Aiロボティクス Research Memo(3):「SELL」を核にしたデータドリブン戦略とファブレス経営を実現
1. ビジネスモデル
同社のビジネスモデルは、自社開発のAIシステム「SELL」を中核に据えた、データドリブンなD2C戦略に特徴がある。「SELL」は、商品開発や需要予測、CS・CRM業務など幅広い領域に活用されるとともに、広告運用のPDCAサイクルを自動化し投資効率の最適化と高い生産性を実現する。商品開発では、「SELL」を活用して顧客ニーズをデータに基づき把握するマーケットイン型と、独自の企画力を生かすプロダクトアウト型のアプローチを融合させ、再現性と創造性を備えた開発体制を構築している。また同社は、自社ECを主軸に、ECモールや店頭卸を組み合わせた販売チャネル戦略を採用している。
さらに、同社は製造設備を自社で保有しないファブレス経営を採用しており、化粧品や美容家電などの製品開発においてはTOA(株)など国内外の優良OEM企業と提携し製造を外部委託している。物流やコールセンター業務も含めてノンコア業務を外部に委託することにより、商品開発から広告運用、CRM施策といったD2Cブランド運営のコアとなる工程を少人数で効率的にカバーする体制を実現し、高い生産性を可能としている。
「SELL」:D2C全行程の最適化と自動化を可能とする成長エンジン
2. 自社開発のAIシステム「SELL」
(1) 概要
「SELL」は、広告運用を通じて得られる多様なパフォーマンスデータを継続的に蓄積し、クリエイティブの最適化や効果予測などのブランド運営業務を、機械学習に基づいて自動的に実行する同社が開発したAIシステムである。その中核的な価値は、他社には容易に模倣できない高度な自動化と、D2Cブランド事業開始以前からの蓄積データ活用による高い再現性にある。
「SELL」は、広告の運用結果から得られる多様なパフォーマンスデータを日々蓄積し、そこから導かれた知見をもとに、戦略的パートナーのMeta Platforms, Inc.の協力も得ながら、継続的な機能改良が行われている。こうした仕組みは、「SELL」の陳腐化を防ぐとともに、運用精度と効率はむしろ時間とともに向上していく。また、「SELL」が蓄積してきた膨大なデータに基づいたマーケティング活動の最適パターンを機械学習により再現可能としており、異なるブランドや商品カテゴリーであっても成果が再現できる点も大きな強みだ。
「SELL」の機能を活用することにより、同社は極めて少人数ながら高い生産性を実現しており、一人当たりの売上高は際立って高い水準にある。これは、「SELL」によって業務の多くが自動化され、人手を最小限に抑えつつ、成果を最大化できていることの裏付けと言える。
また、広告運用をほぼすべて内製化している点も大きな強みである。新規顧客獲得にかかるCPA(顧客獲得コスト)を自社でリアルタイムにコントロールできるため、売上目標や予算に対する柔軟な対応が可能となっている。バナー画像や広告テキストの自動生成、出稿先の最適化、そして24時間稼働の自動チューニングによって、高精度かつ効率的な広告運用体制を構築している。
こうした仕組みが競合に模倣されない理由としては、事業構造の違いが挙げられる。同社はD2Cブランド運営の中心となる全工程を一貫して自社で手がけており、「SELL」はその統合プロセスの中で最大限に機能するよう設計されている。一方で、多くのメーカーは広告運用を外部に委託しており、そもそも自動化システム構築の基礎となるマーケティング・ノウハウを持っていない。また、既存のマーケティング企業は、広告業界の下請け・孫請け構造の中で事業を営んでおり、自動化の推進が既存のビジネスモデルを覆すいわゆる「イノベーションのジレンマ」となってしまう。そのため、「SELL」のような自動化システムの導入は進みづらいのが実態である。
このように、「SELL」は単に技術的な強みがあるだけではなく、独自の事業モデルと密接に結びついた模倣困難な成長エンジンであり、同社の競争優位の源泉と言えよう。
(2) 「SELL」の活用領域
a) 商品開発
「SELL」は、口コミデータ、広告配信データ、自社商品の販売実績など、多様な市場トレンド情報をテキスト解析・分類・スコアリングの技術を用いて自動で処理する。これにより、数値化されたデータをもとに、ヒット商品の芽を的確に捉える商品企画が可能となる。
b) 需要予測
顧客の購買履歴は「SELL」に蓄積されており、それらを機械学習により分析・解析することにより、季節要因や成長見込みを踏まえた高精度な需要予測を可能としている。その結果、在庫や発注の適正化が進み、需要変動にも柔軟に対応できる体制が構築されている。
c) CR(クリエイティブ)作成
素材画像を登録するだけで、「SELL」は過去の広告データや商品情報をもとに、広告効果の高いバナーやテキストを自動生成する。制作工数を大幅に削減しつつ、パフォーマンスを重視したクリエイティブを量産できる点は、他社との差別化要因の1つである。
d) 広告運用
過去の広告配信データを学習することにより、「SELL」は効果が見込まれるクリエイティブの傾向を抽出し、広告の効果を予測する機能を備える。この予測機能を活用することで、「SELL」は最適な広告を自動的に選定できる。出稿に際しては担当者の確認を経るが、媒体とのAPI連携により配信作業や効果レポートの生成も自動化され、業務の効率性が高められている。
e) CS(カスタマーサポート)対応
顧客からの問い合わせに対しては、「SELL」が内容を解析・分類し、返信文の生成やエスカレーションの要否を判定する。この自動判定機能により、対応品質を維持しつつ、人的リソースを抑えた効率的なサポート体制が実現されている。
f) CRM(顧客関係管理)施策
「SELL」により蓄積された購買データは、顧客ごとの行動パターンや関心の変化を可視化するうえで有効である。これを活用し、再購入が見込まれる顧客に対する販促や、休眠顧客の掘り起こしといった施策が、高精度かつ高確度で実行できる。結果として、LTV(顧客生涯価値)の最大化と継続率の向上に大きく寄与している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 西村 健)
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