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マツダのSKYACTIV-Xも、トヨタの新エンジンもそう! 速く燃やすとなぜいいのか。薄くするためにはどうしたらいいのか。


SKYAKTIV-Xこそがガソリンエンジンの救世主である……と思われがちだし、我々メディアもそう思っているフシは否めない。けれどマツダには申し訳ないが、SKYAKTIV-Xはまだ市販されておらず、その成否は誰にも分からない。マツダ以外のメーカーもきっとそのことを踏まえて、固唾を呑んで見守っている、というのが現状のはずだ。だからこそと言うべきか、既存のガソリンエンジンにはまだまだやるべきことがある。


TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

 昨今の新エンジンについてのプレスリリースを読むと、必ずと言ってよいほど「タンブル流の強化」という語句が出てくる。タンブル流の意味は導入される混合気がシリンダーで縦方向の渦を形成することを指す。なぜこれが重要かと言えば、急速燃焼の主因となるからだ。


 比較的低温でダラダラと燃焼が進むディーゼルと異なり、ガソリンエンジンは混合気を圧縮してプラグ点火する都合上、火が点いたらすぐに燃えてくれないといけない。燃焼に時間がかかるとピストン下降の間に熱エネルギーは冷却損失に変わってしまい、効率が上がらないからだ。すぐに燃えてくれないのは燃焼室の表面積が大きくて火炎伝播に時間がかかる場合と、燃料と空気が十分に混ざっていないことが理由の場合がある。




 コスワースDFVが嚆矢となった、4バルブ化とバルブ挟み角を狭めてコンパクトなペントルーフ型燃焼室を形成する手法は、急速燃焼で出力を上げる方法論として乗用車用エンジンにも一般化した。それまでの2バルブエンジンでは燃焼室形状を半球型にせざるを得ない。同じ底面積で半円と三角錐を比べれば容積は後者の方が少なくなる。そうすることで急速燃焼と同時に表面積の分、熱が逃げにくくなる。

コスワースDFXのバルブ/ポート設計。中心点火+狭角設計の4バルブ構造、お手本のようなペントルーフ型燃焼室、スロート部を活用した吸気タンブル流などを備え、無敵のユニットとして名を馳せた。DFXは、DFVのショートストローク+ターボ過給仕様。

  


 


 


 燃料と空気をよく混ぜないと、ECUが計算して折角ストイキオメトリーという理想的なガソリン:空気の混合比にしたにもかかわらず、完全に燃え切らない燃料が発生してしまう。燃え切らないということは、言い換えれば燃えにくいことであり、混合気が燃焼する間にピストンはどんどん下降して、発生した熱エネルギーに対して取り出せる運動エネルギーは減ってしまう。それを防ぐには空気の流れを利用して混合気を「よく混ぜる」ことが肝要だ。砂糖やミルクを入れたコーヒーは、よく混ぜないと美味くないのである。


 2バルブエンジンではバルブの傘径を大きく採るために、吸排気バルブはオフセット配置されるのが通例である。そうすると吸気側の混合気はシリンダーへ螺旋を描くように横方向の渦を巻いて入って行く。この横渦を「スワール」と呼び、空気とガソリンの混合に大きく役立っていた。

ホンダのi-DSIの構造図。2バルブ2スパークプラグの構造とし、スワールを積極的に用いていた。(FIGURE:HONDA)

  


 


 


 ところが、4バルブエンジンになると並列配置の吸気バルブから、吸気は真っ直ぐシリンダーの中に入って行くことになる。このタンブル流はスワールに比べてデリケートで脆い。吸気行程が終わってピストンが圧縮上昇を始めると、縦渦がどんどん崩れていってシリンダー内での流れが止まってしまうのだ。これをタンブル崩壊と呼ぶが、スワールはコイルばねが縮みながらも形状を保つように、ピストン上昇の影響を受けにくい。つまり進化したと思われる4バルブエンジンも、ことシリンダー内での混合気流動という点では不利になってしまう。そこでバルブ挟み角をどんどん狭めてなるべく吸気を真っ直ぐ、抵抗なしに導入しようとする他、吸気ポートにバイパスを設けて、低回転で流動エネルギーが弱い時に流速を高める「タンブルジェネレーター」等の仕掛けも生まれた。

スバルはタンブルジェネレータバルブをポート内に備え、吸気流入角度と速度をコントロールしている。(FIGURE:SUBARU)

 


 


 


 バルブを立てていくのには一定の制約がある。無闇に立てるとシリンダーヘッドの高さが増えて、衝突安全性の点からボンネット高を抑えるボディ設計の時流と相反する。吸気ポートがカムやロッカーアームの配置に制約を生んでしまうし、いくら立てても今度はバルブの傘にまともに当たって要らぬ抵抗が生まれる。


 トヨタの新プラットフォーム戦略・TNGAによって設計されたA25A-FXSエンジンでは、従来の2AR型に比べ、バルブの挟み角を31度から41度に拡大している。こうすることで吸気ポートを無理なく直線形状にできる他、吸気がバルブ傘に直接的に当たる率を減らして、吸気エネルギーをなるべくタンブルに結びつけようとしているのだ。

A25A-FXSのポート断面図。吸気ポートの進入路鋭角化を図るためにレーザクラッド式のバルブシートを採用しているのもトピック。(FIGURE:TOYOTA)

  可変バルブリフト機構を用いてスワール生成に役立てる例もある。吸気2バルブのうち片方の動作を止めて片側のバルブだけで吸気を行うのだ。低回転時では吸気のためのピストン運動も緩慢ゆえ、どのみち吸気量は多くできない。ならば1バルブでも十分吸気量を確保できる上、そうすることでもう一方のバルブからの吸気に邪魔されずにスワール(斜め方向の流れになるのだろう)が生成できるというわけだ。

フィットに搭載されるL15Bのシリンダヘッド。VTECを用いて吸気バルブの片側を休止、スワールを生成させる。

 高タンブル流が特に必要とされるのは直噴エンジンだ。ポート噴射では混合気がシリンダーに入るまでの経路が長いので混合のための時間的猶予があるし、燃焼室の熱を受けたポートを混合気が通るのでそれだけ燃料の霧化が促進される。直噴はまるで逆になるので、高タンブルでなるべく早く混合気をかき混ぜないと、燃え切らない「生焼け燃料」の煤が発生してしまう。1990年代の直噴エンジンがことごとく失敗して市場から引っ込められたのはこれが主原因。しかし現在の高圧縮比化には直噴は不可欠とも言えるので、高タンブルは一層ガソリンエンジンの重要課題としてクローズアップされているのだ。

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