軽自動車のスタンダードと言えるハイトワゴンクラスにおいて、最古参であったデイズが待望のモデルチェンジ。
ファーストカーとして不満なく使える品質をもたらすために全面新設計され、すべての性能・機能が最先端に。
「日産インテリジェントモビリティ」を代表するプロパイロットをも備えた新型はクラスを牽引する存在となった!
レポート●青山尚暉(AOYAMA Naoki)
フォト●平野陽(HIRANO Akio)
満を持して登場した新型は機能・性能を大幅に向上した
軽自動車界を震撼させ、軽自動車の存在価値、概念を覆す出来事! と言っていいのが、軽ハイトワゴンのジャンルに属する新型日産デイズのデビューではないだろうか。
初代デイズは2011年に設立された日産と三菱合弁の軽自動車開発企画会社NMKVが送り出した第一弾(三菱版はeKワゴン)。日産が企画し、三菱が開発・生産を担当。しかし、新型デイズは日産が開発を行ない、生産は従来通り、三菱の水島製作所で行なうことになった。その理由こそ、新型デイズが軽自動車の概念を覆す大きなポイントなのである。
そう、新型デイズは日産が初めて軽自動車専用のプラットフォーム、エンジン、CVT、電子アーキテクチャーなどのすべてを新規開発しただけでなく、日産自慢の同一車線内半自動運転技術のプロパイロット&緊急通報オペレーターサービス=SOSコール(ドコモの通信機器から緊急通報専門会社のオペレーターに接続)などを採用! それを実現するためには、日産側の開発が不可欠だったというわけだ(三菱版のeKワゴンにもプロパイロット=MI-PILOTが用意される)。
ところで、先代デイズの泣きどころだったのが、NAモデルの動力性能、内外装の質感の不足にあった。そこで日産はNA、ターボともに、新たにリチウムイオンバッテリーを用いたS-HYBRIDシステム、及びステップ変速付きCVTを開発。S-HYBRIDのバッテリーを、セレナなどの鉛からリチウムイオンにグレードアップしたことで、エネルギー回生率2倍、アイドリングストップ時間10%増し、そして発進時のアシスト時間は10倍にもなったという。
こうした事柄だけでも、日産が初めて一から開発した軽自動車、新型デイズに賭ける意気込みの強さが伝わってくるというものだ。渋滞追従機能付きACCを含むプロパイロット、SOSコール、さらに全車標準のサイド&カーテンエアバッグ、前後踏み間違い衝突防止アシスト(ブレーキ制御付き)の装備類にライバルは戦々恐々必至。先進・安全技術で一気に追い抜いたのである。
もちろん、パッケージ、居住性、装備類、先進安全予防技術、そして肝心の走行性能も大きく進化したに違いなく、この点では一家に一台のファミリーカーになり得る(実際に軽自動車をファミリーカーとして使用する割合は43%に達する)デイズの最上級グレード、ハイウェイスターのターボモデルを軸に、軽ハイトワゴンのライバルとしてワゴンRスティングレーHVT、ムーヴカスタムRSハイパーSAⅢ、N-WGNカスタムG・ターボSSパッケージⅡを用意し、比較試乗を行なった。
軽自動車のレベルを超えた質感と後席居住性の良さ
エクステリアの存在感の強さ、質感の高さはなるほど、新しいデイズが抜き出ている。ハイウェイスターの顔付きはミニセレナと言うべき上級感があり、パネルの合わせ目も精密。さらに軽自動車ではどうしても平板になりがちなサイド面も、エッジの効いたライン、抑揚と質感あるデザインで構成される。
ワゴンRスティングレーはアメリカンなテイストが強く、結構好みが分かれるマッチョな顔付きが特徴。ムーヴカスタムとN-WGNカスタムのスタイリングはカスタム系軽自動車の王道。夜の存在感を示すべく、ライト類にもこだわりある、クラスを超えた佇まいの演出が際立つ。
