
<阪神5-4中日>◇19日◇京セラドーム大阪
阪神糸原健斗内野手(32)の気迫が打球をひと伸びさせた。「落ちてくれ!」。3-3の6回2死一、三塁で代打登場。2球で追い込まれたが、カウント1-2から藤嶋の低いフォークをバットの先で拾った。二塁手が必死に背走したが、ポトリと右前に落ちた。一塁ベース上で声を張り上げ、ベンチに向けて右手を突き出した。
「いい場面で使ってもらって、何とか結果を出したかった。気持ちというか、執念で打ちました。めちゃくちゃ久しぶりですけど、よかったです」
安打は2カ月ぶり。その間、再調整も経験した。「ずっとチームに迷惑をかけていたので、結果で返したかったです」。思うようなシーズンではなくても、やはり欠かせない存在だ。今季4打点目だが適時打は初。左翼ゴロ、押し出し四球、犠飛。過去のシブすぎる3打点が、打席で必ず仕事をする「事起こし職人」の勲章だ。決勝打は23年9月10日の広島戦以来、実に2年ぶりとなった。
代打が「主戦場」になって3年目。その難しさを嫌というほど感じてきた。期待されるのは一線級の投手の攻略だ。少しでも気持ちや準備で後手になると勝負にならない。終盤の出番からさかのぼること約10時間。本拠地では午前中に球場に来て「準備だけはしっかりと」と延々、無数のルーティンをこなしている。
同じ時期に代打が中心になった先輩原口とは、食事の席でも「代打論」を熱く交わす。配球に始まり、技術論、チーム全体のことまで。出番は勝敗に関わる場面ばかり。責任の重さが重圧になり、のしかかる。
「1打席、1球しかないので。その中で結果を出さないといけない。チームが勝てたのでよかったです」
ニューフェースが輝いた夜。試合を決める1点は、年輪が刻まれた味わい深い一振りから生まれた。【柏原誠】