富士通研究所は、データセンター間をつなぐ光ネットワークにおいて、新たな送受信器を導入することなく、光ファイバーの伝送容量を拡大できる超大容量光波長多重システムを開発した。これまでデータセンター間の伝送容量を拡大するには、使用する光ファイバーの本数を増やすか、各バンド(波長帯域)に対応した送受信器がそれぞれ必要だった。今回、Cバンドの光信号をLバンドやSバンドなどの新しい波長帯域に一括変換し、受信時にはもとのCバンドに戻すように再度変換する世界初の広帯域波長変換技術を開発した。本技術を活用し、Cバンドの光信号をLバンド、Sバンドにそれぞれ変換後、Cバンドとともに多重化して送受信を行うシステムを開発したところ、3倍の伝送容量拡大の原理確認に成功した。これにより、データセンター事業者は、既存の機器をそのまま活用して、光ファイバーの利用効率を高め、伝送容量を拡大することが可能になり、今後データ量の爆発的な増加が見込まれる5Gでつながる機器のログ情報や8K映像素材などの大容量非構造化データを、データセンター間で分散して収集・バックアップ・並列分析する上で課題となるネットワークのボトルネックを解消する。
Cバンドとは、国際標準規格ITU-Tで規定される光伝送で使用される波長帯域のことで、Cバンドは1,530nm~1,565nm波長帯域。なお、Lバンドは1,565nm~1,625nm波長帯域、Sバンドは1,460nm~1,530nm波長帯域。
近年、インターネットを介した動画配信、SNSなどにより、データセンターが処理するデータ量が増大しており、今後5Gや8Kの普及に伴い、さらなる爆発的なデータ流通が予想される。データセンター事業者は、データセンター間を光ネットワークでつないで、ディザスターリカバリを目的とした分散保存や、高速処理のための分散処理を行っており、今後のデータ容量のさらなる増大に備えて、データセンター間伝送容量を拡大する必要がある。
データセンター間の伝送容量を拡大する場合、使用する光ファイバーの本数を増やすことが考えられるが、光ファイバーの利用本数に応じた追加費用がかかるため、大きな負担となる。一方、一般的に、光ネットワークでは伝送効率のよいCバンドが使われているが、データセンター間の距離が数10km間の中距離伝送においては、LバンドやSバンドなど他の波長帯域を活用しても伝送損失の影響は少ないと見られ、それらの使用されていない波長帯域を活用することも検討されている。しかし、Cバンド以外の新しい波長帯域を併用する場合、各バンドに対応した送受信器をそれぞれ開発する必要がある。
開発した技術
今回、送信器から出力されるCバンドの光信号を新たな波長帯域に一括変換して伝送し、元の波長帯域に戻るように変換してから受信器に入力する超大容量光波長多重システムを開発した(特許出願済)。
まず、Cバンドの光信号に、ふたつの励起光(光信号を変調する非線形光学媒質内の屈折率変動を引き起こす光のこと)を加え、波長が混在した信号を生成する。励起光によって屈折率が変化することにより別の波長を生じる非線形光学媒質に通すことで、光信号を新たな波長帯域に移動する。同様の原理により、伝送後の光信号を受信器側でCバンドに戻す。
開発技術では、ふたつの励起光の波長を、それぞれの非線形光学媒質が持つ波長分散の特性に基づいて制御することで、光信号を任意の波長帯域に変換することが可能となった。また、ふたつの励起光に対する制御を同期することで、波長変換後の光信号に重畳するノイズを低減できるため、高効率の波長変換と光信号の品質確保の両立が可能となる。
本技術を活用し、Cバンドの光信号をLバンド、Sバンドにそれぞれ変換後、Cバンドとともに多重化して送受信を行うシステムを試作し、新しい波長帯域の送受信器を使用することなく3倍の波長帯域拡大の原理確認に成功した。この技術を用いることにより、さらに異なる帯域を用いた伝送が可能となり、必要に応じて伝送容量を2倍~10倍へと拡大することが可能となる。これにより、データセンターに設置されている送受信器だけでなく今後開発される最新のCバンド用の送受信器を、即座にCバンド以外の新しい波長帯域で活用することができるようになる。
富士通研究所は、2019年度に本技術を光伝送システム「FUJITSU Network 1FINITY(ワンフィニティ)」の新ラインナップに適用することを目指す。また、データセンター事業者への展開を検討し、顧客の新規ビジネス創出に貢献していく。