クリーンエネルギーの進歩に大きく貢献する技術として、原子力電池(Nuclear Battery)への関心が高まっています。最近は中国スタートアップが開発中の超小型原子力電池が実用化秒読みに入っており、「充電しなくても50年間継続してスマホを使用出来るようになる」などと期待されています。
原子力電池とは?期待されているメリットは?
核電池や放射性同位体熱発電機(Radioisotope Thermoelectric Generator :RTG)とも呼ばれる原子力電池は、放射線物質が自然崩壊した時に得られる熱などを電気エネルギーに変換する技術を活用した装置です。エネルギー密度が高くメンテナンス不要、天候や環境に左右されることなく長期間に渡り安定した電力を供給できるなど、様々なメリットがあります。
一方で、化石燃料を使用せず、発電時にCO2を排出しないため、環境負担が少ないエネルギー源として期待されています。原子力発電のように、原子炉を使用して高温高圧の蒸気でタービンを回転させる必要もありません。
広範囲な実用化に向けた課題
原子力電池技術は目新しいものではなく、1977年に打ち上げられた宇宙探査機ボイジャー1号に搭載されていたのを筆頭に、人工衛星やペースメーカーなどに採用されてきました。近年は多数のスタートアップや研究機関が、スマホから電気自動車(EV)、ペースメーカーなどの医療機器、遠隔地コミュニティーへの電力供給まで、広範囲な実用化に向けて取り組んでいます。
現時点における主な課題は、低コスト化や小型化、エネルギー効率の向上、そして安全性の確保です。特に環境面に関しては、放射能漏れリスクや製造・廃棄の際の放射能汚染などが生物や環境に対する潜在的なリスクが懸念されています。
これらの課題が解決されれば、一般家庭や公共での利用を含め、原子力電池が急速に普及する可能性が高くなるでしょう。
世界初の超小型原子力電池が実現?
北京を拠点とするスタートアップ、ベータヴォルト(BetaVolt)が開発中のモジュール式原子力電池「BV100」は、このような課題のソリューションとして期待されている技術のひとつです。BV100は、ニッケル63(以下、Ni-63)同位体崩壊技術とダイアモンド半導体モジュールを組み合わせたもの。コインより小さい超小型でありながら、100μW(マイクロワット)の電力と3Vの電圧を供給可能で、直列に使用すればより多くの電力を生成できます。
同社によると、リチウム電池の10倍のエネルギー密度を有し、充電やメンテナンス不要で50年間に渡り安定した電力を供給できるというから驚きです。これが実現すれば、スマホの充電が不要になったり、小型ドローンを数十年間連続飛行させるといったことも可能になります。また、Ni-63は最終的に非放射性の銅に変換されるため、環境負担を最小限に抑えられます。
現在は商用向けの量産開始を視野に、パイロットテスト段階に入っており、2025年には1ワットの大型バージョンが登場する予定です。
最新スマホには不向き?
期待が高まる一方で、技術面での課題も指摘されています。
たとえば、継続性です。ベータヴォルトが主張しているように、理論上は原子力電池を50年間持続させることは可能です。しかし、放射能崩壊速度は一定ではなく、存在する物質の原子数に依存するため、長期間に渡り使用を続けるほど性能が劣化する可能性があります。ちなみにNi-63は約96年で原子の半分が崩壊します。
また、一部の専門家は「スマホに搭載するためにはデバイス自体の性能を大幅に向上させる必要がある」との見解を示しています。「BV100」の電流量はNi-63の量と放射能崩壊速度に左右されるため、常に電流が流れている状態です。つまり、スマホに使用した場合、電源が常にオンになっているということになります。その一方で、ゲームやストリーミングといった負担の大きいタスクに対し、十分な電力を供給できる速度で電力を生成する必要があります。
サウスイースタン・ルイジアナ大学物理学部のレット・アレイン准教授の試算によると、最新のスマホを使用するためには308キログラム相当のNi-63が必要になります。このことから、電流量が変動するアプリケーションへの採用には、あまり適していない可能性が考えられます。現時点においては、リモートセンサーや医療機器、小型ドローンといった消費電力の低いデバイス向きと考える方が現実的なのかも知れません。
多様なデバイスへの応用にも期待
このように課題も多い原子力電池ですが、広範囲な実用化に向けて着実に進歩を遂げており、今後、次世代電池技術のひとつとしてますます注目が高まることは間違いありません。実用化に至れば、多様なデバイスへの応用が加速することが期待されます。Wealth Roadでは、今後も次世代エネルギーに関する動向をレポートします。
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