配偶者控除の新制度は2018年1月から開始
自民党と公明党による配偶者控除の見直しの議論が、大詰めを迎えているようです。
現在までの議論を見てみると、夫が配偶者控除を受けるための妻の年収制限を、現在の「103万円以下」から「150万円以下」に、拡大するという結論になっております。
ただ妻の年収が150万円を超えても、「201万円未満」ならば、一定額の控除を受けられる仕組みにするようです。
これはおそらく配偶者特別控除を受けるための妻の年収制限が、現在の「141万円未満」から、201万円未満に変わるという話だと思います。
このように基本的な枠組みは維持したのですが、適用範囲の拡大による税収の減少を補うため、夫の年収が1,220万円以上になると配偶者控除を受けられないという、年収制限を新設するようです。
自民党と公明党はこの改正案を、2017年度の税制改正大綱に盛り込み、年明けの通常国会で可決する方向で調整しており、もしこの通りになると2018年1月から、新制度が開始されます。
配偶者控除は「年間の合計所得金額が38万円以下」が要件
正社員、契約社員、パートやアルバイトなどが支払う所得税は、大まかに表現すると、次のように(1)~(4)の手順で算出されます。
(2) 給与所得-所得控除(例えば「扶養控除」)=課税所得
(3) 課税所得×所得税の税率(所得によって5%~45%)=所得税
(4) 所得税-税額控除(例えば「住宅ローン控除」)=最終的に支払う所得税
国税庁などのサイトを見ると、夫が配偶者控除を受ける要件として、妻の「年間の合計所得金額が38万円以下であること」と記載されており、年収103万円以下とは記載されておりません。
この理由としては妻が、「1月~12月に会社から支払われた給与の合計」を103万円以下にすると、「給与所得控除額」は自動的に65万円になり、これを(1)の計算式に当てはめると、「給与所得」は38万円以下になります。
給与所得以外の他の所得がなければ、妻の合計所得は38万円以下になるので、「年収が103万円以下」と「年間の合計所得金額が38万円以下」は、同じ意味になるのです。
しかし妻に給与所得以外の所得があった時は、年収を103万円以下にしても、年間の合計所得金額が38万円以下にならない場合があり、そうなると夫が配偶者控除を受けられなくなります。
契約者と受取人が同一の場合は「一時所得」になる
給与所得以外の他の所得とは、例えば個人事業をしていた場合の「事業所得」や、株式などの取引をしていた場合の、「配当所得」や「譲渡所得」があります。
また生命保険を解約した時に支払われる解約返戻金や、生命保険が満期を迎えた時に支払われる満期保険金は、原則として「一時所得」になります。
このように一時所得になるのは、「契約者(保険料を支払う義務のある方)」と、解約返戻金や満期保険金の「受取人」が、同一人物の場合であり、別人の場合には所得税ではなく、贈与税が課税されるのです。
例えば契約者と受取人の両者が妻の場合には、妻の一時所得になり、契約者が夫で、受取人が妻の場合には、妻に対して贈与税が課税されます。
また解約返戻金や満期保険金に関する一時所得は、次のような計算式で算出します。
ただ実際に課税される一時所得は、このようにして算出した金額の、2分の1で済むのです。
例えば満期保険金の金額が300万円、今までに支払った保険料の合計額が200万円の場合、一時所得は次のように50万円になります。
また実際に課税される一時所得は、50万円の2分の1となる、25万円になります。
一時所得が発生した年は配偶者控除を受けられない可能性がある
現在の生命保険は貯蓄性が低いため、今までに支払った保険料の合計額や、特別控除額の50万円を控除した段階で、おそらく0円になるので、一時所得は発生しないはずです。
もし契約者と受取人の両者が妻の生命保険から、解約返戻金や満期保険金を受け取り、一時所得が発生した場合、妻の給与所得によっては、「年間の合計所得金額が38万円以下であること」という、配偶者控除を受けるための要件を満たさなくなります。
そうなると夫は、解約返戻金や満期保険金が支払われた年の年末調整では、妻を対象に配偶者控除を受けられないのです。
また妻は解約返戻金や満期保険金が支払われた年の、翌年の確定申告において、原則的に一時所得の申告をする必要があります。
ただ「5年以内に満期を迎える一時払養老保険」などは、金融類似商品に該当するため、その満期保険金は源泉分離課税になります。
つまり他の所得と分離して課税するため、他の所得と合計しないので、満期保険金が支払われた年の年末調整において、妻を対象に配偶者控除を受けられるかを、心配する必要はありません。
また生命保険会社が所得税や住民税などを計算して、これらを控除したうえで、満期保険金を受取人に渡すので、翌年の確定申告において、一時所得の申告をする必要はありません。
一時所得の対策は満期を分散したり、解約の時期を分けたりする
夫が配偶者控除を受けるための妻の年収制限が、103万円以下から150万円以下に拡大された場合、「年間の合計所得金額が38万円以下であること」という要件も、拡大されるかもしれません。
そうなると解約返戻金や満期保険金の受け取りにより、妻に一時所得が発生しても、夫は配偶者控除を受けやすくなります。
ですから妻が加入する生命保険の解約は、配偶者控除が150万円になるまで待った方が良いのです。
ただこれはあくまで予想ですので、複数の生命保険に加入している場合は満期を分散する、また生命保険を解約する場合は何回かに分けることにより、同じ年に受け取る金額を少なくするというのが、一時所得の原則的な対策になります。
税務署は支払調書で保険金などの受け取りを把握している
生命保険会社は一回の支払金額が100万円を超える、満期保険金や解約返戻金などを受取人に支払った場合、「誰が、いつ、何の保険金を、いくら受け取ったか」などが記載された支払調書を、税務署に提出します。
これに加えて2016年1月以降は、生命保険会社は支払調書の作成のために、生命保険の契約者や受取人に対して、マイナンバーの提出を求めるのです。
そのため一時所得が発生しているのに、夫が配偶者控除を受けたり、妻が確定申告をしなかったりすると、以前より税務署に見つかりやすくなっておりますので、この点には注意する必要があります。(執筆者:木村 公司)