秋分に入り、まだ暑い日もありますが、朝晩などは秋の爽やかさを感じるこの頃ですね。これから標高の高いところでは紅葉も始まり、秋の景色を満喫できそうです。
さて、秋の花といって思い浮かべるのは、コスモスでしょうか? それとも彼岸花? 春は桜や色とりどりの花が咲き、夏は新緑がまぶしい緑の季節。けれども、秋の花に関しては比較的地味な印象ですよね。
そこで今回は、そんな秋ならではのかわいらしい季語をご紹介します。そこには日本人の秋への想いがうかがえる言葉がありました。
秋に多い草花の季語
秋は日差しも弱まり、冬にむけて枯れゆく季節であり、その終焉(しゅうえん)が紅葉なのかもしれません。そんななか、可憐な草花が秋を彩っているのはご存じでしょうか? 意外と知られていない「秋の七草」など草花の季語を集めてみました。
○「秋の七草」
七草には、春の七草、秋の七草があります。春はご存じ、正月に食べる七草粥の七草ですが、秋の七草とは?
秋の七草は、萩(はぎ)・芒(すすき)・葛(くず)・撫子(なでしこ)・女郎花(おみなえし)・藤袴(ふじばかま)・桔梗(ききょう)の七種類。
これらは『万葉集』のなかで山上憶良が「秋の野に咲きたる花を指折りてかき数ふれば七草の花」と詠んで以来、日本人に親しまれてきました。しかも、いずれも薬用・食用など、実用的で生活に深くかかわっていた草花なのです。ちなみに、最後の桔梗は、当初は「朝顔」でした。朝顔は薬草の一種であり、夏のイメージがありますが秋の季語ですよ。
○「花野」
昔から和歌や蓮歌で詠まれてきた季語で、野原に千草が咲いている様子をいいます。秋もたけなわになる頃、秋の野草がさまざまな花や穂をつけ風になびきます。一面に咲く野草は、春の人工的なカラフルな色合いの花に対して野生の美であり、やがて枯れゆく前の一時の華やぎと寂しさがある言葉ですね。
○「草紅葉」
木々が紅葉するころに、足下をよく見れば、野の草も美しく紅葉しています。こんな小さな発見も季語になっているのです。「草の花」「草の穂」「草の実」「水草紅葉(みぐさもみじ)」なども。日光の草紅葉は有名です。
その他の秋の季語
ここからは秋らしいそのほかの季語をご紹介しましょう。
○「色鳥」
秋にはいろいろな小鳥が渡ってきます。そのなかには、羽根の色が美しい小鳥も多く、それらを総称してつけられた言葉。あとり、まひわ、ひたき、のごま、ましこ、などは色彩が豊かな種類です。春のにぎやかな「囀り」(さえずり)に対して、色に焦点をあてている点も秋らしいですね。また、北国から渡ってくる鳥を「渡り鳥」といいますが、なかでも小さい鳥をさす「小鳥くる」もかわいい季語です。
○秋桜(コスモス)
秋の野を彩るひとつとしてコスモスがありますが、実はコスモスは園芸品種。野の花ではありません。コスモスはキク科の一年草で、原産地はメキシコ、コスモスはギリシャ語です。花言葉は「調和・善行・装飾・名誉・宇宙」など。明治時代中期に異国からもたらされたとされています。しかし、原産がメキシコとは思えないほど日本の風土に根ざし、秋の桜という和名がつけられました。薄桃色の花が風に揺れている様子は、いかにも秋らしく、堂々と秋を代表する花になっていますね。
(参照:俳句歳時記(春~新年) 角川学芸出版 角川文庫/入門歳時記 大野林火・著 角川学芸出版/広辞苑/明鏡国語辞典)
秋の彩りはひとつじゃない
──言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。
確かに秋の彩りといえば紅葉を思い浮かべますが、野の花の可憐さも忘れてはならないですね。萩や葛などの花が散りゆく様子や足下の草まで、一見地味なイメージの秋ですが、小さな命の営みを感じることができるのも、季語という言葉のおかげなのかもしれません。