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ヤマハ・NIKENは雨でも楽しい不思議なバイクだった。


バイクの世界にあって、新たな潮流を感じさせてくれるヤマハのLMW。NIKEN登場は既報の通りだが、当モーターファンjpではこの全く新しい乗り物に興味津々。早速試乗会場となった修善寺の日本サイクルスポーツセンターへと駆け付けた。ステージはアップダウンの激しい一周5kmのサーキット。スタート地点に居並ぶ試乗車は全8台。先ずはフロント16輪が整列した壮観な光景に圧倒された。




REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヤマハ・NIKEN(ナイケン)……1,782,000円

 3輪だからもはやバイクでないとも言えるのだが、ヤマハではあくまでバイクと同じスポーツライクな走りが楽しめることを狙って開発。公式WEBサイトやカタログにも「革新、スポーツツーリング」とカテゴライズされていた。これまでと異なるのは、あらゆる走行シーンで、ライダーはリラックスして走れ、快適であることが革新の二文字に込められている。




 早速股がると、シート高は820mmでやや腰高。身長170cmの両足で支えると両踵が浮く。しかも車体は大きく重量感たっぷりなので、非力な筆者にとって、扱いは慎重になる。ちなみにNIKENは3輪ではあるが、自立はしない。その扱い方はあくまで一般的なバイクと同じなのである。押し歩く時は車体を傾け過ぎないようにすると良いだろう。ちなみにハンドルより前方のカウルはワイドでボリューム感たっぷり。前二輪の存在は隠れてしまい視界には入らない。

押し歩きは鈍重だが、ひとたび走り出すと……

 さて、重量級バイクを扱う手強さを感じていたのはそこまでだ。走り始めるとむしろ重量感に裏打ちされたなんとも頼り甲斐のある安定した心地よい乗り味が展開される。極低速でもふらつくことはなく、タイトターンもスムーズ。失敗し(コケ)たら支えきれないぞという心配は一気に消し飛んでしまった。




 搭載エンジンはMT-09の845㏄3気筒がベースとなっているが、クランクウェブは専用設計され慣性マスは18%も向上。ギヤ比の変更も相まって車重とのバランスが絶妙の仕上がり。スロットル操作に対する加減速挙動がとてもスムーズでかつ思い通りにコントロールできる穏やかさが加味されていたのである。3気筒ならではの豪快で太いトルク感と柔軟な出力特性はそのままに、優しさを備えたエンジンフィールはとても快適。二人乗りツアラーとしても素性の良い基本性能を備えていると思えた。

浮砂やウエット路面で本領を発揮

 何よりも驚かされるのは、前輪のグリップに対する信頼度の高さにある。当日は雨混じりで路面もウェット部分が残る状況。にも関わらず、滑ることも、そこから転倒に至るリスクに対する懸念も少ない。前後2輪のバイクならそうとう慎重になるシーンでも、ビビることなく楽に快走できてしまう事実には改めて驚かされた。安心できる背景には、強力なブレーキ性能もあり、コーナリング中でも活用できる頼り甲斐のある制動性能の高さとリクス回避能力が抜群なのである。




 そして左右それぞれのタンデムフロントフォークが協調しあうサスペンション性能も素晴らしい。ギャップでの衝撃吸収性が良く、車重も利いて落ち着きはらった安定感のある乗り味を披露。明らかに疲労度の少ない快適な乗り心地に貢献している。 


 それにしてもヤマハが言う通り、操縦性はまさにバイクそのもの。なんの違和感もない。後輪がスリップアウトしそうなシーンでも、対処方法は同じで車体挙動もバイクのそれと全く変わらない。ただ、NIKENの挙動は終始緩慢な傾向で全体にわたり穏やかで、ライダーはビックリさせられることが少ない。リラックスして走ることができるというヤマハ開発陣営のコメントに納得である。

油断したくなるほどの安定感

 スポーツライクな走りを安心して、思い切り気持ち良く堪能させてくれるという意味では、とても良くできた乗り物だ。圧倒的な制動能力の高さは4輪のそれに匹敵する。バイクと同じ感覚で車間距離を取り、コーナー手前でもバイクと同じ感覚でブレーキングを開始すれば、減速に対してとても大きなゆとりとなり、格段の安全性向上も期待できる。実際NIKENに乗ると、バイクよりもライダーの視界が広くなる事も分かっていると言う。ただ、これほどの安心感故にライダーが緊張感を持って操縦しなくなるのではないかと、新たな心配も頭に浮かんでしまう。


 とはいえ、LMWの潮流は重量級グランドツアラーや、あるいは軽量級パーソナルコミューター等、それぞれの分野での発展性は大きい。その技術力の証としてNIKENデビューの役割とインパクトは非常に大きい事は間違いない。今後の展開が楽しみである。

足つきチェック・ライダー身長170cm

ご覧の通りの爪先立ち。重量級バイクを支えるにはちょっと心もとない感じだ。シート高は820mm。幅があり快適なシートデザインは前方が細く配慮されてはいるが足つき性がよいとは言えず。

身長160cmの女性が乗ると……? 及川ルイ子's Impression

「”デカイ……” まるでモンスターのようなNIKENを目の前にビビりまくる身長160cmのわたし。どうしよう。触る前から完全に威圧されている(笑)。一瞬、乗ることをためらったけど、跨った姿勢から意外にもすんなり車体を起こすことができて覚悟が決まった。いざ、テストコースへとGO! 慎重にアクセルを開けていくと、フロントに若干の重量感があるものの、一般的なバイクととさほど違和感ないハンドリングに新鮮な驚きを感じる。 見た目の割に従順なタイプ!? 調子に乗ってアクセルを捻ったら、ドッカーン!!と背中から強烈な煽りを食らってまたびっくり 。このとんでもないパワー感はMT09よりも攻撃的なのでは!? でも不思議と神経質にならないのは、前2輪の圧倒的な安定感のおかげなのかも。ドッカンパワーの挙動にも、旋回時やブレーキングでの不安定な状況にも嫌な怖さを感じない。なぜか余裕すら感じるような……。これがマルチホイールの実力ってやつ!? 未体験の世界に、驚きと興奮を隠せないまま終わった3周のテスト走行。次回はじっくりNIKENを堪能してみたい」

