組織の成長を促す上で、経営アプローチの変更は現場に大きな影響を与えることがあります。従来型の経営手法では頭打ちとなってしまった場合、経営方針の見直しが効果的です。
エンゲージメント経営は、次世代型の企業で積極的に採用されている、新しい経営アプローチの一種です。本記事ではエンゲージメント経営の概要や、エンゲージメント経営を導入することでどのような成果が得られるのか、事例とともにメリットや実践方法をご紹介します。
エンゲージメント経営とは
そもそもエンゲージメントとは、ビジネス領域においては社員がどれだけ自分の所属している組織に愛着を抱いているか、ということを表す概念です。エンゲージメントが高いほど、社員の組織への信頼や愛着は強く、高いモチベーションで業務に従事してくれます。
エンゲージメント経営とは、そんな社員の高いエンゲージメントを育み、社員は組織のために全力でパフォーマンスを発揮し、組織は社員に対してできる限りの奉仕を提供するという、双方の信頼関係によって組織を成長させていこうという経営方針です。
エンゲージメント経営の実現において重要なのは、
- 会社も社員も同等の価値を持ちうる対価を支払えているか
- 社員が自身の幸せを追求し、ポジティブに業務へ向き合えているか
という2点です。会社が社員の求める見返りに対して正しいサービスや報酬を提供できていなければ、その組織で長く働きたいと思うことはできず、より条件の良い転職先を探します。逆に社員も会社が求める生産性を発揮していなければ、適切な報酬やサービスを受けることはできません。
社員を雇う側の企業は、正しい報酬を社員に約束することはもちろん、報酬に見合った役割を果たしてもらうべく、社員のエンゲージメントを高める必要があります。
また、いくら熱心に働いているとしても、社員が自身の幸せや健康を犠牲にしていては、サステナブルな企業経営は成り立ちません。また、社員が自分の意思とは反して業務に従事している場合、彼らの潜在的な生産性を生かすことも難しくなります。
社員にとっての幸福を追求できる組織であることも、エンゲージメント経営には不可欠な要素です。
エンゲージメントと従業員満足度との違い
エンゲージメントと似たような言葉の一つとして、従業員満足度が挙げられます。従業員満足度は、職場環境や収入、待遇、業務内容などについて、どれくらい満足しているかを定量的に評価するための指標で、社員の定着率を高い水準で維持する上では重要な役割を果たします。
一方でエンゲージメントは、社員の会社に対する愛着や仕事に対する熱意といった感情についての概念であるため、従業員満足度とは必ずしもイコールであるとは限りません。会社に対してどれくらい満足しているかを測定することは、エンゲージメントを改善するうえでは重要ですが、従業員満足度が高い=エンゲージメントが高いというわけではないため、注意する必要があります。
満足度が低いと離職率が高まったり、仕事へのモチベーションが下がったりというデメリットがありますが、満足度が高いからといって、必ずしも仕事のモチベーションが高まったり、生産性向上に直結するとは限らないため、この点は分けて考えておきましょう。
エンゲージメント経営を実践するメリット
エンゲージメント経営を実践するうえでは、以下の3つのメリットが大いに期待できます。順に確認しておきましょう。
①労働生産性の向上
1つ目のメリットは、生産性の向上です。エンゲージメント経営を実践し、従業員のエンゲージメント改善が実現すると、従来よりも高いパフォーマンスを発揮してくれます。
エンゲージメント向上によって、よりリラックスした環境で業務に従事できるだけでなく、組織のコンセプトや目標を深く理解・共感することで、強い熱意を持って業務に取り組む社員が現れます。
業務時間や負担そのものは変わらなくとも、より優れた成果を残せる社員が登場するため、結果的に企業の成長に大きく貢献するでしょう。
現在は人材不足の深刻化により、企業の規模拡大のために人材を確保することが難しくなっています。少ない人材、あるいは既存のスケールを維持したまま、より高い成果を残すうえでは、エンゲージメント経営の実践によるモチベーションの改善が不可欠といえるでしょう。
②離職率の低下
