不動産投資をはじめる際には、物件を現金で買うか、ローンを組んで買うかを選ぶ必要があります。ローンを組む場合、頭金が必要なのか、相場はいくらくらいなのか気になる方も多いのではないでしょうか。
そこで本コラムでは、不動産投資ローンの頭金が必要かどうか、頭金を入れるメリットやデメリットにも触れながら解説します。また、不動産投資で頭金以外に必要となる諸経費についても紹介します。不動産投資を検討中の方はぜひ最後までご覧ください。
不動産投資ローンの頭金って必要?
不動産投資ローンの頭金とは、物件を購入する際に代金の一部を支払うもので、頭金を入れることで借入額は少なくなります。
不動産投資ローンに頭金は必ずしも必要なものではなく、一部のケースで求められることがあります。
実際に金融庁が2019年3月に発表した「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」によると、必ず自己資金(=頭金)を必要とする銀行の割合は15%と低い割合になっています。
それでは、頭金はどのような場合に必要になるでしょうか。頭金が必要なケースは、不動産を購入する時の審査が厳しく返済能力を示す必要があるときがほとんどです。
そのため、上場企業勤務や医師といった年収の高い人、収入の安定している公務員などは、頭金なしの「フルローン」で審査に通る可能性が高いです。しかし、金融機関によって審査条件は異なるため、必ずしも頭金なしで審査が通るわけではありません。また既存の借入残高が多い場合は頭金が必要となるケースもあります。頭金が必要なケースとして一部紹介します。
- 希望の融資金額に届かない場合
- 融資引き締めの時期の場合
希望の融資金額に届かない場合
融資を受ける際の審査の結果、希望の融資額に満たない場合に頭金を求められることがあります。
一般的に不動産投資の融資限度額は年収の7~10倍とされており、年収が600万円の人であれば融資限度額は約4,200~6,000万円となります。
そのため、例えば4,500万円の物件購入を希望していて融資可能額が4,200万円とされた場合、差額の頭金300万円が必要になります。
融資引き締めの時期の場合
金融機関が融資の引き締めを実施している場合、頭金が必要になることがあります。これは金融機関が市況の変化や政策によって融資目線を引き上げて、貸出リスクをコントロールすることがあるためです。
不動産投資ローンでは購入者の年収等だけでなく融資に適した人物かどうかという部分を厳しくチェックしています。
そのため、大きな投資をする際には頭金を多く支払うことで投資への意欲と返済能力を示すことができ、審査が有利になることもあります。
不動産投資ローンの頭金の相場
不動産投資ローンの頭金の相場は、物件価格の1〜2割が一般的だと言われています。例えば3,000万円の物件を購入しようとした場合に300~600万円の頭金を求められるというイメージです。
しかし、前述したように必ず頭金が必要というわけではありません。勤務先や借入状況など個人の属性によって返済能力が高いと判断される場合は、頭金なしの「フルローン」でも審査に通る可能性があります。
一方で、年収が低い場合や勤務先の経営状態があまり良くないなど、返済能力が高くないと判断された場合、頭金の水準が高めに設定される可能性もあります。
頭金を支払うメリット4選
頭金は不動産投資ローンを借りる人の返済能力を示すもので必ず必要なものではないことを説明しました。しかし、金融機関から求められていない場合でも頭金を支払うことによってメリットがあります。
ここでは、頭金を支払うことで得られるメリットを解説します。
- 金融機関の審査に通りやすくなる
- 毎月のローン返済額を減らすことができる
- 金利変動リスクを抑えることができる
- 物件売却がしやすくなる
金融機関のローン審査に通りやすくなる
頭金を支払うことで金融機関でのローン審査が通りやすくなることもあります。
不動産投資ローンを利用するには金融機関のローン審査を通過しなければいけませんが、ローン審査は借入額が大きくなるほど厳しくなります。
頭金を支払うことで融資金額と担保評価額のギャップが少なくなり、債務者が返済不能になっても競売等の方法によって回収見込みが立ちやすくなります。金融機関から見た貸倒リスクが減るため、ローン審査に通りやすくなります。
毎月のローン返済額を減らすことができる
頭金を支払うことで借入金額が少なくなり、毎月のローン返済額を減らすことができます。
不動産投資において発生する支払いの多くはローンの元本返済と支払利息の支払いのため、借入金額を少なくすることでメリットにつながります。
さらに、毎月の返済額が小さくなることで空室や家賃回収トラブルなどが発生しても手出しを抑えることができます。不動産投資における収入は主に家賃収入なので、それが途切れた場合には給与など自身の収入から返済が必要になります。
また、不動産投資ではローンの返済のほかに、建物の修繕費や管理費、税金の支払いなどの経費も発生します。そのため、毎月のローン返済額を抑えることで金銭的な余裕を持ちながら投資を行うことができます。
