「グローバルに活況を呈するSUV市場において、それぞれに個性的な魅力を放つ4モデルを分析する」日本市場から姿を消していた空白期間を、さらなる性能と質感の向上に充てたCR-Vは、モデルラインナップの中核を担うミドルサイズSUVとして、国内外で実績十分のライバルと比べてどうなのか? その走りと質感を確かめた。
REPORT●石井昌道(ISHII Masamiti)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)/神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
※本稿は2018年9月発売の「新型CR-Vのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
人気のミッドサイズSUVは各社の屋台骨を支えている
ここ最近はブームが過熱して増殖の一途を辿るSUVだが、中心的な存在のミッドサイズSUVはそれなりに歴史があり、すでに確立されたジャンルと言っていいだろう。CR-Vは1995年に誕生し、トヨタRAV4とともにモノコックを用いたシティ派SUVの礎を築いた存在。2000年登場のエクストレイルは販売台数ナンバー1を長く続けた、今の日産乗用車の顔とも言える。1997年登場のフォレスターは、当初こそステーションワゴンの背を高くしたクロスオーバーだったが、三代目からSUV然とし、スバル得意のAWDシステムが最もマッチするモデルとなった。CX-5は2012年以来のマツダ新世代商品群の中で最も成功したモデルであり、今やまさに屋台骨。どのモデルもメーカーにとって重要な存在であり、それだけに気合いが入った開発がなされている。
今回はCR-Vの試乗車が1.5ℓ直噴ターボということもあってライバル車もガソリン車で揃えている。CR-V以外はNAエンジンでエクストレイルは2.0ℓ、フォレスターとCX-5は2.5ℓ。トランスミッションはCX-5だけが6速ATでその他はCVTとなっている。
登場以来長く日産SUVの顔として継続した人気を誇る
エクストレイルはガチンコ比較では少々不利かもしれない。現行モデルは2013年の発売以来、走りの面での改良はなく、エンジンの排気量も小さいからだ。だが、CVTは効率良くエンジンの力を引き出すので絶対的なパフォーマンスとしては大きな不満を抱くことはなかった。ただし、2.0ℓ NAエンジンは最大トルク発生値が4400rpmで、日常的な走行でよく使う低回転域ではセンの細さを感じてしまう。巡航走行時はエンジン回転がスッと2000rpm以下に落ちるが、そこではトルクがあまりないため、ちょっとした加速でもギヤ比が変わってエンジン回転数を持ち上げる。コロコロとギヤ比が変わるので、ダイレクトな感覚が得づらいのだ。これはCVTの宿命でもある。
だが、CVTの悪癖と言われる加速時のラバーバンドフィールは巧みに抑えられていた。全開で加速すると2500rpmあたりから回転上昇と加速がリニアになり、6000rpmをちょっとオーバーして約60㎞/h。そこでシフトアップして5500rpmに落ちて再び加速していく。有段ギヤのようなステップ制御のため、間延びした感覚がなくダイレクト。日常でも使うハーフアクセルでの加速の時にもステップ制御となって4500rpmぐらいでシフトアップしていく。加速におけるCVTのネガはない。
シャシー性能は、少々古いためにあまり期待はしていなかったが、ソフトタッチで乗り心地は良かった。特にタウンスピードでは細かな凹凸から大きな段差までサスペンションがスムーズにストロークして快適だ。ただし、速度を上げてコーナーへ差し掛かると、はっきりとSUVらしいロールを見せる。攻めるような走りに対してはタイヤから早めにスキール音が出てきて「あんまり無理しないで」とクルマが言っているかのよう。高速道路の速度域でも普段は問題ないが、風や路面の荒れなど外乱が大きくなってくるとボディの揺れもそれなりに感じるようになるので、あまり飛ばす気にならない。
日産X-TRAIL 20X(4WD 3列シート)
直列4気筒DOHC/1997㏄
最高出力:147㎰/6000rpm
最大トルク:21.1㎏m/4400rpm
JC08モード燃費:15.6㎞/ℓ
車両本体価格:282万7440円
ドライビング・プレジャーにあふれる痛快な走りが魅力
それに比べるとCX-5はオンロードでのスポーティな走りが痛快だった。今回の試乗車は大きめの19インチ・タイヤを装着しているため、路面によってはタイヤがゴツゴツと感じられた。サスペンションもそれなりに引き締まっていて、路面の凹凸が大きなところでは入力がちょっときつい。だが、サスペンションの動き自体はスムーズで、ボディがしっかりしているのでさほど不快には感じさせない。スポーティで質感の高い走りを見せつけるのは、さすがドライビング・プレジャーにこだわるマツダだ。