2つ目のメリットは、離職率の低下です。組織の生産性を大きく左右する要素の一つに、離職率や定着率といった数値が挙げられます。
近年は人材サービスの普及により、人材の流動性が高まり、好きなタイミングでの転職・離職の機会が社員に与えられているだけでなく、より良い待遇の組織へと移籍することが簡単になりました。そのため、各企業は定着率の改善に向けて待遇の見直しが進んでおり、既存人材の流出を予防するうえでも重要です。
収入などの待遇改善はもちろんですが、これに合わせてエンゲージメント向上に向けた施策の導入によって、働きがいのある職場へと刷新することも離職率の低下につながります。
③組織力の強化(変化に強い企業に)
3つ目のメリットは、組織力の強化です。組織が社員を信頼し、社員が組織を信頼する相互関係を構築できれば、どんな課題にも果敢にチャレンジし、苦難を乗り越える力を養うことができます。
近年はあらゆる業界において変化が求められる時代となっており、トレンドの急激な変化についていけなくなっている企業も現れつつあります。
例え小規模な組織であっても、自社の強みを社員全員が理解し、進むべき方向性を見失わなければ、時代の変化にも取り残されなくなります。社内でのいさかいや社員同士の関係悪化も回避できるため、円滑な組織経営の実現に役立ちます。
エンゲージメント経営の流れ
エンゲージメント経営を実践するうえでは、以下の4つのステップに則って進めることが大切です。
①スコア診断
1つ目のステップは、スコア診断です。エンゲージメント経営を実践するにあたり、まずは自社の現在地を確認しなければなりません。
エンゲージメント経営の実践状況や効果を数値化してくれるスコア診断を実施することで、自社が抱えているエンゲージメント向上に向けた課題や、離職要因の発見、エンゲージメント改善を実感するための定量的な軸の発見を促せます。
エンゲージメントスコアの診断は、専用の診断サービスを利用することで簡単に把握することができます。また、ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度(UWES)という評価軸を採用することで、自己診断を行うこともできます。
ただ、エンゲージメント経営を効果的に実施したい場合には、客観的な視点からの課題発見や解決アプローチの模索が必要になるため、外部のサービスやコンサルタントの手を借りるのが効果的なケースも多いです。必要に応じて活用を検討してみましょう。
②優先課題の対応
スコア診断を通じて自社が抱える課題が明らかになった後は、優先課題への対応です。課題には、大きく分けて優先課題と将来課題の2種類が挙げられますが、優先課題はその名の通り、緊急性が高く、迅速に解消すべき課題を指します。
人間関係の構築や情報共有を支えるコミュニケーションツールが普及していない、福利厚生が市場の水準を下回っているなど、客観的に自社の状況を見直すことで、多くの課題が浮き彫りになります。上記のような課題はすぐに取り組める課題であるだけなく、改善効果が大きいため、優先して取り組むことが推奨されるでしょう。
③将来課題の対応
優先課題への対応が落ち着いたタイミングで検討したいのが、将来課題への対応です。将来課題とは中長期的に取り組むべき課題で、組織のコンセプトが広く浸透していない、社員のスキルアップが進んでいない、ロールモデルを提示できていないなどの問題が挙げられます。
どのような課題を優先とするか、将来課題とするかは会社によって異なりますが、中長期的に取り組むべき課題は、時間をかけて枠組み作りから普及までを続ける必要があるため、焦らず実行することが大切です。
④効果測定
エンゲージメント改善は、ただプロジェクトを実行するだけでは効果的な改善は望めません。PDCAサイクルを回し、効果測定を実行することで、正しい改善とプランの策定、実行を促す必要があります。
スコア診断によって定量化されたエンゲージメント課題を軸としながら、改善施策の実行によって、どのように数値が変化しているのかを把握し、より高い数字を目指せるよう枠組み作りに努めましょう。
エンゲージメントを高める方法
エンゲージメントを高める方法にはいくつもの手法がありますが、主な方法として、以下の3つが挙げられます。
