過日。腹が減ったため近所のマクドに行くと、隣のテーブル席で女子高生2人が以下のようなことを話していた……というのは真っ赤な嘘だ。その日わたしが行ったのはメッダアナル(McDonald’s)ではなく株式会社吉野家が運営する牛丼チェーンの1店舗で、隣でちょっとした言い争いをしていたのはJKではなく、中年の男性カーマニア2名だった。
「やっぱ輸入車にはさ、国産車にはない“味”ってモンがあるんだよ。それを考えると、やっぱオレはどうしても国産車は買う気になれないね。あんなのダメだよ」
やや太っているほう、仮にマニアAとするが、Aがそう言った。
それを受けて答えたのが、やや痩せぎすなほう、仮にマニアBと呼ぶ男だ。
「そんなことないだろ? 昔と違って技術的な差はないというか、むしろ日本のメーカーのほうが上な部分もあると思うし。まあいずれにせよこれだけ国産車の全体的なレベルが上がってて、選択肢もこれだけ豊富なんだから、わざわざ高いカネ出して輸入車買う意味なんてもはやあんまり無いよ」
マニアBの意見を聞いてマニアAは不服なようだったが、わたしの意見は、どちらかと言えばマニアBに近い。すなわち「どうしたって割高になる輸入車を、無理をしてまで買う必要はない」ということだ。
そのため、わたしはマニアBに加勢することした。
「基本的にはキミが正しい」
美しい発声でそう言いながら、わたしは隣のテーブルの空いてる席に勝手に座り、マニアBに握手を求めるべく右手を差し出した。だがBは新型コロナウイルスが怖いのか、はたまたわたしを狂人と勘違いしたか、握手は拒否された。
だがわたしは構わず続けた。
「繰り返すが、基本的にはキミ、痩せてるほうのキミ! が正しい。今どき日本国内でわざわざ輸入車を選ぶ意味など、さほどありはしない。だが……キミが正しいというのも、あくまで『基本的には』でしかない!」
わたしは吉野家の店内でピシャリとそう言い切り、我ながら「キマったな……」と思いつつ、マニアAおよびBのほうをちらりと見た。羨望と尊敬の眼差しを、わたしに向けているに違いないと思ったからだ。
だが相変わらずマニアBはわたしを狂人と勘違いしているようで、目を合わせようとしない。そして太ってるほうのマニアAはうつむいている。立腹しているようにも見えた。
だがわたしは気にせず続けた。