GT-Rとともに半世紀の歴史を持つ、日産を代表する大排気量FRスポーツカー・フェアレディZ。そのコンプリートモデルにして最上級グレード「ニスモ」に乗り、日産本社がある横浜市内の一般道から高速道路、箱根のワインディングを経て横浜へ戻るルートを走行した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、日産自動車
現行Z34型が発売されたのは2008年12月。これまた2007年12月発売の現行R35型GT-Rと同じく10年超のロングライフモデルとなっているのだが、その間にGT-Rほど頻繁ではないものの改良を積み重ね、着実に進化を遂げてきた。
直近のマイナーチェンジは2017年7月。走りについては、アクセルペダルとスロットルバルブ開度の特性を変更し、アクセルペダル中間開度でのトルクを高めつつ、高回転時のトルク低下量を抑えている。
クラッチペダルを戻し発進すると、そのつながりは決して唐突ではなく、半クラッチ領域で速度の微妙な調整が容易であることに気付く。その後ステアリングを切るとこれまた手応えは重く、その男臭さに満ちた感触に「ああ、日産のスポーツモデルは昔からこうだったな」と、かつて初代P10および2代目P11プリメーラを所有していた筆者は懐かしさを感じずにはいられなかった。
しかしながら、いざ公道を走り出すと、その印象は一変する。町中をゆっくり走っていても、大小を問わず路面の凹凸をキレイにいなし、かつ突き上げを乗員に伝えることなく、車体をフラットに保ったまま極めて快適に走れるのだ。「ボディ剛性は高いがサスペンションはひたすら硬く、よく跳ねる」、これが日産のスポーツモデルに典型的な乗り味だが、フェアレディZニスモにこの通例は当てはまらない。
だが快適なのは乗り心地だけではない。吸気バルブの作動角とリフト量を可変制御し、吸気バルブで直接吸入空気量をコントロールする「VVEL」を採用した、VQ37VHR型エンジンがもたらす豊かなトルクも、そのコンフォートライドに大きく貢献している。
なお、ニスモ用のそれは、V6の片バンクごとに独立したフルデュアルエキゾーストシステムを採用し排気ロスを低減したうえ、ECUを専用セッティング。ノーマルの336ps/7000rpm&365Nm/5200rpmに対し355ps/7400rpm&374Nm/5200rpmへとアップしている(レブリミットはいずれも7500rpm)が、それでも極低回転域のトルク不足は皆無。近年のダウンサイジングターボでは味わえない、大排気量NAエンジンならではのゆとりがそこにあった。
そしていよいよ、ワインディングである。フロント245/40R19 94W、リヤ285/35R19 99WというファットなダンロップSPスポーツMAXX GT600の限界が高いことは言うに及ばず、大きなうねりを伴うタイトコーナーが続く状況でも姿勢変化は穏やかで、唐突に不安定な状況に陥ることもないため、クルマの挙動そのものに対する安心感は抜群。
エンジンもコーナー立ち上がりでのコントロールが容易なのに加え、その先の中高回転域、レッドゾーンの7500rpmまで淀みなく吹け上がっていくのには「これは気持ちいい!」と叫ばずにはいられなかった。
フロント4ポット・リヤ2ポットの対向アルミキャリパーに加え、GT-Rと同様の高剛性ブレーキホースと高性能ブレーキフルードを用いたブレーキは、ペダルタッチの剛性感、効きのリニアさともに申し分なし。だがパッドは、下りの高速ワインディングを走行し終わる頃にはタッチも制動力も甘くなる予兆が出始めていたため、サーキットを走るならばより耐フェード性の高いパッドへ交換するのは必須となるだろう。
このように、大排気量FRスポーツカーとしてはほぼ申し分のない、極めて高い完成度を持つフェアレディZニスモなのだが、たった2点、余りにもつまらないが重大な欠点がある。一つは、LSDがビスカス式であること。そしてもう一つは、フットレストが小さすぎることだ。
まずLSDについては、Z31の頃から日産は頑なに回転感応型のビスカス式を用いているが、扱いやすいことと引き換えに「オープンデフよりはマシ」程度の差動制限力しか備えておらず、旋回中に後輪がインリフトした状態で大きくアクセルオンすればあっけなくホイールスピンする。多板クラッチを用いた機械式LSDはイニシャルトルクの設定によってはデフロックに近い状態になるうえオイル交換の頻度も高くなるため難しいだろうが、せめてプラネタリーギヤを用いたトルク感応型LSDを採用してほしいところだ。
そしてフットレストは、車高が低くヒップポイントも低いため足元をほぼ垂直に近い状態に立てることを要求されるスポーツカーでは必要不可欠なのだが、高速道路をゆっくり巡航している時ですら左足が落ち着かなくなるほど幅が狭い。これがワインディングになるとさらに悪化し、タイトコーナーに早い速度で進入しロールが深くなった時、特に左コーナーではフットレストから左足を踏み外しそうになる。足が細いドライバーならさほど気にならないのだろうが、筆者は残念ながら靴幅4Eに該当する段平足の持ち主。前述のビスカス式LSDよりも遥かに低い次元で、コーナリングを楽しもうとする筆者に対する強烈な冷や水となった。
629万3160円という車両本体価格は、絶対的には高い。だがその価格に納得できるだけの懐の深さが、このフェアレディZニスモにはある。それだけに、このLSDとフットレストの問題は残念でならない。まさに「画竜点睛を欠く」仕上がりだ。しかもこれらは、ノーマルにも共通する大きな問題。発売後11年を経た今からでも、一刻も早く改善してほしい。
【Specifications】
<日産フェアレディZニスモ(FR・6速MT)>
全長×全幅×全高:4330×1870×1315mm ホイールベース:2550mm 車両重量:1540kg エンジン形式:V型6気筒DOHC 排気量:3696cc ボア×ストローク:95.5×86.0mm 圧縮比:11.0 最高出力:261kW(355ps)/7400rpm 最大トルク:374Nm(38.1kgm)/5200rpm JC08モード燃費:9.1km/L 車両価格:629万3160円