金利変動リスクを抑えることができる
頭金を支払うことで借入金額(=元金)を減らし、金利変動に対する影響を抑えることができます。
不動産投資ローンの金利には一定期間金利が変わらない固定金利と、経済状況や物価の変動に合わせて金利を見直す変動金利の2種類があります。
変動金利は、一般的に景気や物価が上昇している場合に金利が上がり、借入金額が多いとそれだけ支払利息の金額も多くなります。頭金を入れて借入金額を少なくすることで、金利上昇のリスク対策にもつながります。
金融機関によっては固定金利を選ぶこともできますが、一般的に固定金利は変動金利よりも利率が高く設定されているため、月々の支払いが大きくなります。
物件売却がしやすくなる
頭金を入れることで物件売却などの出口戦略の幅が広がります。出口戦略とは、購入した物件を売却するか保持し続けるかなどの最終的なゴールを指します。
一般的に不動産投資によって得られる収益は、購入した価格よりも高い価格で売却し利益を得るキャピタルゲイン(不動産売却益)と、物件保有期間中の家賃収入によって得られるインカムゲインの2つに大別されます。
しかし、突発的な要因で売却を選択することもあると思います。例えば、「満室経営をすることが難しくなった」「借入を減らしたい」などが考えられます。
頭金を入れない場合は物件売却時に売却価格がローン残高を下回り、その差額を預貯金など自己資金の中から支払う必要が生じる可能性が高くなることから、早期売却の選択が取りにくくなる一方で、頭金を入れることで借入金額が少なくなるため、早期に売却した場合でも売却価格がローン残高を上回る可能性は高まり、早期売却も選択しやすくなります。
頭金を入れるデメリット3選
金融機関から求められていない場合でも、頭金を支払うことでメリットがあるということを前項で解説しました。
次に、頭金を入れるデメリットを解説します。
- 自己資金を用意する必要がある
- レバレッジ効果が弱まる
- 突発的な支出に対応しづらくなる
自己資金を用意する必要がある
頭金を入れる一番のデメリットは、頭金を支払うための自己資金を準備する必要があることです。
先述した頭金の目安は1〜2割であり、仮に2,000万円の物件を購入する場合は200~400万円の頭金が必要になります。まとまった貯金がない場合は、頭金を貯めるための期間が必要になり、結果として不動産投資のスタートが遅れてしまいます。
世の中の市況や情勢は日々変わっていくものであり、ほしい物件もいつまでも残っているわけではありません。
そのため、頭金を投入するメリットと比較しながらに、頭金なしのフルローンで投資をすることも必要かもしれません。
レバレッジ効果が弱まる
頭金を入れることでレバレッジ効果が弱まってしまいます。
レバレッジとはテコの作用になぞらえて小さい力で大きな効果をもたらすという意味で、不動産投資では「小さい資金で投資額に対して数倍の投資をして収益性を高める」ということになります。
不動産投資では自己資金とローンを組み合わせることで、実際に自分が持っている自己資金以上の物件を購入したときより大きな収益を得ることができます。
頭金の額が大きいほど投資できる物件の数の制限や自己資金の回収スピードも下がってしまうことはデメリットといえるでしょう。
突発的な支出に対応しづらくなる
頭金を入れることで自己資金が大きく減ってしまうために、突発的な支出があった場合に対応がしづらくなってしまいます。
不動産投資をすると、突発的に補修や修繕が必要になる場合があったり、固定資産税などの税金の支払いがあったりするなど、物件購入後も現金が必要になります。しかし、頭金を支払うと手持ちの現金が少なくなってしまいます。
不動産投資以外にも、冠婚葬祭・趣味・交際費など個人的な支出も当然ありますが、そこに充てられるお金も少なくなります。
そのため、自己資金を十分に確保していない状態で頭金に回してしまうと、突発的な現金の支払いが必要な場合にうまく対応できなくなる可能性があるのはデメリットといえるでしょう。
頭金なしで始めるならフルローンを利用しよう
頭金を支払わずに物件を購入したい場合は、フルローンを活用しましょう。フルローンとは、物件価格の満額の融資を受けることを指し、頭金を準備せずに手元の自己資金を残してすぐに不動産投資を始めることが可能です。
一方で、フルローン融資を受けたとしても不動産価格に対してのローンであり、後述するような不動産価格以外の諸費用については別途用意しなければいけないことは注意が必要です。
上場企業での勤務や勤続年数が長い場合など、支払い能力に問題ないと審査された場合にフルローンを受けられるため、頭金なしで始めたい人は金融機関や不動産会社に相談しましょう。
以下の記事でフルローンとはなにか、フルローンのメリットデメリット等について解説しています。こちらもぜひ参考にしてください。
【関連記事】不動産投資でフルローンはやめたほうがいい?その理由も解説!【税理士監修】
頭金以外に発生する諸費用は?
