サスペンション構成部品のうち、重要な機能を担うダンパー。その構造と動作をあらためて解説する。
TEXT:安藤 眞(Ando Makoto)
クルマの操縦安定性や乗り心地を左右する重要な部品が、サスペンションのダンパー(ショックアブソーバーとも呼ばれる)。ざっくり言うと、オイルの入った筒の中をピストンが移動して、その抵抗で路面からのエネルギーを吸収する(正確に言えば、運動エネルギーを熱エネルギーに変換する)装置だ。
種類は大雑把に、シリンダーが二重になっている複筒式と、一本の筒でできている単筒式があり、大衆車に広く採用されているのは複筒式。今回は「なぜ複筒式にする必要があるのか」というお話をしよう。
それを理解するには、ピストンを省略したダンパーを考えるのが手っ取り早い。上図左のように、一本の筒で作ったダンパー(のようなもの)をストロークさせようとした場合、縮み方向に動かすことができるだろうか。筒の中にはオイルが満たされているから、ロッドを突っ込もうにも、中には入らないことがわかるだろう。ロッドが進入するのと同じ体積の空間がなければ、ダンパーは縮めることができない。
だからといって、その空間を作るために中にガスを入れただけでは、伸びきり側ではピストンがガス部分を通過することになり、減衰力が出ないストローク域が生じる。ならば筒を二重にして、外側をガス室にすれば、と考えられたのが、複筒式ダンパーである。
ところが、ただ筒を二重にして外側にガスを詰めただけでは、不都合が生じる。ピストンバルブだけで伸び/圧両側の減衰力を出そうとすると、縮み側にストロークする際、ピストンに押されたオイルがガスを圧縮してストロークできるため、ピストンの背面が負圧になって気泡が発生し、オリフィスには所定の量の油が流れず、狙い通りの減衰力を発生させることができないのだ(上図右)。
そこで考え出されたのが、ベースバルブ(またはボトムバルブ)。円筒の底に付いており、内筒と外筒を隔てる形でレイアウトされている。ピストンロッドが押し込まれると、その体積分だけオイルは内筒から外筒へと溢れ出すから、その境目にバルブを付けておけば、負圧を生じることなく減衰力を発生させることができるのである。
一方で伸び側は、ピストン背面のオイルが常に加圧される方向だから負圧は生じず、気泡が発生する心配はない。このように、圧側をベースバルブに、伸び側をピストンバルブに担当させるようにしたのが、複筒式ダンパーの基本構造だ。ただし現在は、負圧が生じない程度の微低速域では圧側もピストンバルブに分担させ、微少な姿勢変化の制御を担当させるのが、登録車では一般的になっている。
では、単筒式はどうなっているのか、といえば、ピストンロッドの出入りによる容積の変化は、シリンダー内にフリーピストンで隔てたガス室を設けて吸収する。減衰力は、伸び側も圧側もピストンバルブで出すため、圧側の高速域でもピストンの背面が負圧にならないよう、複筒式より高い圧力のガスが封入されている。
単筒式は筒が一本で済むため、同じ外径ならピストン径が大きく取れることや、放熱性が良いこと、ガス室が完全分離しているため、倒立させて使うことができるなどのメリットがある反面、ガス室が同軸上に配置されるため、全長が長くなるとか、高いガス圧をシールするために初動のフリクションが高いなどのデメリットがある。だから特別なスポーツモデルでないと、あまり使われることがない、というわけだ。