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涼しさを求める夏らしい言葉たち ── 8月の詩歌


最近はアスファルトの照り返しや、エアコンの室外機の排気によるヒートアイランド減少、さらに気候変動といったいろいろな原因が重なっているのでしょうが、かつての記憶にある夏より「暑さの質が濃くなっている……」と感じているのは、筆者だけのことでしょうか。

でも、暑さをまぎらす工夫は昔も今もいっしょです。とはいえ最近では、“涼”を求めた(?)男性のくるぶし出しパンツが、仕事着として是か非かなどの議論も盛んですね。それはともかくとして、セミの大合唱を聞きながらの読書のかたわら、涼し気な言葉をみつけて涼しい気持ちになってみましょう。

太陽の方向に向かって咲き誇る、夏の代名詞「ひまわり」

太陽の方向に向かって咲き誇る、夏の代名詞「ひまわり」


今日もまた「暑し」……

真夏もまだ朝は空気が爽やかです。昼ごろからは、容赦のない炎天下が始まります。それにぴったりの季語があります。「暑し」「炎(も)ゆる」または「炎昼」などです。

〈暑き日を海に入れたる最上川〉松尾芭蕉

〈大空の見事に暮るる暑さかな〉小林一茶

〈炎昼いま東京中の一時うつ〉加藤楸邨

面白いことに俳句では「涼し」も夏の季語です。もっとも涼しさがほしい季節だからです。午後3時頃になってくると、いろんなところに影ができ始めます。これを「片蔭」といいます。書肆は本屋のこと。早稲田か神保町の風景でしょうか。

〈涼しさを思ひ出させて降る雨よ〉稲畑汀子

〈書肆街の片蔭つたふ我が家路 西島麦南

夏の花といえばやはりひまわりですね。誇らしげに咲く姿は夏のシンボルです。

〈海の音ひまはり黒き瞳(め)を開く〉木下夕爾

〈向日葵の大声で立つ枯れて尚〉秋元不死男

最近は突然の大雨による被害も起きていますが、やはり夕立はほっとするものです。次の句は小津安二郎の映画「浮草」の鴈治郎と京マチ子が喧嘩する名場面を思い出させます。

〈夕立やかみつくやうな鬼瓦〉小林一茶

〈夕立は貧しき村を洗ひ去る〉松瀬青々

夕立の時にはしばしば雷が鳴ります。三鬼の句に歌われているのは都市的な雷ですね。

〈昇降機しづかに雷(らい)の夜を登る〉西東三鬼

夏の夜は短い。俳句ではそれを「短夜」と表現します。

〈短夜の明けゆく水の匂かな〉久保田万太郎

〈短夜の壺の白百合咲き競ひ〉三橋鷹女


夏の夜空に咲く大輪・ロマンティックな花火

夏の野菜といえば、ナス、トマト、きゅうり。

その中でもトマトは、がぶりと噛みつくのが醍醐味。次の句はその肉感的な感じをよくとらえています。

〈くちづけのあとの真っ赤なトマト切る〉大高翔

そしてこの季節、各地で花火大会が開かれます。次の句は恋人の求愛の返事でしょうか。ロマンティックです。

〈街への投網のやうな花火が返事です〉夏石番矢

〈空に月のこして花火了(しま)りけり〉久保田万太郎

〈花火あがるどこか何かに応えゐて〉細見綾子

〈花火果て銀河に戻る隅田川〉角川春樹

夜空に咲く花火はどういうわけか、遠い記憶を呼び戻します。

最後に斎藤茂吉の短歌を二首。歌意を深読みしようとしなくとも、言葉の微細な動きが心に残ります。「浅茅原」は荒れ果てた野原のこと。

〈真夏日のひかり澄み果てし浅茅原(あさじはら)にそよぎの音の聞こえけるかも〉斎藤茂吉

〈水すまし流にむかひさかのぼる汝(な)がいきおひよ微(かす)かなれども〉斎藤茂吉

隅田川のスカイツリーと花火

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