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日本株の相対的な強さは年末頃まで続く公算


※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

要旨

8つの要因が日本株の上昇をサポート

日本株のパフォーマンスが5月に入ってから他の市場を凌駕(りょうが)する中で、グローバル市場において日本株への注目度が高まっています。私は、この背景として、①相対的な景気の良好さ、➁日銀による緩和継続、➂インバウンド需要の強さ、④コーポレート・ガバナンス改革、➄大幅な賃上げによる中期的成長期待の高まり、⑥日本の地政学的な立ち位置、➆ドル安がもたらした米国投資家による選好の変化、⑧日本株組み入れ比率の引き上げ、があったと判断しています。

年内は日本株が海外からの注目を集める公算

日本株は年内は上記の8つの要因によってサポートされ、欧米株を上回るパフォーマンスをみせると見込まれます。その後、2023年末から2024年にかけては、景気回復期待から上昇に転じるとみられる欧米株ほどのパフォーマンスは期待しにくいものの、日本株も上昇基調を維持すると見込まれます。

8つの要因が日本株の上昇をサポート

グローバル市場における日本株のパフォーマンスが直近で際立って高まってきました。5月に入ってから30日までの日経平均株価の騰落率は8.6%と、S&P500種指数の0.9%、ストックス欧州600指数の-2.1%を、それぞれ大きく上回っています。これに伴って日本株が世界的に注目されるようになってきました。私は、日本株の好調には循環的な要因、構造的な要因の両方が作用してきたと考えています。循環的な要因としては、以下が重要であると考えています。

①欧米と比較しての日本の景気の相対的な好調さが目立ってきたこと、

②植田新総裁の下、日本銀行が市場予想よりもハト派的なスタンスを保持し、金融緩和政策を継続しており、景気の底堅さと円安につながっていること、

③インバウンド需要が2022年末より大きく拡大しており、今後も増加が見込めること

 このうちで最も重要なのは①であり、欧米の景気が、これまでの利上げによる累積的な影響を受ける形で今年後半に悪化すると広く見込まれる中でも、日本については内需が底固く推移することで成長率の減速が限定される見通しである点があたらためて注目されています。TOPIXのEPS(1株当たり利益)についての見通しは今年に入って下方修正を余儀なくされているものの、2023年度、2024年度には共に過去最高益を更新するという見方が金融市場のコンセンサスとなっています。日本株のPERが、過去の長期的な平均水準との比較で割安であることで、海外投資家による日本株選好が強まったと考えられます。

一方、構造的な要因としては以下の3点が挙げられます。

④コーポレート・ガバナンス強化に向けた企業の対応が進展すると同時に、2023年3月に東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」をプライム市場・スタンダード市場の全上場会社に要請したことをきっかけとして投資家の期待感が高まったこと、

⑤2023年の春闘における賃上げ率(ベースアップ率)が、連合の第5回集計によると2.14%と、例年を大幅に上回る水準に達している。これを受け、「高めの賃上げ率が中期的に継続すれば、日本の成長パターンが内需主導に変化し、潜在成長率がこれまで想定されていた水準よりも高まる」という期待感が醸成されてきたこと、

⑥東アジア地域における地政学的リスクの高まりによって、中華圏への証券投資に慎重になる動きが欧米の一部で出始めており、代替的な投資先として日本が選好されやすくなってきたこと

 ➄については、少子高齢化の進展によって日本の労働市場が再びタイト化している点が重要です。企業が賃上げを積極的にすすめているのは、高めのインフレに直面している就業者に配慮したことだけではなく、労働市場のタイト化によって、就業者確保のためにこれまでを上回る賃上げをしている面が強いと思われます。マクロ面で固定資本形成(設備投資や公共投資を含む投資全体、在庫投資は除く)のコロナ禍以降の動きを辿ると、コロナ禍において他の先進国よりも投資が鈍かった日本の投資が直近でキャッチ・アップしてきていることがわかります(図表1)。日本企業による投資の積極化は、人手不足が続く見通しの下、設備投資によって生産性を向上させようとする意図を反映していると考えられます。

以上に加えて、資本フローの面では、次に挙げる2点も日本株への投資をサポートしたと思われます。

⑦グローバルにドル高が進行する動きが2022年秋に反転して緩やかなドル安が進行する中、米国以外への先進国への株式投資が活発化してきたとみられること、

⑧グローバル運用の投資家の多くが日本株をベンチーマ-クの構成ウエイトにたいしてアンダーウエイトする状況下で、日本株に投資される余地があったこと

 また、対ドルでの円安が進行する中、今後数カ月から1年以内に日本銀行の政策が金融引き締めに転じ、ドル円為替レートが円高に振れるとの見方がグローバル市場の一部では存在しており、その見方を前提に、株・為替の両方の面でのリターンを見込んで日本株に投資する動きも出てきている模様です。

(図表1)主要先進国における固定資本形成の推移

年内は日本株が海外からの注目を集める公算

ワシントンでは、米国連邦債務上限の引き上げ法案を巡る動きが最終局面を迎えています。これまで債務上限問題が米国株の上値を抑えてきたとみられるだけに、この問題の解決は短期的な米国株高につながる公算が大きいとみられます。こうした動きが、グローバルに一時的な株高をもたらすとみられます。この局面では、米国株の上昇が日本株のそれを上回る公算が大きいと考えられます

その後、債務上限問題の解決が金融市場に織り込まれた後は、米国株市場では、景気悪化の動きが強まるのに合わせて、ボラティリティーが比較的大きい動きになるとみられます。しかし、ある程度の景気悪化は材料として既に米国の株価におおむね織り込まれたと考えられることから、株価の大幅な下落は想定されず、株価はボックス圏内での動きが予想されます。こうした中、前節で挙げた8つの要因が日本株をサポートし続けるとみられることから、日本株は上下の振れを伴いながらも緩やかな上昇基調で推移し、米国株をやや上回るパフォーマンスを達成する可能性が高いと予想されます

2023年末から2024年にかけては、欧米では景気への回復期待が強まる展開が予想され、それに合わせて株価が緩やかな上昇局面に入ることが見込まれます。この局面で日本株は2つのハードルに直面する公算が大きいと考えられます。一つは、内需が底堅く推移し、欧米景気の回復が視野に入ることで、日本銀行が2024年春に長短政策金利の引き上げに動く可能性が高い点です。これは企業の借り入れコストの増加とともに、円高につながるとみられます。今一つは、景況感の点では、先に改善している日本に欧米が追いついてくるとみられる点です。グローバルな景気回復期待の恩恵は日本株にも及ぶとみられることから、これら2つのハードルに直面しても日本株は緩やかな上昇基調を維持すると見込まれます。しかし、この局面では、欧米株ほどのパフォーマンスは期待しにくいと考えられます

その一方、日本株のアップサイドリスクとしては、日本株をサポートする要因として前節で挙げた➄についての期待感が、2024年に相応の水準の賃上げが実施されることを受けて高まる場合が考えられます。日本が内需を軸として潜在成長率を向上させるとの期待が高まる場合には、金融引き締め措置を受けて為替レートが円高方向に振れたとしても、日本株の将来のリターンに対する期待は損なわれずにむしろ高まるとみられます。

最後に、日本株のリスクについては、今年後半以降、FRBによる利上げの影響や金融不安による貸し渋りが想定以上に顕在化し、米国経済が深刻な景気後退に陥るリスクが重要です。この場合、グローバル市場全体がリスク・オフの状況となって日本株も調整を余儀なくされるリスクが高まります

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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