株式投資にはさまざまな手法があり、中には1日から数日で取引を終わらせる場合もあります。このような手法は短期投資と呼ばれますが、株をこまめに利確・売買する必要はあるのでしょうか。
株をこまめに利確は運用方針次第
株をこまめに利確する手法には、損失を抑えるなどのメリットがある一方で、注意したいデメリットもあります。証券会社や取引状況によっては手数料がかさみやすく、配当金や株主優待を受け取れないこともあるので、こまめな利確が必要かどうかは運用方針次第です。
参考として、こまめな利確が向いている例を紹介します。
<こまめな利確が向いている方針の例>
・資産が減るリスクを抑えたい
・実際の取引を通して、まずは勝ち癖や自信をつけたい
・配当金や株主優待を狙っていない
実際にこまめな利確をする場合は、メリットやデメリットを十分に理解した上で、具体的な取引方法を考えることが大切です。
株をこまめに利確する方法
証券会社で株式投資をする場合は、保有分のうち売却する数量を指定できます。売却のタイミングもご自身で選べるため、株をこまめに利確する方法は一つではありません。実際にどのような方法があるのか、以下では代表的なものを紹介します。
事前に利確タイミングを決める
まず紹介するのは、「株価が○円になったら売る」「利益が○円を超えたら売る」のように、利確のタイミングを決めておく方法です。株価や利益を利確の基準にする以外にも、次のような基準も考えられます。
<利確するタイミングの例>
・業績などの成長が鈍くなったときに売る
・出来高(株の取引数量)が下がったときに売る
・移動平均線のトレンド(株価の方向性)が変わったら売る
事前に利確タイミングを決めておけば、取引回数が多くても判断に迷うことはありません。株価や利益を基準にする場合は、値段を指定する「指値注文」や「逆指値注文」を設定しておくと、常に細かい値動きを追わなくても取引ができます。
一部の利益分だけ売る
相場の予測に自信が持てない場合は、一部の利益分だけを売る方法も選択肢です。
例えば、保有分を全て売却した後に値上がりすると、「チャンスを逃した」と後悔するかもしれません。利確を一部だけに留めておけば、このような相場状況でも値上がりの恩恵を受けられます。一部の利益分だけを売る方法には、安値売りを避ける効果もあります。
ただし、一部を利確した後に大幅に下落してしまう場合も考えられるので、上昇と下落どちらも想定して取引を行うことが大切です。
同じ銘柄で売買を繰り返して利確していく
次に紹介するのは、以下のように売買を繰り返す方法です。
<同じ銘柄で売買を繰り返す流れ>
【1】情報収集や銘柄分析をする
【2】銘柄Aを購入する
【3】銘柄Aが下落したら売却して【1】に戻る
【4】銘柄Aが値上がりしたら売却する
【5】再度【1】を行い、【2】か【6】に進む
【6】株価の上昇が止まったら売買ストップ
上記の取引の流れは、株を購入した後に売却する基準を、上昇時と下落時どちらも設定しておくことが大切です。さらに【1】の情報収集と銘柄分析を怠ると、想定外のリスクと損失が発生する可能性があるので、細心の注意を払って投資の事前準備を行いましょう。
信用取引を活用する
信用取引とは、証券会社に担保を預ける代わりに、自己の資金以上の金融商品を購入できる取引です。担保の評価額の約3.3倍まで取引できるため、期待できるリターンを増やせます。
信用取引では、株を売買したときの差額のみをやり取りする「差金決済」が認められています。そのため、預けるための現金や株があれば、同じ担保を活用して売買を繰り返すことができます。
ただし、購入から一定の期間が過ぎたり、値下がりで評価損が生じたりした場合は、強制的に決済されることがあります。大きな損失につながるケースもあるので、利用前には各証券会社の信用取引におけるルールを確認しておきましょう。
株をこまめに利確するメリット2選
ここからは、株をこまめに利確する2つのメリットを紹介します。
資産が減る可能性を一時的になくせる
利益がある状態で保有中の株を手放せば、その後の値下がりで資産が減ることはありません。損失の可能性を一時的になくせるため、リスクを抑える効果が期待できます。少しでも資産を減らしたくない時には、こまめな利確を検討しながら運用しましょう。
勝ち癖をつけられる
株をこまめに利確できると、取引回数が増えるほど勝ち癖をつけられます。少額であっても「資産を増やした経験」が自信になるので、投資を続けるモチベーションの維持にもつながります。
株をこまめに利確するデメリット4選
ここからは、特に注意したい4つのデメリットを紹介します。
手数料が増える可能性がある
取引手数料が一部無料になるプランもありますが、取引の度にコストがかかる「従量制プラン」に加入している場合は、株をこまめに利確すると手数料がかさんでしまいます。例えば、取引金額5万円まで55円の手数料がかかるプランでは、取引回数によって以下のように手数料が変わります。
