
<巨人0-3阪神>◇16日◇東京ドーム
ミスターの教えを胸に、特別な試合での敗戦にも上を向いた。巨人は今季最多4万2403人の観客が詰めかけた「長嶋茂雄終身名誉監督追悼試合」で首位阪神に完敗。それでも、左肘靱帯(じんたい)損傷で離脱していた岡本和真内野手(29)が「4番三塁」で1軍復帰するなど、今後へ向けて明るい話題もある。弔い星こそ届けることはできなかったが、阿部慎之助監督(46)は「素晴らしい1日だった」と前を向いた。
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栄光の背番号「3」が一塁線上にずらりと並んだ。阿部監督は完敗を喫したが、選手やコーチとともに整列した。真摯(しんし)に負けを受け止め、最後まで声援を送ってくれたファンにあいさつ。特別な一戦を象徴するワンシーンだった。
試合前には長嶋さんの追悼セレモニーが行われた。特別映像の中で指揮官は「長嶋さんは常々、ファンがあってのプロ野球だというのをとても強くおっしゃっていました。そういうのをしっかりと継承して。最後の最後まで応援してくださるファンの方がいらっしゃるので」と試合後にあいさつする理由を明かした。今季11度目の完封負け、勝率も5割に逆戻りしたが、ミスターの思いを体現した。
大事な一戦に合わせて「4番サード」も帰ってきた。岡本が5月7日以来、約3カ月ぶりに1軍に昇格。スタメン発表で名前がアナウンスされると、場内は割れんばかりの大歓声に包まれた。ファンが待ち望む最高のタイミングで1軍に合流し、阿部監督も「多少は急いでこの日に合わせて来てくれたと思う」とおもんぱかった。
ファンあってのプロ野球-。岡本も長嶋さんの教えを胸に刻んでいる。5月6日阪神戦で負傷。地道なリハビリにも耐え、3日に2軍戦で実戦復帰した。1軍復帰目安とした20打席を前日15日にクリア。「本当に特別な試合でしたし、僕も1発目の試合だったので、ちょっと緊張しましたけど。勝てたら一番良かったですけどね、また明日頑張りたい」。復帰戦は2打数無安打1四球に終わり、チームも敗れたが、太陽のように明るかった長嶋さんのように下を向くことはなかった。
現状の1軍メンバーで生前に接点がある選手はごくわずか。だからこそ、阿部監督や岡本には、常に勝利に貪欲だった長嶋さんの思いを後世に継承する使命がある。指揮官は「(もし長嶋さんがこの日の試合を見ていたら)めちゃくちゃ怒られるんじゃないですか」と冗談交じりに思いをはせた。試合に負けても明日になれば試合がある。今季も、来季も長嶋さんが愛した野球はこれからも続いていく。ミスターはいつまでも温かく、そして時に厳しく天国から見守っている。【水谷京裕】
○…東京ドームが一体となった。5回終了時に観客席に置かれたタオルを掲げる「アランチョ・ネロ」を実施。イタリア語で「アランチョ(オレンジ)」「ネロ(黒)」で、巨人のチームカラーを表し、内野席では「SHIGEO NAGASHIMA」「FOR3VER」。外野席では左翼の阪神ファンも協力し、「Mr.GIANTS」の文字が浮かび上がった。試合後には山口オーナー、OB、選手、首脳陣、女子チーム、ジャビット5体含め計225人で、三塁守備付近で「3」の人文字を作った。
<ドキュメント「長嶋茂雄終身名誉監督追悼試合」の1日>
▽午前9時10分 巨人3軍と慶大のプロ・アマ交流戦(ジャイアンツ球場)を前に3軍ナインが「背番号3」ユニホームで登場
▽同10時 東京ドームで1軍全体練習が始まる
▽同10時10分 1軍合流の岡本和真がグラウンドに姿をみせる
▽午後1時10分 巨人選手が全員背番号「3」で試合前ウオームアップ
▽同1時19分 岡本のスタメン紹介に大歓声
▽同1時34分 場内が暗転し追悼セレモニー開始
▽同1時41分 中畑清氏がベースデリバリー
▽同1時44分 佐倉市の少年野球の子どもが投球披露
▽同1時49分 33秒間の黙とう
▽同1時51分 山崎育三郎が君が代独唱
▽同1時53分 堀内恒夫氏がボールデリバリー
▽同1時55分 セレモニアルピッチに松井秀喜氏、阿部慎之助監督、高橋由伸氏、原辰徳氏、王貞治氏の順に登場。
▽同1時56分 松井氏が「投げますよ、監督」と天にボールを掲げ投げ込む
▽同1時58分 長島三奈さんも加わり、総勢8人で「プレーボール」コール
▽同2時4分 1軍阪神戦が試合開始
▽同3時48分 5回終了時に人文字「アランチョ・ネロ」を実施
▽同4時48分 試合終了
▽同5時5分 OB、監督、選手、スタッフ、ジャビットら255人が三塁上で「3」の人文字。中畑清OB会長があいさつ
▽同7時28分 同5時2分からのイースタン・リーグ西武戦(Gタウン)が終了。2軍のチーム全員が背番号「3」で試合し、試合前には特別映像が流れ、黙とうがささげられた。