プレミアムブランドのフラッグシップモデルは、最新技術の見本市のような様相を呈している。技術の進化がもたらす恩恵を少しでも早くユーザーに届けたいという思いからそうなっている面もあるが、同時に「どうだ、ウチの技術はすごいだろ」と見せつけている面もある。2018年9月5日に国内で発表された4世代目にあたるアウディA8も例に漏れず、最新技術が満載だ。ジャーナリスト世良耕太が試乗した。まずは技術紹介から。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
ハイライトのひとつは先進安全技術で、量産車としては世界で初めてレーザースキャナーを搭載した。レーザースキャナーはLIDAR(Laser Imaging Detection And Ranging:ライダー)とも呼ばれる装置で、周辺の物体と形状を3次元で測定する。A8はセンシングの精度向上につながるレーザースキャナーをフロントバンパーに搭載している。
A8はレーザースキャナーに加え、超音波センサーを12個、360度カメラを4個、フロントカメラを1個(つまり単眼)、中距離レーダーを4個、長距離レーダー1個を搭載している。センサーの数は全部で23個だ。数が多いからエライのではない。運転支援機能の精度や機能向上のための23個だ。
その、23個のセンサーを搭載したA8は、技術的にはレベル3の自動運転が可能だ。同一車線内であれば、アクセルペダルやステアリング、ブレーキの操作を発進から停止に至るまで完全に車両が代行する。前後に加えて横方向の動きをアシストしてくれるレベル2と異なるのは、ドライバーが常に車両制御を管理する必要がないということだ。レベル3のシステムが機能している間、ドライバーはその気になれば、スマホの画面に視線を落とすなど、運転以外の行為が可能になる。
ただし、このような行為は技術的には成立しても現在の法律ではNGで、A8が搭載するアダプティブドライブアシスト(ADA)は、従来のアダプティブクルーズコントロール(ACC)の進化版に位置づけられている。速度が設定の範囲(0〜250km/h)であれば、設定された車間を守ってシステムが自動的に加減速操作を行ない、車線から逸脱しないよう、状況に応じて、ある程度までステアリング操作をアシストする。あくまでも、運転の主体はドライバー。システムはアシスト役に徹する。
今回の試乗は短時間(約1時間)だったこともあり、一応、システムは起動してみた、というレベルにとどまっている。信頼するに足るシステムかどうかを語るほどの距離と時間をA8と一緒に過ごしていない。レーザースキャナーを搭載した、技術的にはレベル3の自動運転が可能なシステムを搭載したクルマが実用化される時代になったのか、との感慨を覚えるのみである。
日中の試乗だったので、進化したADB(Adaptive Driving Beam:ヘッドライトの配光を可変制御する技術)を確かめるチャンスは残念ながらなかった。新型A8は、「HDマトリクスLEDハイビーム」と、70km/h以上で作動する「アウディレーザーライト」を組み合わせている(オプション設定)。前者は片側32個のLEDを個別に点消灯することで、配光可変を実現する技術。後者は超遠方(一般的なハイビームの2倍の距離)をスポット照射するライトだ。
アウディは2016年までル・マン24時間レースに参戦していた。配光可変制御の多眼式LEDヘッドライトは、2011年のR18 e-tron quattroから採用。14年の参戦車両にはレーザーライトを追加した。この年、ポルシェが919ハイブリッドでル・マン24時間に復帰した。アウディと一緒に走ったポルシェのドライバーは、「オレたちもアウディみたいなヘッドライトがあれば、もっと速く走れるのに」と不満を漏らしたという。
これを受け、ポルシェは照射角度と照射距離を大幅に拡大した新型ヘッドライトを16年仕様に投入した。夜間走行の視認性向上は速さに直結する。安全性の向上につながるのは、レースでも同じだ。ポルシェのドライバーに「あれが欲しい」と言わせた最先端のヘッドライトと同じコンセプトのヘッドライト、その最新版を新型A8は搭載する。
アウディのADBが夜間走行で有用なのは、別のモデルで体験済みだ。A8では前方車両がウインカーを出すと、それをフロントカメラが検出。前方車両の車線変更を予測して、移動する先を早めに減光する制御を取り入れている。配光のセグメントが細かくなっているだけでなく、制御がきめ細かくなっているわけだ。筆者はヘッドライトのテクノロジーには人一倍(?)敏感なだけに、ぜひとも機会を見つけて確かめておきたい。
短い試乗時間・距離でも確かめられたのは(確かめられたはずである。実感が希薄だったにしても)、アウディが言うところの「ダイナミックオールホイールステアリング」(オプション設定)だ。いわゆる4輪操舵で、65km/h以下では後輪はフロントと逆方向(逆相)に最大5度、それ以上の速度域ではフロントタイヤと同じ方向(同相)に最大2度の範囲で切れるように設定されている。
後から振り返って思えば、A8はサイズを感じさせない身のこなしの軽さだった(電動パワーステアリングのアシストが強めなのもあって)。大きく切り込んだり、素早く反転したりした際に変曲点が現れる(あるいは感じる)ようなこともなかった。
しばらく鳴りを潜めていた4輪操舵が最近になって復活した背景には、シミュレーション技術の発達があると聞く。リヤタイヤをどのくらいの速さでどの程度動かせばいいのか。最適な制御は走行状況によって異なるが、その合わせ込みの精度がひと頃に比べて格段に高まっているのだろう。新型A8は「あ、いまリヤも動いたでしょ」と感じることはなく、ひたすら動かしやすいクルマに仕上がっている。
満載された最新技術をほんの少しだけ紹介しただけで結構なボリュームを費やしてしまったので、48Vのマイルドハイブリッドシステムなどについては別項で報告することにしよう。
アウディA8 60TFSI quattro
■ボディ寸法
全長×全幅×全高:5170×1945×1470mm
ホイールベース:3000mm
車両重量:2110kg
サスペンション:F/R ダブルウィッシュボーン
駆動方式:AWD
■エンジン
形式:V型8気筒DOHCターボ
型式:CXY型
排気量:3996cc
ボア×ストローク:86.0×86.0mm
圧縮比:11.0
最高出力:460ps(338kW)/5500rpm
最大トルク:660Nm/1800-4500rpm
使用燃料:無鉛プレミアム
■トランスミッション
8速AT
■燃費
JC08モード燃費:8.7km/ℓ
価格○1510万円
(試乗車はオプション込みで1857万円)