ディテール解説

フロントノーズの中を下方から覗き込むとLMWならではのメカニズムが見えてくる。これがパラレログラムリンクだ。上下に位置するリンク機構。加えてLMWアッカーマン・ジオメトリによって、旋回時のステアリング干渉(トーアウト傾向)が抑えられている。

左右共に片支持される15インチサイズのフロントホイール。外側からガッチリと支持するのはタンデムフォーク。共に倒立式だ。ディスクローターはφ298mm。対向4ポットキャリパーがラジアルマウントされている。

見慣れぬ異様な光景のフロント周り。左右輪の幅を示すトレッドは410mm。意外と狭い数値だが、見た目の幅はかなりボリュームがある。前2輪により制動能力は抜群だ。

マフラーの主要部分はスイングアームピボット部の下側に位置しているが、後方右サイドにチョコンと顔を出す程度にデザインされた排気口。車体デザインの中からマフラーの存在が隠された印象を受ける。

搭載エンジンはMT-09で定評のある直列3気筒。水冷DOHC4バルブの845㏄は85kW(116ps)/10,000rpmの最高出力を発揮する。基本的にはMT-09と共通ながら、クランクは専用設計。慣性マスが高められスムーズで穏やかな回転フィーリングを発揮する。

燃料タンクの前方はかなりボリュームタップリなカウルで覆われている。MT-09比で 50mm後方に乗車させて前後輪の荷重バランスとる手法を採用。ステアリングは2軸式、ハンドル切れ角は36度だ。リヤスイングアーム長も同じく15mm延長され552mmとなった。  

白黒反転方式の液晶マルチファンクションメーター。速度計は大きなデジタル表示。上辺に位置するタコメーターは200rpm毎にブロックが出現し、横に伸びていく棒グラフ表示方式だ。両脇には各種ワーニングランプが点く。

メーター脇には12Vの電源取り出しソケットが備えられラバーキャップで防水性も確保。

左側縦並びの一般的な3種スイッチの他にクルーズコントロールのスイッチをレイアウト。下の丸い押しボタンがメインスイッチで、上で速度設定や設定復帰のコントロールができる。ちなみに4速以上のギヤで約50km/h以上の速度域で活用できるシステム。ライダーはクルージング時のアクセル操作から解放される。

上の赤いスイッチがエンジンキルスイッチとスターターボタンとを併用。下の丸いスイッチはハザート(4ウェイフラッシャー)ランプ用。中央の黒く四角いのはモード切り替えスイッチだ。

18ℓ容量の燃料タンク。実用燃費率は未計測ながら、300kmオーバーの後続距離は期待できそうだ。燃料種類は無鉛プレミアムガソリンと指定されている。

形状にかなり工夫の跡が見える前後セパレートシート。前席はかなりワイドなデザインが施され座り心地が良い。前方はクッションの両肩部分がカットされてスリムに設計。ニーグリップへのフィット性と足つき性確保も考慮されている。

一段高い位置のタンデム用後席シートクッションは脱着式。中のスペースとしては、ETC機器を収納できる程度。

■主要諸元■

認定型式/原動機打刻型式 2BL-RN58J/N714E


全長/全幅/全高 2,150mm/885mm/1,250mm


シート高 820mm


軸間距離 1,510mm


最低地上高 150mm


車両重量 263kg


燃料消費率*1 国土交通省届出値


定地燃費値*2 26.2km/L(60km/h) 2名乗車時


WMTCモード値 *3 18.1km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時


原動機種類 水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ


気筒数配列 直列, 3気筒


総排気量 845cm3


内径×行程 78.0mm×59.0mm


圧縮比 11.5:1


最高出力 85kW(116PS)/10,000r/min


最大トルク 87N・m(8.9kgf・m)/8,500r/min


始動方式 セルフ式


潤滑方式 ウェットサンプ


エンジンオイル容量 3.40L


燃料タンク容量 18L(無鉛プレミアムガソリン指定)


吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション


点火方式 TCI(トランジスタ式)


バッテリー容量/型式 12V, 8.6Ah(10HR)/YTZ10S


1次減速比/2次減速比 1.680/2.937


クラッチ形式 湿式, 多板


変速装置/変速方式 常時噛合式6速/リターン式


変速比 1速:2.666 2速:2.000 3速:1.619 4速:1.380 5速:1.190 6速:1.037


フレーム形式 ダイヤモンド


キャスター/トレール 20°00′/74mm


タイヤサイズ(前/後) 120/70R15M/C (56V)(チューブレス)/ 190/55R17M/C (75V)(チューブレス)


制動装置形式(前/後) 油圧式ディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ


懸架方式(前/後) テレスコピック/スイングアーム(リンク式)


ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED


乗車定員 2名

テストライダー:近田 茂

1970年代にモトライダー誌の製作に携わり、その後フリーに転身。守備範囲はモーターサイクル、クルマ、大型トラックまで幅広い。


テストライダー:及川ルイ子

1992年にフル参戦した関東ロードレース選手権・S80クラスで、MFJ公認レースとしては女性で初めてシリーズチャンピオンを獲得する経歴を持つ。最近ハマっているのはトライアル競技を観戦すること。いつか自分でもやってみたいと模索する今日この頃。愛車はRZ250とセロー225。

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