インテリアはどうか。デイズは贅沢にもインパネにソフトパッドを使い、先代の泣きどころだった質感不足を見事に解消。引き出し式トレーや助手席側ドアの車検証入れ、直感的操作が可能なフラットパネルのエアコンスイッチ、そして何より、SOSコールや日産コネクトサービスが10年間無料で使える大画面9インチナビの装備、採用が際立つ特徴だ。
軽ハイトワゴンのパイオニア、ワゴンRスティングレーのハイセンスなインテリアのデザイン、質感の高さはほとんど高級車並みで、スパッとした横基調のインパネが左右の広がり感を強く演出。車格を大きく超えた居住感覚をもたらしている。
その点、ムーヴカスタムとN-WGNカスタムのインパネ、メーターまわりのデザインに新しさはなく、特にN-WGNについてはデビュー年次の古さ(それぞれ2014年/2013年)を感じてしまいがちだ。
前席の掛け心地はどうだろう。4車の中で際立つのが、デイズのシート。なにしろコンパクトカーのキューブ並みにコストを掛けたシートで、先代比でクッション&たわみ性能20%アップ。ゆったりとしたサイズ、掛け心地の持ち主で、ヒップポイントを先代比で15㎜高めたことで自然に座れ、カーブなどでの背中、お尻のサポート性も自然で心地良い。走行中のシートによる振動吸収性もクラスベストと思わせる。
後席の乗降性はデイズとワゴンR、N-WGNが優れている印象だ。その3車はリヤドアの乗降間口が広く、特にワゴンRとN-WGNはフロアに対してシートが高めにセットされ、乗降時の腰の上下移動量が少なくて済み、例えばシニアでも、より快適に後席へアクセスできるはずである。
全車ほぼフラットフロアの後席足元の広さでは、先代比でホイールベースを65㎜伸ばしたそのほとんどを後席ニースペースに充てたデイズに優位性がある。身長172㎝の乗員基準で運転席の背後に座れば、膝まわり空間はワゴンR約32㎝、ムーヴ約29㎝、N-WGN約31.5㎝に対して、デイズは約34㎝と圧倒している(セレナの2列目席標準スライド仕様の約36㎝に匹敵!)。
後席のシートサイズがたっぷりしているのはデイズとムーヴの2台だが、デイズとN-WGNは後席左右を独立してスライドできないところが、使い方によってはちょっと残念な部分か。
ちなみに後席部分のユニーク装備として挙げられるのが、ワゴンRのアンブレラホルダーとN-WGNのセンタータンクレイアウトを生かした後席下全面のトレー。傘の収納では、水滴が車外に排出されるワゴンRの方がより使いやすいだろう。
荷室の使い勝手を比較すれば、開口部地上高が最も低く、重い荷物の出し入れや、ペットの乗降性に優れるのはデイズ(地上高約64㎝。ライバルは67〜70㎝)。荷物の積載性に大きく関わる奥行きは全車、後席シートスライドで可変できるが、デイズ(先代比+135㎜)、N-WGN、ムーヴに余裕があり、最大54〜56㎝に達する。幅方向ではワゴンR、デイズ、高さ方向はN-WGN、デイズが高めだ。デイズは床下に大容量の収納があり、後席一体スライドながら、荷室の使い勝手はなかなかのものと言っていい。
動的質感も徹底的に高め ファミリーカーの資質十分
さて、ここで比較試乗するのは各車のフラッグシップ、カスタム系のターボモデルたちだ。
各車のターボエンジンのスペックは、最大出力こそ規制値の64㎰で横並びだが、新型デイズはエンジンの10.2㎏mの最大トルクに加え、約2.7㎰/4㎏mのモーターをアドオン。JC08モード燃費は25.2㎞/ℓだ。同じくマイルドハイブリッドのワゴンRは最大トルク10.0㎏mに3.1㎰/5.1㎏mのモーターが加わる。JC08モード燃費は軽ハイトワゴンターボ最高の28.4㎞/ℓを誇る。これはシリーズ中、最も重いカスタムターボでも車重800㎏という、群を抜く軽量化技術が功を奏した結果である。
