちよさを味わえる。
これはまさしく、復活だ!
ワインディングで踏んでいくとパワーよりもハンドリング性能に驚かされる。ステアリングを切るとスパッとインを指す。それも拳ひとつぶんくらいで敏感に反応する。ステアリングギヤレシオがクイックであってこそスポーツカーといった古典的な味つけが懐かしい。
専用チューンが施されたアクティブダンパーが速い動きに対して即座に接地性を高め、Gを落ち着かせるなど、切れ味の鋭い演出と最新技術が安全を担保するなどの芸もある。お尻の下がムズムズし、ステアリングの切れ味を懐かしみ、打てば響くエンジンの吹け上がりに感動する。
400Rは周りを圧倒した走りを与えてくれた当時のスカイラインファンを納得させる懐かしのFRスポーツ。正に『スカG』の再来。パワーも技術も頂点を極めつつあるスポーツモデルが雲の上の存在になっているいま、原点回帰した400Rこそ救世主になってくれる気がする。スカイラインは親父のクルマから、確実に身近な存在になってくれた気がする。CASEも大事だが、一方では走ってなんぼ! を実感できるこんなクルマ作りも重要だ。シャシーは古くさいがエンジンは最新作とも言える気持ちよさ。このアンバランスもまた、手なずける醍醐味があって最後までドライブを楽しめた。しかも、セダンだから3人乗車で!
これまさしく伝説のスカG『箱スカ』の復活なのだ!
日産スカイライン400R
全長×全幅×全高:4810mm×1820mm×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1760kg 前前軸重:1000kg 後後軸重:780kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式 Rマルチリンク式
駆動方式:後輪駆動
ステアリングギヤ形式:ラック&ピニオン式
ブレーキ:FRベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:245/40RF19
室内長×室内幅×室内高:2000mm×1480mm×1180(1160※)mm
※サンルーフ装着時
エンジン
形式:V型6気筒DOHC直噴ターボ
型式:VR30DDTT
種類:筒内直接燃料噴射V型6気筒(DOHC)
排気量:2997cc
ボア×ストローク:86.0×86.0mm
圧縮比:10.3
最高出力:405ps(298kW)/6400rpm
最大トルク:475Nm(48.4kgm)/1600-5200rpm
燃料:プレミアム
燃料タンク:80ℓ
燃費:WLTCモード平均燃費:10.0km /ℓ
最小半径:5.6m
変速比・最終減速比
トランスミッション:マニュアルモード付フルレンジ
電子制御7速オートマチックトランスミッション
変速比
前進:1速 4.783/2速 3.102/3速 1.984/4速 1.371/5速 1.000/6速 0.870/7速 0.775
後退:3.858
最終減速比:3.133
車両本体価格:562万5400円
試乗車両価格(オプション込):612万0082円