高速道路ではビシッと安定していて外乱にも強い。ステアリングは中立がわかりやすく、微舵領域での動きも良好。曲がり角やコーナーの後のステアリングの戻りも自然な感覚で運転がしやすい。圧巻なのはハンドリングだ。コーナーへ向けてステアリングを切り始めると、スーッと外側前輪のタイヤに荷重が乗って路面を捉え、過敏でもなく鈍重でもない、まさにジャストな感覚でねらったコーナリングラインへ乗せていける。ガンガンと攻めていってもSUVらしからぬ身のこなしでついてくるから楽しめるが、それよりもむしろ、ヨーロッパのカントリーロードを思わせる、中・高速コーナーの連続を適度なペースで走らせている時が最高に気持ちいい。いいクルマを買って良かったな、としみじみ実感できることだろう。
2.5ℓエンジンのパフォーマンスは十分だが、1610㎏の車両重量と66速ATとの組み合わせは、時としてドライバビリティに不満を抱くこともあった。巡航していると1500rpmあたりで落ち着いていることが多いのだが、2.5ℓとはいえその回転域でのトルクは充実しているとは言い難く、日常的な走りでも2000rpmぐらいは欲しくなる。登りに差し掛かった時などは、力がだんだんと足りなくなってきて、アクセルを踏み増すとシフトダウン。最近の多段ATに比べればギヤ比が離れているのでなんだかビジーに感じられるのだ。全開で加速してみると、6200rpmでシフトアップして3800rpmまで落ちる。パワーバンドを外すというほどではないが、あまりテンポのいい加速とは言えない。こういった面で不満があるのなら、大トルクが自慢のディーゼルを選択するべきだろう。2000rpmで450Nmを発揮する頼もしさは、約30万円の差額を払う価値が十分にある。
スバル・フォレスター X-BREAK
水平対向4気筒DOHC/2498㏄
最高出力:184㎰/5800rpm
最大トルク:24.4㎏m/4400rpm
JC08モード燃費:14.6㎞/ℓ 車両本体価格:291万6000円
デビュー間もないフォレスターは操縦性の高さが強み
フォレスターは今年7月に発売されたばかり。SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)を採用しているので、今回の中では設計が最も新しい。試乗車は「X-BREAK」で17インチのオールシーズン・タイヤを装着していた。
他のサマータイヤ装着車に対してノイズや乗り心地で不利かと思いきや、17インチと小さめなこともてネガは最小限に抑えられていた。ほんの少しだけゴー、ガーというノイズが大きめに感じられるが、オールシーズン・タイヤにありがちな表面の硬さは感知されない。
フォレスター最大のユニークポイントは、低重心な水平対向エンジン搭載による、圧倒的な操縦安定性の高さだろう。緊急回避テストをしてみても、ミズスマシのように障害物を避けて駆け抜けてしまうのは圧巻。日常的な走りでも、コーナーでのロールの少なさは頭ひとつ抜けていて、エクストレイルなどと比べると安心スピードがかなり高いところにある。それは低重心という資質からくるものだから、サスペンションが無用に硬いというわけではない。先代に比べると格段にしっとりとした乗り心地との両立が図られているのだ。
ただし、オンロードでのハンドリングがCX-5のように楽しいかと言うと、そこまででもなかった。基本的なシャシー能力は高いのだが、キビキビ感よりも安定性を重視しているようだ。18インチのサマータイヤを装着する「プレミアム」は、もう少し舵の効きがいいのでハンドリングを重視するならオススメしたい。
水平対向エンジンは低回転域のトルクが薄いと言われてきたが、現行フォレスターの2.5ℓは直噴化されたこともあってCX-5のそれと遜色なく感じられる。車両重量が軽いことも功を奏しているのだろう。
とはいえ、やはり良く使う1500rpm付近はさほど力がなく、ちょっとした加速でも2000〜2500rpmにタコメーターの針が上がる。それでも6速ATよりはCVTのほうが遅れなく望みの力を得られて日常走行でのドライバビリティは上回る。全開で加速するとステップ制御となって6000rpmで60㎞/hに達すると5000rpmに落ち、再び加速。水平対向エンジンは回転上昇感がスムーズでトップエンドまで引っ張ると気持ちいい。ステップ制御はアクセル開度が30%程度でも効くので、ラバーバンドフィールが大嫌いという人にも受け入れられそうだ。
マツダCX-5 25S PROACTIVE
直列4気筒DOHC/2488㏄
最高出力:188㎰/6000rpm
最大トルク:25.5㎏m/4000rpm
JC08モード燃費:14.2㎞/ℓ
車両本体価格:291万6000円
ターボエンジンの力強さと滑らかで上質な走りが融合
