単なるフルモデルチェンジを超越し、歴史的な変革を遂げて登場した新型タント。
クルマづくりのスタンスを一新し、開発のスピードアップを狙うダイハツの意志が宿る仕上がりを見る。
TEXT●松井亜希彦(MFi)
PHOTO●MFi / DAIHATSU
“スーパーハイト系” という新ジャンルを、軽自動車カテゴリーに創出したダイハツ・タントが7月にフルモデルチェンジを実施、四代目へと進化した。外観こそキープコンセプトといえる緩やかな変化に留まっているが、今回の最大のキーポイントは、その中身にある。DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)と命名された開発手法により、全コンポーネントを同時に刷新した完全新設計プラットフォームを採用しているのだ。
通常の開発では、一部のユニットは流用するのが当たり前であり、さまざまな制約が生じていた。しかし今回は10年後でもトップレベルの性能を持つことを目標とし、妥協のない設計を実施。また、軽自動車で「最小単位」を極めたうえで、小型車まで設計思想を共通化する「一括企画・開発」手法を採用することで開発のスピードアップも図る。ダイハツは2016年8月にトヨタの完全子会社となり、グループとして新興国で需要拡大が予想されている小型車の開発に積極的に取り組んでいるが、従来は日本向け商品の技術を後から新興国向けに展開していた。DNGAでは日本と新興国が同時の「一括企画・開発」にチャレンジすることになる。
具体的にはエンジンやサスペンションの取り付け位置、骨格配置、着座位置など、共通化できるサイズや位置をあらかじめ設定し、性能や仕様まで含めて一括で企画。今後すべてのダイハツ新型車をこの設計思想に基づき相似形で開発し、「良品廉価」と開発の効率化を狙う、というものだ。
このDNGA第1弾として誕生した新型タントだが、試乗して印象的だったのはロールの少なさである。新プラットフォームではサスペンションからまず開発に着手したとのことで、安定感と乗り心地を最優先したジオメトリーを追求。これを前提としてシャシー部品の構造を合理化し、部品点数を削減することで軽量化を実現している。サスからの入力を受けるフロントとリヤの着力点間をスムーズに結合し剛性も高めることで、サス応答性が格段に向上した。
また、アッパーボディのハイテン材率を約10%高めたほか、樹脂部品の活用や板厚の最適化により、基本骨格部分で先代タントからじつに80kgもの軽量化を実現。これらの相乗効果によりロールセンター高の低減を実現。スーパーハイト系の弱点とも言えた腰高な印象は薄くなり、乗員の視線ブレが少ないフラットな乗り心地を得ている。
さらにボディ各部の製造作業用の穴の数を減らすとともに、防音材の配置も見直すことで、路面走行音などの車内への侵入を抑えるなど、遮音性もクラス標準を上回った仕上がり。運転中は安定した挙動のハンドリングと相まって、以前の軽自動車のイメージとは大きく異る印象を受ける。ベビーカーを積む子育て世代向けのクルマから、すべての世代に向けた「新時代のライフパートナー」を目指して生み出された新型タント。月間販売目標台数は1万2500台という、高い数値を掲げている。