ムーヴとN-WGNは純粋なガソリンターボで、それぞれ最大トルク9.4㎏m、10.6㎏m。JC08モード燃費27.4㎞/ℓ、26.0㎞/ℓというスペックになる。
デイズとワゴンRに採用されるマイルドハイブリッドシステムのモーターアシストは、実は、発進時などごく限定的にしか使われない。が、ターボ+モーターによるメリットは、加速のスムーズさや燃費など、多岐に得られるのもまた事実。
デイズは走り出しから、とにかく軽自動車らしからぬ静かさとスムーズネスを発揮してくれる。エンジントルクは2000rpmあたりから盛り上がり、ステップアップ感ある加速性能は軽自動車トップレベル。ただし、めったに使わない領域とはいえ、高回転まで回したときのちょっとザワついたサウンド、ノイズ、そして加速時、一瞬のタメがあった後に加速態勢に入るアクセルレスポンス、そして再加速時、ターボの過給とステップアップCVTのシフトダウンが重なった時に見られる、ドライバーが意図しない押し出され(加速)感は、気になる人は気になるかもしれない。
新型デイズの乗り心地はズバリ、クラス最上である。いや、多くのコンパクトカーを凌ぐレベルにあり、路面の段差や凹みを乗り越えたとしても、終始維持されるフラット感を失わず、乗員に伝わるショック、音、振動も最小限。ボディのしっかり感がひしひしと伝わってくる印象だ。
カーブや高速レーンチェンジでのマナーも優秀だ。ステアリングフィールは落ち着き感あるもので、切ったぶんだけしっかりとリニアに、しかし軽快に向きを変え、15インチタイヤを履く足まわりのロール感もじんわりスムーズで不安を誘いにくい。高速走行での安定感、直進性の良さもまた、ハイト系軽自動車最上級。
後述するワゴンRの方がエンジンのスムーズさで上回り、カスタム系らしいスポーツ度ではN-WGNに軍配が上がるものの、新型デイズはロードノイズ、風切り音の小ささもあり、連続した高速走行も静かで楽々快適。運転に関わるストレスは最小限のはずで、走りの洗練度、大人っぽさ、ファミリーカーとしての資質ではピカイチだと思わせる。
新型車ならではの洗練度と先進安全装備で他を圧倒する
走行性能で好印象を受けたのは、スズキの新世代プラットフォーム=ハーテクトを使うワゴンRだ。マイルドハイブリッドゆえ、モーター感をストロングHVほど感じられないのはデイズ同様だが、出足の滑らかさ、全域の静かさ、軽めのステアリングのリニアでウルトラスムーズな手応え、扱いやすさ、そしてエンジンを高回転まで回した時の気持ち良さ、クラスを超えた上質な乗り心地など、さすが軽ハイトワゴンのパイオニアの最新作だけのことはある。
カーブや高速レーンチェンジでの軽快感に満ちた身のこなし、安定感も文句なし。横基調のモダンなインパネデザインによる、より幅広いクルマに乗っているかのような疑似感覚は、高速走行でのリラックス度に大きく貢献すると思える。
N-WGNは軽自動車にしてホンダの熱い血が流れるスポーツ系。エンジンは勇ましいサウンドを放ちつつ高回転までスムーズに回り、モーターアシストなしでもかなりパワフル。活発な加速性能をパドルシフトによって最大限に引き出せ、デビュー当時より多少、マイルドになりながらも依然、タイト感ある硬派な乗り心地を含め、最もスポーティなキャラクターの持ち主と言っていい。
ムーヴはステアリングフィール、ブレーキなどはそれなりにしっかりしているものの、乗り心地はカスタムを意識し過ぎた!? 固さがあり、良路ではそこそこ快適でも、段差越えなどでのショックは小さくない。曲がりのシーンでの姿勢変化はデイズやワゴンR、N-WGNより深めだ。
ムーヴで気になるのは、車内が終始、エンジンに起因する箱鳴りのようなこもり音に支配される点だ。以前の「ワゴンRのすべて」でも指摘した事項だが、そのまま改善されていないのが残念。走行性能的には、デビューから5年弱を経過した古さを感じさせるのも本当である。
