
18日ヤクルト戦後の広島新井貴浩監督(48)の談話は、4番の末包昇大外野手(29)に集中した。先制したとはいえ、1回に3連打で得た無死満塁からの二併殺は痛かった。7回1死満塁を含め3度の得点機で凡退。劣勢の中で11安打した打線の勢いを加速できなかった。
試合展開としては4回までの7失点が大きく響いただけに、末包だけが責められるものではない。だが、試合後のコメントの8割以上が4番に向けられた。その熱から感じたのはいら立ちではなく、期待感だった。これまでの“4番目の打者”にはかけなかったであろう言葉が並んだ。
「悔しさを燃やして、力に変えないといけない。そして成長していかないといけない。チーム内だけの競争じゃなしに、相手チームの4番に負けないとか、外に目を向けないと」
新井監督の中で“4番目”ではなく、“4番”としての期待が芽生えているように感じた。末包は7日31戦で4番に返り咲き、前日まで出場14試合連続で4番起用され、チーム最多58試合で4番を任されている。
試合後、一塁側ブルペンでバットを振り込んだ末包は、敗戦の責任を背負って球場から出てきた。「今日ははっきり、4番で負けた試合だった。相手の4番がしっかりと決めるの(3ラン)を見ると、僕が打てれば勝ちを引き寄せられる試合になった」。まだ試合後の指揮官のコメント知らない。だが、後半戦の継続的な4番起用という無言のメッセージが末包に響いていた。
「最初は固定されていないので出たところで結果を出せたらと思っていましたけど、今は(4番で)チャンスももらっている。(ヤクルトの4番)村上は試合を決定づけるホームランを打っていますし、負けちゃいけない。僕が打てれば、勝ちを引き寄せられる試合になった」
末包にも、4番としての意欲が芽生え始めている。新井監督が求めているのは、結果だけではない。技術やパワー以上に、4番らしい姿だ。
新井監督は常々「何事も中庸」と語り、極端に偏らずバランスの重要性を大事にしてきた。結果と向き合う、反省と切り替えのバランスも同様だ。ただ、若い選手の中には切り替えることに偏って見える選手もいる。データ化によって、反省点や改善点を数字が示される時代の流れも影響しているのかもしれない。
それでも新井監督は、選手個々に強要することはなかった。むしろ、求めないようにしていたように感じる。だからこそ、このタイミングで末包に向けて鼓舞したことに大きな期待感を感じたのだ。
4番は打線の顔であり、打線を映し出す鏡ともなる。良くも悪くも打線全体に波及する。3連覇時の広島で4番を務めたのが新井監督であり、米大リーグでプレーするカブス鈴木だった。彼らは凡退の後も切り替えるだけでなく、悔しさや反攻心、自身への怒りをにじませながら戦っていた。
「悔しさってずっと覚えて、自分でずっと持ち続けないといけない。誠也の何が優れているかって、そういうところ。“それも成長していくために必要な要素。切り替えて切り替えてばかりじゃなく、悔しい気持ちを持ち続けて。いい意味で次の試合に持ち込んでいく。そういう作業は自分でしかできない」
シーズンは残り36試合。末包はこのまま“4番目の打者”で終わるのか、それとも“新4番の序章”とするのか-。4番と向き合う姿が、チームの未来を映し出す。【広島担当 前原淳】