CR-Vは唯一のターボエンジンだが、これが大きな魅力をもたらしていた。他のCVT車は、ステップ制御でラバーバンドフィールは克服しているものの、常用スピード域ではエンジンのトルクが薄いため頻繁な変速がなされて煩わしかったが、CR-Vは2000〜5000rpmの幅広い回転域で最大トルク240Nmを発生するから、アクセルの踏み込みに対してレスポンスが良く、CVTにしてはダイレクトな感覚で加速していくことが多いのだ。さすがに1500rpmでは、トルクが充実しているとは言い難いが、2000rpmに近づくにつれてモリモリと力が湧いてきて2500rpmにもなれば結構な加速感。日常域ではそれ以上はあまり必要としないぐらいに頼もしい。3000rpm、4000rpmと回転を上げると1.5ℓという小排気量が信じられないぐらいに力強く、VTECターボの威力を知ることになる。
試しに全開加速してみると、6000rpmをちょっとオーバーして70㎞/h、そこでシフトアップして5000rpmから加速して再び6000rpmで100㎞/hといったところ。フル加速させるとサウンドが適度にスポーティになる。CR-Vは全開に近くならないとステップ制御をしない。日常的な走行では4000rpm張り付きの加速ぐらいで十二分に速いから、それ以上使うことは滅多にないだろう。他のCVTはそれなりの加速でもステップ制御でラバーバンドフィールを克服しているのに対して、CR-Vは回転張り付きの加速が多いのだが、不思議とイヤな感覚はない。CVTには新たな制御を試す実験車両も含め多くを試乗してきたが、ギヤ比を固定してエンジン回転の上昇と加速をリニアにすることだけが、ドライバビリティ向上に役立つわけではないことが最近分かってきた。アクセルの踏み込みに対して、望むだけのトルクがレスポンス良く出てくるかどうかが肝心。低回転から大トルクを発生するエンジンとの組み合わせほど有利であり、CR-Vの1.5ℓターボは見事にそれにはまっている。よって、ドライバビリティは4車中で最も良好だといえる。全体的に回転数が抑えられていることもあって静粛性へも貢献している。
CR-Vは、エンジン音だけではなく、ロードノイズや風切り音もよく抑えられていた。欧州プレミアム・カーと比べても遜色ないレベルだろう。CX-5も現行モデルでかなり力を入れた領域だが、それ以上に静かだ。加えて、走り出しからして駆動系やサスペンションなどあらゆる部分の動きが滑らかで上質な乗り味だった。CR-Vはプレミアム・カーというわけではないが、新世代のプラットフォームやパワートレーンは質感の高い走りを実現している。
何気なく真っ直ぐの道を走らせているだけでリヤタイヤがガッチリと路面を捉えている感覚で、底知れぬ安心感がある。ステアリングまわりの剛性感が高くて操舵する度に頼もしさを感じるのも新世代のプラットフォームのポテンシャルを感じるところだ。高速道路の速度域ではCX-5と同様にビシッと走りながら、しなやかなサスペンションで快適性では上回る。乗り心地と安定性のバランスが高次元なのだ。
ハンドリングでは、滑らかで連続性のある動きが印象的だった。適度なダイヤゴナルロール、前輪外側への沈み込みを見せつつ素直な感覚で旋回していく。CX-5のハンドリングも圧巻だったが、より快適志向のサスペンションで同じようなスポーティな走りを実現しているのは、スピードや操舵量などから車両の動きを予測して四輪のブレーキを独立制御するアジャイルハンドリングアシストが効いているのだろう。ドライバーにそれと分からせないが、確かにねらったラインへ乗せやすい。さほどサスペンションが引き締められていないのは、やや強めにブレーキを掛けた時に、ストロークスピードが思いのほか早いことが伺える。
CR-Vはポテンシャルの高いプラットフォームを得て、実に快適かつ上質な乗り味と適度なスポーティさを高い次元でバランスさせたモデルだ。1.5ℓターボ+CVTのドライバビリティの良さも含めて日常のドライブを楽しく快適にしてくれるパートナーとして最良と言っていいだろう。もっとスポーティさを追うならCX-5、ロールの少ない操縦安定性ならフォレスターも手強いライバルではあるが、より多くの人のストライクゾーンに入るのがCR-Vなのだ。ちなみに、チョイ乗りしかしていないi-MMD搭載車は、電気モーター駆動特有の気持ち良さが病みつきになりそうだったが、1.5ℓターボもガソリン車のミッドサイズSUVの中で最も秀逸ではある。本気で購入を考えるとなると、かなり悩ましいことになりそうだ。
ホンダCR-V EX Masterpiece(4WD/5人乗り)
直列4気筒DOHC ターボ/1496㏄
最高出力:190㎰/5600rpm
最大トルク:24.5㎏m/2000-5000rpm
JC08モード燃費:15.0㎞/ℓ
車両本体価格:380万7000円