最近はクルマもバイクもEV化が進みつつあるが、その中で独自の進化を遂げているのが電動キックボードである。折り畳んで持ち運びもできる本来の手軽さに、電動モーターのパワーを兼ね備えた公道走行可能な電動キックとして誕生したのが「URBANIST600」だ。ありそうでなかった一風変わった乗り物を都内のいろいろなシーンで乗ってみた。
REPORT●ケニー佐川(SAGAWA Kentaro)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
URBANIST600……125,000円
世界的ブームの電動キックは日本で「原付」扱い
足で地面を蹴って進むキックボードは、日本では子供の遊び道具として普及しているが、海外の街では大人でもけっこう乗っている姿を目にする。何を隠そう、自分も普段からキックボードを愛用しているのだが、ただやはり人力だけで長距離を移動するにはきついものがある。電動モーター付きのキックボードがあればいいのに、と思っていたところに現れたのがURBANIST600(アーバニスト600)である。
数年前からは海外では電動キックボードが都市部のコミューターとして便利に利用されているという話は聞いていた。ニューヨークなどもシェアリング電動キックがビジネスマンの間で大流行した時期がある。ただ、日本では電動キックによる公道走行は禁止されている。法的には50ccスクーターと同じ原付一種扱いとなるからだ。アーバニストはヘッドライトやウインカー、バックミラーなどの保安部品を装備することでその辺りの問題をクリア。しかも折り畳み式のサドルまで装備してナンバープレートを取得しているのがポイントだ。つまり、原付1種として公道を堂々と走れる電動キックなのだ。
ミニマムな移動にぴったり
見た目はまさに巨大なキックボードだが、サドルが付いているのが不思議な感じだ。アーバニストの動力はリチウムイオンバッテリーと後輪に仕込まれたインホイールモーターで、家庭用電源から4~5時間のフル充電で約50kmの距離を走行できるとのこと。手元のスイッチで電源オンにすればすぐに走り出せるのが電動のいいところだ。人差し指で操作するレバータイプのスロットルを引くと微かなモーター音とともに滑るように走り出した。
車体が軽くて超コンパクトなので、想像していた以上に走り出しの加速は俊敏。小径タイヤと軽すぎる車体に最初は慣れずにちょっとフラフラしたが、30分も走れば体が慣れてくる。特に凸凹路面やコーナリングなどはムリできないが、そこを割り切ればそれなりに楽しく乗ることができる。例えるなら、子供用の「ストライダー」に電動モーターを取り付けたような感じだろうか。サドルに着座して走っていると、電動原チャリほどの安定感はないが通常のキックボードよりは安定している感じ。タイヤは小径ながらエア入りタイプだし、フロントには一応サスペンションも付いていて、ブレーキも前後ディスブレーキなのでそれなりに効く等々、ごく一般的なアスファルト路面での必要最小限の走行性能は備えていると思う。安全なクローズドエリアで最高速テストもしてみたが、試乗車ではメーター読みで40km/h強といったところ。お店スタッフによると、バッテリーとモーターが新品状態の新車であればフラット路面で50km/h程度は出るそうだ。ただし、折り畳みという構造上、ジョイント部分も多く剛性感はいまいちなので、スピードはほどほどにしたい。
座っても立っても良し
折り畳まれた状態のアーバニストを展開してみた。通常のキックボードと同じようにハンドルポストの他、いくつかの部分を伸ばしてロックすれば完了。自分は1分ぐらいかかったがお店スタッフは慣れたもので、ものの10秒程度でパタパタと展開してみせてくれた。重量18kgということで自転車程度の重量だが、折り畳むとコンパクトになるので大人の男なら片手でもなんとか持てる感じだ。サドルも折り畳み式なので、着座と立ち乗りの両方可能だが、個人的には本来のキックボードのスタイルである立ち乗りが楽しいと思った。ただ、公道では立ち乗りだと20km/hが制限速度らしいので、実際に移動手段として使うなら着座するのが筋だろう。また当然ヘルメットも着用が義務になる。
キックの手軽さに電チャリの機動力
さて、アーバニストの一番の良さを挙げるとすればやはり「手軽さ」だろう。折り畳み式で専用ケースに入れて電車に持ち込み可なので、例えばお台場まで電車で行って広いエリアを散策したいときに最適だろうし、クルマに積んでキャンプに持っていけば買い出しにも重宝するだろう。電動アシスト自転車並みの機動力をキックボード感覚の手軽さで実現できるというのが最大の魅力だと思う。そして税込12万5000円というプライスも。
ただ、注意してほしい点もあって、自転車と同じで交通量の激しい幹線道路などは速度差が大きく危険なため避けるべきだろう。それと安全に乗るためには点検なども自分でマメにすべきだ。そういうメリット・デメリットを分かった上で楽しんでもらいたい。
細部解説
佐川健太郎
早稲田大学教育学部卒業後、情報メディア企業グループ、マーケティング・コンサルタント会社などを経て独立。趣味で始めたロードレースを通じてモータージャーナルの世界へ。
雑誌編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。
株式会社モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。
日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。