不動産投資の際には、頭金だけでなく保険料や印紙代などの物件購入に必要な諸経費が必要です。頭金と合わせてこれらの経費の総額を不動産投資では自己資金と呼び、不動産購入時に現金を用意しなければなりません。
物件によって異なりますが、諸経費は最低でも数十万円といわれています。物件購入の際には必ず不動産会社に事前に確認をしましょう。
ここでは、フルローンでも融資を受けられない諸経費を7つ紹介します。
手数料 | 一般的な金額 |
---|---|
仲介手数料 | 取引額の3~5%以内 |
各種税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税) | ・印紙税:2万円 ・登録免許税:土地・建物の約2% ・不動産取得税:固定資産税評価額の4% |
司法書士への報酬 | 5~10万円程度 |
融資保証料 | ・一括:借入金額の約2% ・返済額に上乗せ:借入金額の約0.2~0.3%/月 |
融資事務手数料 | 定額型3~10万円、定率型1~3% |
損害保険料(火災保険、地震保険、その他特約) | 10万円程度(区分マンションの場合) |
買主が負担する固定資産税 | 不動産価額(固定資産税評価額)×1.4% |
仲介手数料
仲介手数料は、不動産仲介会社を通して不動産物件を購入した際に不動産仲介会社に支払う成功報酬です。仲介手数料は宅地建物取引業法の第46条にて上限額が決められており、上限額は以下のようになっています。
【仲介手数料の上限額】 | |
---|---|
200万以下の部分 | 取引額の5%以内+消費税 |
200万円を超えて400万円以下の部分 | 取引額の4%以内+消費税 |
400万円超の部分 | 取引額の3%以内+消費税 |
例えば物件価格が2,000万円の場合、200万円までに5%、200万円~400万円に4%、残り1,600万円に3%の仲介手数料がかかることになり、「66万円(10万円+8万円+48万円)+消費税」となります。上記はあくまで上限であり、不動産仲介会社によってはもっと安い仲介手数料もあるため、気になる物件があれば比較検討することも重要です。
各種税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税)
不動産を購入するには印紙税や登録免許税、不動産取得税などの各種税金を支払うことが必要です。
税金名 | 一般的な金額 | 内容 |
---|---|---|
印紙税 | 2万円 | 10万円以上の不動産の売買契約書を紙で交わす場合に発生します。 |
登録免許税 | 土地・建物の約2% | 不動産を購入した際に必要な所有権や抵当権にかかわる登記手続きの際に国に納める税金です。 |
不動産取得税 | 固定資産税評価額の4% | 不動産を購入した場合に発生する税金です。 |
2021年5月21日より「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」(デジタル改革関連法)が成立し、不動産業界でも電子契約の推進が図られています。電子契約で行われた契約書類については上記の印紙税は不要になります。
司法書士への報酬
前述のように不動産物件を購入した場合は登記手続きが必要ですが、登記申請を司法書士に依頼した場合には費用が発生します。報酬額は司法書士や取得する物件により異なりますが、一般的には登録免許税等と司法書士報酬を合わせて数十万円といわれています。登記申請は誰でもすることができますが、必要な書類の準備や手続きが煩雑なために司法書士に依頼することが多く、一般的には不動産会社が手配・対応をしてくれます。
融資保証料
融資保証料とは、金融機関から融資を受けた場合に貸し倒れを防ぐためにローン保証会社と契約をする保証料です。融資保証料の目安は、借入時に一括で支払う場合は借入金額の約2%、毎月の返済額に上乗せする場合は約0.2%~0.3%を毎月支払います。
融資保証料額はローン申込者の返済能力や返済期間などで異なり、金融機関から事業の収益性の高さが認められた場合などには保証会社の保証がいらない「プロパーローン(プロパー融資)」を結ぶこともできます。
融資事務手数料
融資事務手数料は金融機関の不動産投資ローンの手続きのための手数料です。融資事務手数料は、一定の金額を支払う定額型と一定の割合を支払う定率型の2種類があり、定率型が一般的です。金額の目安として定額型は3万円~10万円、定率型は1%~3%といわれています。金融機関によって金額や割合が異なるため、こちらも融資を受ける金融機関に確認しましょう。
損害保険料(火災保険、地震保険、その他特約)
火災や地震、風水害などの災害リスクに対し、不動産物件を所有する場合は必ず各種損害保険に加入します。加入は必須ではありますが、どの金融機関の保険に入るかは任意のケースもあります。保険料は、損害保険料率算出機構が算出する火災保険参考純率をベースに建物の構造や面積などを加味して各社が算定するため、大きな違いはありません。
買主が負担する固定資産税・都市計画税
毎年1月1日時点の不動産所有者は、その年1年分の固定資産税を支払います。不動産価額(固定資産税評価額)×1.4%となり、いつ不動産物件の引き渡しがおこなわれたかによって清算金の額は変わってくるため、注意が必要です。都市計画税は市街化区域内に不動産を所有している人に対して課税される税金で。納付は一般的に固定資産税と合わせて行います。
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