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レクサスUXの「ダイレクトシフトCVT」──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第7弾


レクサスUXに積まれて日本で登場を果たしたダイレクトシフトCVT。連続無断可変レシオが美点のCVTにおいてたびたび指摘されてきた伝達効率の悪さの回復と変速比幅の拡大を両立させる技術として注目されている。乗車時のインプレッションと合わせ、機構と効果を考察してみる。


TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)

 現在のトランスミッション技術のトレンドと言えば「多段化」だ。ZFが2011年に9速を実用化したと思ったら、トヨタは2016年に10速で対抗。とうとうギヤ段数は二桁に乗った。




 このまま多段化が進めば、最終的には無段化=CVTに収斂するのか?といえば、そうはならないのは、目的は段数を増やすことではなく、レシオカバレッジ(最ローギヤと最ハイギヤの比率。レシオスプレッド比とも言う)を広げることだから。発進時の駆動力を確保しつつ、より高速域までエンジンの高効率領域を使えるようにするには、レシオカバレッジは広いほうが良く、その間を無理なく繋げようとすれば、必然的に段数が増える。

ベルト/チェーンの、プーリへの巻きかけ径を変化させることでドライブ/ドリブンの変速比を変化させるCVT。半径を小さく/大きくできれば変速比の拡大を図れるのだが……(FIGURE:NISSAN)

 CVTが出始めたころは、コンベンショナルなATよりもレシオカバレッジが広く取れることがメリットのひとつとされてきたが、「7」に達した当たりから、少し雲行きが変わってきた。CVTでレシオカバレッジを広げるには、プーリーのサイズを大きくして“巻きかけ半径”の差を大きくする必要があるのだが、同じ大きさのプーリーを並列に並べる構造上、プーリーを大きくすれば外形寸法が大きくなる。しかもCVTは、巻きかけ半径の差が大きくなるほど、伝達効率が低下する。




 一方で、遊星歯車はひと組で3種類のギヤ比が得られるから、計算上は2組で9速、3組で27速の組み合わせが得られる(理論的には2種の減速、2種の増速、逆転の増速と減速)。実際にはZFもベンツもトヨタも3組使用している。配列は軸方向に積み増す形になるため、長手方向には大きくなるが、RWD車なら長手方向には余裕があるから、エンジン縦置きの大型セダンは軒並み遊星歯車式ATで多段化を競っている。

ジヤトコのJF020E「CVT7 WR」。バリエータユニットに加えて、前後進切替に用いる遊星歯車機構に副変速機能を担わせ、レシオカバレッジの拡大を実現した。(PHOTO:JATCO)

 そこで、CVTのレシオカバレッジの限界を引き上げるために最初に出てきたアイデアが、JATCOが開発した副変速機付きCVTである。プーリーによる変速機構と遊星歯車式変速機構を組み合わせることで、レシオカバレッジを約7.4までワイド化することに成功。理屈は自転車の前変速機と同じで、ふたつの変速機構が直列に並べられている。感心するのは、新たに遊星歯車機構を追加したのではなく、前後進切り替え用に付いていた遊星歯車の解放/拘束関係を変えることで成立させたことだ。

UXに搭載されるパワートレインに、ダイレクトシフトCVTが採用されている。(FIGURE:TOYOTA)

 さらに、別のアプローチからレシオカバレッジの拡大を試みたのが、トヨタが今年(18年)に発表した「ダイレクトシフトCVT」。北米向けのカローラに搭載された後、12月にレクサスUXに搭載されて日本市場にもお目見えとなった。


 構造的には、プーリーによる変速機構と並列してハス歯歯車による伝達経路を設け、これを発進〜低速用に使用するのが特徴。2速相当から上をCVTでカバーすることによって、レシオカバレッジを約7.6まで広げている。いわば、平行軸式ATとCVTの「パラレル式ハイブリッドAT」だ。

 インプットおよびアウトプットシャフトそれぞれに、ドライブ/ドリブンギヤを設けておき、間にインターミディエイトシャフトを加えて1速の伝達経路を形成。インプットシャフトとドライブギヤ間、およびセカンダリーシャフトとセカンダリープーリー間に湿式多板クラッチを持っており、これをハンドオーバー制御することで、トルクフローを切り替える。




 インプットシャフトとプライマリープーリーの間に解放機構はないため、ギヤ伝達経路を使用している際にもプライマリープーリー〜ベルト〜セカンダリープーリーは回転するが、セカンダリープーリーとシャフトの拘束が解かれるため、そこでトルクフローが途切れる。プライマリープーリー側にクラッチを付けて、CVTの伝達経路を止めてしまったほうが損失は少なくなるが、ここを回しておかないと、ハンドオーバーする際に、いろいろ問題が出てきそうだ。


 

 ちなみにトヨタが公開している動画では、インターミディエイトギヤがシフトフォークで切り放される様子が見られるが、これはベルト駆動時に、ドリブンギヤからドライブギヤ方向に回転力を逆流させないための構造。実走行で多用するベルト駆動領域でここを切り放さないと、引きずり抵抗が大きくなって効率が低下するため、MTと同じシンクロ+ドグクラッチ機構をここに設けているわけだ。

 僕はこのトランスミッションを初めて見たとき、プーリーとベルトのコンパクト化を図るのが主目的なのかと思った。負荷が最大となる発進時をギヤに負担させれば、ベルトやプーリーの強度は落とせるし、滑りのリスクも減るから、ベルト挟圧を生み出す油圧も下げられ、機械損失も下げられるからだ。




 取材したエンジニア氏によれば、「そういう効果も確かにあります」とのことだが、主目的はレシオカバレッジの拡大だという。それでもプーリーの小径化やベルト幅の縮小で駆動系の慣性を40%減らせたというから、効果は決して小さくない。ベルト狭角を11度から9度に狭めたのは、ギヤ伝達による負荷低減と関係あるのか?と問えば、「関係ありません」とのこと。挟み角を狭めれば、同じプーリーの変位幅でレシオの変化量が大きくなり、変速応答が速くなる反面、制御がシビアになる理屈。その制御技術に進展があったのが、ベルト挟角を狭くできた理由のようだ。

丸で囲んだのがギヤ伝達経路。矢印で示したうち、上がアウトプットシャフト側のドリブンギヤ、下がインプットシャフト側のドライブギヤ。

 実際に乗ってみると、おおむね12〜13km/hあたりでギヤ伝達からベルト伝達に切り替わっている模様。レシオは3.377から2.236へとスキップするが、変速ショックも感じることなく、タコメーターの針の動きで変速したことを確認するのみだ。




 燃費をハイブリッド仕様と較べたところ、概ね2割落ちという感触だったから「約6%の燃費向上」という公表値に偽りはなさそう。今後は2ℓ以下の横置きエンジン用に拡大展開されそうだが、国内向けカローラスポーツへの採用が見送られたのは、エンジン締結面形状の問題か、はたまたコストが高いのか?

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