こうして4台を走らせてみると、設計、デビューの新しさが走りの質感、快適感に大きく影響していることが〝当然ながら〟分かるというものだ。一家に一台のファーストカーとして、ロングドライブにもうってつけなのは、ズバリ、新型デイズとワゴンRの2台。
が、エクステリアの洗練度、渋滞対応のACC機能をも備えるプロパイロットや、あおり運転対策(通報)にもなるオペレーターサービスのSOSコール、ブレーキ制御付き前後踏み間違い衝突防止アシストなどによる絶大なる快適感・安心感まで含めると、どう考えても新型デイズの商品力の高さは圧倒的だ。
軽自動車の購入を検討している運転初心者からシニアドライバーまでに、現時点でこれほどまで自信を持って薦められる軽ハイトワゴンはほかにない。それは、軽自動車初採用の9インチナビゲーション(SOSコールと日産コネクトを利用するのに必須。21万円/税別)を注文するのが前提で、それなりの支払額になるのを承知の上での結論だ。個人的なボディカラーのお薦めは、一段と上質感が高まり、シックで大人っぽいアッシュブラウン×フローズンバニラパールの2トーンカラーである。
日産デイズハイウェイスター G TURBO PROPILOT EDITION(FF)
先代デイズは日産らしい垢抜けたデザインやタッチパネル式のエアコンなどの装備でモデル末期まで人気を博していたが、動力性能は正直イマイチの評価だった。待望の新型は軽自動車という概念を払拭して、ファーストカーとして求められる上質さや静粛性などが追求されて登場した。先進安全装備ももちろん最先端。
直列3気筒DOHCターボ/659㏄ 最高出力:64㎰/5600rpm[モーター:2.0kW] 最大トルク:10.2㎏m/2400-4000rpm[モーター:40Nm] JC08モード燃費:25.2㎞/ℓ 車両本体価格:164万7000円
スズキ・ワゴンRスティングレイ HYBRID T(FF)
ハイトワゴンクラスのパイオニアであるワゴンRは、やはり使い勝手や動的性能など全方位に完成度の高さを誇る。ラインナップにもソツがなく、NA 、ハイブリッド、ハイブリッドターボを設定するほか、標準車に2つの顔があり、パワートユニットの仕様の違いはあるが3つのデザインが選べるのもワゴンRの魅力だ。
直列3気筒DOHCターボ/658㏄ 最高出力:64㎰/6000rpm[モーター:2.3kW] 最大トルク:10.0㎏m/3000rpm[モーター:50Nm] JC08モード燃費:28.4㎞/ℓ 車両本体価格:165万8880円
ダイハツ・ムーヴカスタム RS“ HYPER SAⅢ”(FF)
2017年のマイナーチェンジで内外装のブラッシュアップと、先進安全装備「スマートアシスト」のバージョンアップなどが施され商品力が高められた。N-WGNと同様に14年デビューから時が経つが、大きく開くドアや非ハイブリッドのターボ車ながら遜色のない優れた燃費性能など、ライバルに負けない性能を持つ。
直列3気筒DOHCターボ/658㏄ 最高出力:64㎰/6400rpm 最大トルク:9.4㎏m/3000rpm JC08モード燃費:27.4㎞/ℓ 車両本体価格:162万5400円
ホンダN-WGNカスタム G・TURBO SS PACKAGEⅡ(FF)
デビューが2013年とモデル末期でモデルチェンジの噂もあるN-WGN。だが時間が経ってもホンダらしさは古くならず、スポーティな走りは運転を楽しみたいというドライバーにはうってつけ。もちろん独自のセンタータンクレイアウトによる室内空間の広さも、ライバルに引けを取らない使い勝手の良いものだ。
直列3気筒DOHCターボ/658㏄ 最高出力:64㎰/6000rpm 最大トルク:10.6㎏m/2600rpm JC08モード燃費:26.0㎞/ℓ 車両本体価格:159万9000円