今年の11月は、すでに終わってしまった月の金星食、火球が見られるかもと期待されるおうし座流星群、18日最大となるしし座流星群、そして何より19日の部分月食などが話題となりなかなかにぎやかですが、そんな中、地味ながら見どころとなるのが5日に衝(地球を挟んで天体が太陽の対極に位置すること)となり、光度最大となった天王星です。あまりに遠く、肉眼で目視困難なトランスサタニアン(土星外惑星)は、謎が多く、神秘的な天体です。
古来の天文学を変革した辺境に打ち建つ「王国」の発見
天文学が発達した古代バビロニアの時代から、惑星といえば水星、金星、火星、木星、土星の五つで(もっとも水星と金星は、明けと宵で別の星と考えられていた時代もありましたし、月を惑星に加える考え方もありました)、この調和的と考えられる宇宙観はごく近代になるまで何千年も変わることはありませんでした。
しかし、1781年、ウィリアム・ハーシェル(Sir Frederick William Herschel)が、それまでにもガリレオ・ガリレイらによって何度も観測されながら恒星の一種だと考えられていた天王星の軌道を詳しく解析、太陽系第七の惑星としたことで(当初は彗星として発表)、長い時代受け継がれた太陽系システムがはじめて刷新されました。
その後、1801年に惑星ケレス(後に準惑星に)、1846年に海王星、1930年に冥王星(後に準惑星に)が発見され、今私たちが知る太陽系のかたちとなりました。
日本語名で「王」と統一された名の付くこの新しい三天体は、ギリシャ神話、またはローマ神話の神名から名付けられたものです。
天王星は天空神ウーラノス(Uranus,Ουρανός)から。
海王星は海神ネプチューン(Neptune,Neptunus)から。
冥王星は冥界神プルートー(Pluto,Plūtō)から。
一見統一性をもって付けられたように感じますし、特に天王星と海王星は、ほぼ大きさも同サイズで同じ氷型ガス惑星としてセットで語られることが多いのですが、ウーラノスはギリシャの神なのに対し、ネプチューンとプルートーはローマ名(それぞれギリシャではポセイドン、ハーデスにあたります)。さらに、ウーラノスは大地の女神・ガイアと対となる天空、天蓋、宇宙全てを人格化した原始的な神で、ガイアとの間にティーターン族(巨人族)が生まれ、この巨人族の一柱がクロノス=ローマ神話のサトゥルヌス(サターン)で、さらにクロノスが生んだ神々が、天帝ゼウス(ローマ神話のユビテル/ジュピター)や先述したポセイドンやハーデスになります。なので、ネプチューンとプルートーはジュピターの兄弟神で、ウーラノスは彼らの祖父という関係になり、この三柱の「王」には、統一性は実はありません。
天王星と海王星は、かつて太陽系生成当時はこの位置にはなく、もっと太陽に近い位置を回っていたが、木星の強い重力により外側へと弾き飛ばされてしまった、という説があります。惑星界の暴君・ジュピター(木星)が、祖父(天王星)、兄(海王星)を辺境に追放してしまったというわけです。
いずれにしても、この辺境の宇宙空間をゆっくりと回る三つの「王」は、内側を回る岩石惑星たちとも、二つの巨大ガス惑星とも異なる、奇妙さや特異さを持つ天体たちです。
準惑星冥王星については後のシリーズにゆずり、まずは天王星と海王星について解説しましょう。
横転した不可解な巨星。11月は天王星を観察できる絶好のチャンス
土星の一つ外側を回る天王星。「一つ外側」と言ってもその太陽からの距離は平均28億7,500万kmで、約14億kmの土星の二倍の距離があります。公転周期は84.25年で、地球との会合周期は約370日。したがって天王星は太陽を一周する間に地球に83~84回追い越され、そのたびに逆行が起きるので、その軌道は地球から見て鎖をつないだようなものとなります。
赤道直径は5万1,118kmで地球の約4倍もあり、大きさは木星、土星に次ぎ太陽系三番目の大惑星です。その組成は地球や金星のような岩石組成の惑星とも、木星や土星のようなガス惑星とも異なり、外側を水素とヘリウムなどからなる分厚い大気が覆い、その内側の中層部には、さらに分厚いメタンやアンモニア、水などが氷結して混成した液体のマントル層があります。
そして天王星が特異なのは、その自転軸が公転軌道に対してほぼ真横、つまりほぼ完全に横に寝そべったかたちになっていることです。その傾斜角は98度で、したがって天王星は、常に北極か南極面を太陽に向けていて、しかも自転が横向きなので、一日ごとの夜昼が訪れず、その半球は42年間ずつ太陽に照らされ、42年間ずつ真っ暗闇の中にあることになるのです。さぞや太陽に正対する極は暑かろうと思いきや、なぜか平均温度は横になった赤道付近のほうが高く、なぜなのかまったくわかっていません。