一日の取引回数 | 手数料の合計金額 |
---|---|
1回 | 55円 |
3回 | 165円 |
5回 | 275円 |
7回 | 385円 |
10回 | 550円 |
(※上記は5万円以下の取引を想定)
手数料を抑える対策としては、一日の取引金額が基準になる「定額制プラン」に加入する方法があります。定額制プランでは、その日の取引合計額から手数料が計算されるため、取引回数を気にせずに株を利確できます。なお、手数料のプランは証券会社によって異なるので注意してください。
配当金がもらえない可能性がある
株を発行する企業は、業績に応じて利益を株主に分配することがあります。このときに受け取れるリターンを配当金と呼び、「1株あたり30円」のような形で支払われます。
配当金を受け取るには、権利付最終日(※)までに株主になっておく必要があります。こまめに利確しても配当金を受け取れる可能性はありますが、以下のケースに該当する場合は権利が付与されません。
<配当金を受け取れない主なケース>
・株を購入したタイミングが権利付最終日(大引け時点)の後だった
・一時的に株主だったものの、権利付最終日までに売却した
なお、配当金が実際に支払われるのは、権利確定日の2~3ヵ月後です。銘柄によって支払い時期は異なるので、詳しくは企業から郵送される通知を確認してください。
(※)各企業が定めた権利確定日の2営業日前。
株主優待がもらえない可能性がある
株をこまめに利確すると、株主優待をもらえなくなる可能性もあります。
株主優待とは、株を発行した企業が優待品を株主に贈る制度です。優待品の内容は各企業が独自に決めており、自社製品や割引券、カタログギフトなどがあります。株主優待の条件にも、権利付最終日に株主になっていることが含まれます。以下のようなケースには注意が必要です。
<株主優待を受け取れない主なケース>
・保有株数の条件を満たした時期が、権利付最終日の後だった
・権利付最終日の前に一部を売却し、保有株数が足りなくなった
こまめに利確しながら株主優待を受け取りたい場合は、保有株数の条件などが少ない銘柄を選ぶ必要があります。1株から優待品を受け取れる銘柄もあるので、株主優待を狙っている場合はしっかりと情報収集をしましょう。
購入後に値上がりしないこともある
こまめに利確することを前提に株を売買する場合、必ず購入後に値上がりするとは限りません。短い期間で頻繁に売買を繰り返していると、情報収集や銘柄分析の時間を十分に取れなくなり、想定以上の損失を抱えてしまう可能性があるので、取引前の事前準備を怠らないように注意しましょう。
株をこまめに利確する場合の税金
株をこまめに利確する場合の税金は、通常の株式投資と同様です。取引回数が増えたからと言って、税金が増えたり減ったりすることはありません。株式投資のリターンは以下の所得に分類され、それぞれの所得に20.315%の税金が課されます。
<所得の分類と課税の仕組み>
譲渡益:譲渡所得として申告分離課税(※1)で計算する
配当金:配当所得として扱い、申告分離課税または総合課税(※2)を選択する
株主優待:雑所得として総合課税で計算する
(※1)株式などの譲渡によって生じた所得と他の所得を分けて税金を計算する課税方式。
(※2)対象の所得(株式等の譲渡所得などを除く)を合計した金額に対して課税。
配当金の課税方式については、損益通算が適用される申告分離課税か、配当控除が適用される総合課税のいずれかを選べます。損益通算と配当控除の概要については、以下の通りです。
損益通算とは
投資で生じた利益と損失について、同じ年内に生じたものを通算できる制度です。損益通算をした結果、損失が利益を上回った場合は、確定申告によって超過分の損失を最長3年間まで繰り越せます。
配当控除とは
給与などを含めた合計所得金額から、一部の配当金を控除できる制度です。
課税総所得金額等が1,000万円以下の場合は、「配当所得×10%」の計算式で控除額を計算します。どちらの課税方式が望ましいかについては、その年の運用成績や利益の内訳、他の所得金額によって変わります。税金を抑えたい人は、細かく計算した上で判断しましょう。
投資初心者はこまめに売買してリスクを減らそう
株をこまめに利確する方法には、メリットとデメリットの両方があります。場合によっては損失のリスクを抑えられますが、取引の度に手数料がかさむ点や、配当金・株主優待を受け取れない点には注意が必要です。
少額でも利益を確保しながらリスクを抑えたい場合は、こまめな利確が向いているかもしれません。投資の経験や知識がない人は、運用方法の一つとして検討してみてください。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
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