3つのケースで制度活用を考える
死別・離婚にまつわる税制・年金制度・手当を説明してまいりましたが、死別の場合は収入を得るのにどの制度を活用するのか、人によって異なります。
児童扶養手当は、原則は年金との併給は制限されることに注意してください。
平成26年12月からの制度改正で、遺族年金とともにもらうことも認められましたが、結局は遺族年金と児童扶養手当をあわせても、どちらか高い金額までしかもらえないということになります。
両方もらえるとしても手続き的に面倒になるので、どちらか高いほうに絞りましょう。一般的には遺族年金のほうが金額は高くなります。
ここでは制度活用に関して3つのケースで考えてみたいと思います。
なお寡婦(夫)の所得は給与のみ、子どもは全て同一生計要件を満たしているとし、全てのケースで東京都在住者とします。
ケース1:遺族基礎年金+遺族厚生年金+児童育成手当をもらい、寡夫控除を受ける
・ 遺族:夫(56)、高校生の子(17)
・ 妻の平均標準報酬(月)額は10万円
・ 夫の合計所得金額は死亡前後も500万円で一定
・ 夫の児童扶養手当・児童育成手当支給の基準となる所得は、390万円
・ 妻は28年間転職せず厚生年金加入、年金未納は無し
※()内は死亡当時の年齢、以下のケースも同じ
この場合、子が17歳であることから、高校卒業までは遺族基礎年金の受給要件を満たします。
妻が死亡当時厚生年金に加入しており、夫も55歳以上のため遺族厚生年金の受給要件も満たします。
遺族基礎年金だけで年間約100万円もらえますので、これは児童扶養手当の全部支給額を上回ります。
よって児童扶養手当ももらえる場合でも、遺族基礎年金+遺族厚生年金をもらっておいたほうが良いです。遺族厚生年金は年約16万円と試算されます。
東京都の児童育成手当は遺族年金との併給制限はありません。
所得制限がこの場合、
のため、児童育成手当(月額1万3,500円)ももらえます。
また合計所得金額500万円以下、生計を一つにする子がいるという寡夫控除の要件も満たしているため、所得税27万円、住民税26万円の控除を受けられます。
なお上記で夫の年齢が54歳だった場合は、遺族厚生年金はもらえません。
ケース2:遺族厚生年金+中高齢寡婦加算をもらい、特別の寡婦となる
・ 遺族:妻(44)、子(21)
・ 夫の平均標準報酬(月)額は30万円
・ 妻の合計所得金額は死亡前後も210万円で一定
・ 妻の児童扶養手当・児童育成手当支給の基準となる所得は、200万円
・ 夫は22年間転職せず厚生年金加入、年金未納は無し
寡婦の場合は遺族厚生年金の受給要件において55歳以上の年齢要件はありませんので、遺族厚生年金は年間約43万円もらえます。
しかし子どもが21歳のため、遺族基礎年金・児童扶養手当・児童育成手当はもらえません。
ただ妻が40歳以上のため、遺族基礎年金に替えて年間58万円程度の中高齢寡婦加算がもらえます。
寡婦控除は寡夫控除より要件が緩く、合計所得金額500万円以下を満たすことで寡婦控除が受けられます。
さらに生計を一つにする子がいるため、特別の寡婦となります。所得税35万円、住民税30万円の控除が受けられます。
なお、上記で妻の年齢が39歳の場合は、中高齢寡婦加算はもらえません。
ケース3:児童扶養手当+児童育成手当をもらえるが、遺族年金はもらえず寡夫控除は受けられないケース
・ 遺族:夫(54)、子7人(全員17歳以下)
・ 夫の年収は死亡前後も850万円で一定
・ 夫の児童扶養手当・児童育成手当支給の基準となる所得は、445万円
年収が850万円(給与所得控除後の所得645万円)で基準所得が445万円は、多額の医療費控除がある・iDeCoを限度額まで掛けているなど非常に極端なケースです。
まず年収が850万円以上ですと生計維持要件でひっかかり遺族年金がもらえません。
しかし、児童扶養手当(一部支給)の所得制限が
のため、児童扶養手当は月額約3.4万円もらえることになります。
扶養親族等の数=子どもの数ですが、所得制限を考える上では16歳未満でも扶養親族等の数に含めます。
児童育成手当の所得制限はもっと高いため、こちらは
もらえることになります。
合計所得金額645万円となり500万円以下の要件は満たさないため、これだけ子供がいても寡夫控除を受けることはできません。
まとめ
1つ1つの制度が複雑で、制度の全貌を見渡すのも大変ですが、使える制度は全て使わないともったいないことになります。
なおかつ、手当・年金の併給でいたずらに手続きが増えることも防ぎたいものです。
所得控除をきちんと申告することで、手当の所得制限をクリアし増額させるという効果も生みます。このようなつながりも意識することで有効に制度活用ができます。
また死亡保険の必要保障額設定にあたっても、遺族年金等がどれだけもらえるかのシミュレーションをしておくことが重要です。(執筆者:石谷 彰彦)