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の浸透
1つ目の取り組みとして、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の浸透が挙げられます。その組織の存在意義であり、どんな使命を帯びているのかを説明するミッション、組織としてどのような姿を理想とするのか、というビジョン、ビジョンを達成するために組織が掲げる価値観である、バリューです。
これら3つの概念を社内に普及し、社員への浸透を促すことで、組織への帰属意識を高めることができます。
社内コミュニケーションの活性化
どれだけ優れたMVVを提唱しても、それが日常的に意識されなければ意味がありません。チャットツールの導入など、コミュニケーションを活性化させる仕組みを取り入れることで、社員間の交流を促進し、信頼関係の構築や、理念の共有に役立てることができます。
公平性の高い人事制度の構築
エンゲージメント経営の実践においては、人事制度改革や刷新も重要です。実力に応じた適切な役職や収入が約束されるよう、公平性の高い人事制度を構築することで、社内での競争を活性化させたり、定着率の強化につながります。
この組織で頑張り続けていれば、必ず評価されると社員に感じてもらうことが大切です。
エンゲージメント経営の企業事例
ここで、エンゲージメント経営を実践している企業の事例について、3つご紹介します。
株式会社リクルート
人材大手のリクルートでは、早期からエンゲージメント経営に取り組んできた日本企業の一つです。同社では定点的なエンゲージメントサーベイ、いわゆるエンゲージメント課題把握のための調査を実施しており、早期の課題発見、及びアクションプランの策定に努めています。
トップの積極的な発信や多様な社内広報施策の取り組みの結果、「社員の「エンゲージメント」が高い企業ランキング」上位にランクインしています。
参考:社員の「エンゲージメント」が高い企業ランキング・ベスト50【社員のクチコミランキング(4)】
株式会社メルカリ
CtoCサービスのパイオニアであるメルカリでも、優れたエンゲージメント経営が実施されています。優れたミッション・バリューの策定と社内での普及によって、新興企業でありながら、一躍日本を代表する企業へと成長しています。
社内エンゲージメントも創業以来最高を記録しているなど、エンゲージメント改善と組織の成長が比例している様子がわかります。
参考:【前編】ユニコーン企業メルカリ大解剖 「メルカリは、ミッションとバリューでできている」
参考:【GW企画】創業以来もっとも社内エンゲージメント数が高まっている!メルペイ×メルコイン採用担当とトーク mercan. fm #77
株式会社ユーザベース
BtoBサービスを提供しているユーザベースは、国内屈指のエンゲージメントを有する優れたエンゲージメント経営を実現する企業で、「社員の「エンゲージメント」が高い企業ランキング」においても首位を記録しています。
ユーザベースがエンゲージメント向上において力を入れているのが、バリューの徹底と浸透です。「7つのルール」にまとめられた独自のユーザベースの組織の指針となるバリューを策定し、バリューに沿った行動を日々意識的に実践することで、社員へのバリューの浸透を実現しています。
参考:【JinJiのトリセツ】ユーザベースのバリュー「7つのルール」はどうやって浸透・徹底されているの?
エンゲージメント経営にビジネスチャット
エンゲージメント経営は、少数精鋭の組織作りを進めるうえではもちろん、生産性の向上や定着率の改善において大きな効果を発揮する経営方針です。
エンゲージメントを高めるためには、優れたバリューやミッションの策定も必要ですが、日々のコミュニケーションを蔑ろにしない仕組みづくりも求められます。
筆者所属のワウテック株式会社が提供する、ビジネスチャット・社内SNS「WowTalk(ワウトーク)」は、チャットシステムによってリモート環境でもリアルタイムのコミュニケーションが取れるよう、組織の情報共有体制を刷新できる、最新の業務支援サービスです。
エンゲージメント経営においてコミュニケーションが課題となっている場合には、お気軽にご相談ください。