天王星には、土星に次いで目立つ「環」があります。この環もまた、本体の赤道に沿っており、つまり土星の輪が水平に近い見え方をするのに対し、天王星の環は垂直に立った見え方になります。1986年のボイジャー2号の最接近時の観測により、環は13本のラインからなり、わずか数kmの幅の中に、20cm~20mほどの小石や岩石によって形成されていることがわかりました。かつて天王星の周りを回っていた衛星が、何らかの理由で破壊されたあと、周囲を周回するようになったものと考えられていますが、天王星が横転している理由として推測されている大型天体の衝突時、あるいは巻き込まれて粉々になった衛星があったのかもしれません。
長い夜(冬)から脱した極地は、太陽が当たるようになると気温が上がり、「春」の嵐が発生します。時速400kmを超える風が噴きあがり、凍りついたメタンの輝く雲を形成するのです。このとき、普段は薄青い翡翠のような静かな天王星の表面が、一部白く輝く現象が見られます。
今年の11月は、普段はまず肉眼では捉えられない天王星を見つけることのできるチャンスです。11月5日が衝となり、光度が5.6等となるため、その前後の期間は普段より天王星が明るく輝き、暗く澄んだ空ならばぎりぎり見えるからです。
とはいえ、他の星とまぎれてどれが天王星なのかを判別するのはむずかしく、また動きも他の惑星たちと比べてもゆっくりですので、発見の難易度は高めです。現在おひつじ座にありますが、目立つおうし座のプレアデス星団の右側付近がおひつじ座になりますので、その付近を根気強く探してみましょう。
太陽系随一の美しい星。海王星は宝玉の王国?
海王星は、天王星の外側を回り、現在の観測上では、太陽系のもっとも外側を回る惑星になります。赤道直径は14万9,534kmと、天王星よりわずかに小さいのですが、質量は天王星が地球の15倍に対して海王星は17倍と上回り、重さでは太陽系で三番目に重いことになります。密度は高く、木星、土星をあわせた太陽系の四つの大惑星の中でもっとも比重の高い惑星です。
太陽からの距離は44億5,044kmで、もはや地球からは肉眼では見ることができず、天王星の軌道の不可解な乱れから、アレクシス・ブヴァール(Alexis Bouvard)が未知の惑星の存在を示唆、この推測をもとにガレ(Johann Gottfried Galle)が1846年に海王星を望遠鏡で捉え、発見にいたりました。公転周期は約165年で、現時点ではうお座にとどまっています。この位置に海王星が前回あったのは、日本では江戸時代末期。そう考えると、なんと悠久の巡りを見せる星でしょうか。
長くぼんやりとした映像しかなかった神秘の星でしたが、1989年、ボイジャー2号が海王星にスイングバイ(天体重力推進)で接近、間近な海王星の映像が得られました。そしてそのあまりの美しさに息をのんだ人も多かったはずです。地球を含めても、この深く澄んだ藍色の宝玉のような美しさは、太陽系随一と言っても過言ではないでしょう。
この青い色は、表層を分厚く覆う大気中のメタンが赤色を吸収し、青色を散乱発色するためで、天王星も同様なのですが、海王星のほうがはるかに青いのは、メタンの濃度が高いためと思われます。
しかし、その見た目の美しさと真逆に、海王星の環境は恐ろしいもので、大気の下層部の圧力は地球の大気の10万倍という重さで、その中で時速2,200kmという、超音速の暴風が常に吹き荒れています。この暴風は、大気上層に大暗斑という深紺の渦を形成します。暴風の横じまや大暗斑を見せる海王星は、「青い木星」とも言えるのです。
そして海王星のこの過酷で異様な環境下では、大気を形成するメタン(CH4)が分離して炭素が高圧で変質しダイヤモンドとなり、中心核に向かって降下する「ダイヤモンドの雨」が降り注いでいます。このとき、ダイヤモンドは他の組成物質とこすれあい、大量の摩擦熱を生み出します。海王星は、地球の1/900しか太陽からのエネルギーを得ていないにもかかわらず、内部からはその2.6倍ものエネルギーを放出しています。
天王星にもダイヤモンドの雨現象は起きていると考えられていますが、海王星のほうがずっと規模は大きく、生み出すエネルギーは2倍以上あると推測されています。
辺境の惑星は、人が垂涎の宝石が湯水のごとく湧き出ている、まさに宝の王国、仏教的に言えばリアル「金剛界」(金剛=ダイヤモンドです)とも言えますね。
今は西の空に見えるおひつじ座とうお座。その付近に天王星と海王星がひっそりと位置しています。双眼鏡や望遠鏡で、地球の遠い兄弟星をさがしてみてはいかがでしょうか。
(参考)
宇宙 最新映像で見るそのすべて ニコラス・チータム 河出書房新社
星空図鑑 藤井旭 ポプラ社
2021年11月の星空 - アストロアーツ