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ワコム Research Memo(4):テクノロジーソリューション事業の収益底上げとブランド製品事業の構造改革が奏功


ワコムは2025年3月期の決算で売上高が2.6%減少しましたが、営業利益は44.7%増加し、大幅な増益を達成しました。主に「テクノロジーソリューション事業」の収益底上げと「ブランド製品事業」の構造改革が奏功しました。「テクノロジーソリューション事業」はOEM需要の増加と円安効果で好調でしたが、「ブランド製品事業」は中低価格帯モデルの苦戦が続きました。それでも構造改革が進み、損失幅は改善しました。財務面では、現金及び預金が減少したが、自己資本比率は安定しています。また、次世代技術への投資として、AI技術を持つPreferred Networksへの出資やIoT分野のJENESISとの連携を強化しています。医療分野では、Holoeyesとの協業でデジタルペン技術を活用した新事業展開を図り、事業ドメインを拡大しています。

*13:34JST ワコム Research Memo(4):テクノロジーソリューション事業の収益底上げとブランド製品事業の構造改革が奏功 ■決算概要

1. 2025年3月期の業績概要
ワコム<6727>の2025年3月期の連結業績は、売上高が前期比2.6%減の115,681百万円、営業利益が同44.7%増の10,210百万円、経常利益が同5.5%増の10,394百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同14.5%増の5,225百万円と微減収ながら大幅な増益を実現し、営業及び経常利益は計画を上回る着地となった。

売上高は、円安や好調なOEM需要を背景として「テクロノジーソリューション事業」が伸びたものの、商品ポートフォリオの刷新を進めるなかでプロ向け以外の中低価格帯モデルにおいて苦戦が続く「ブランド製品事業」の落ち込みが大きく減収となった。

一方、積極的な研究開発費※1を継続しながらも損益面で大幅な営業増益を実現したのは、円安効果及び「テクノロジーソリューション事業」による収益の底上げに加え、「ブランド製品事業」の損失幅が事業構造改革に伴い改善した※2ことが主因である。また、2025年3月期も事業構造改革に伴う費用を特別損失(特別退職金等に約31億円)として計上したが、親会社株主に帰属する当期純利益においても増益を確保した。

※1 次世代の成長エンジンとなる技術開発等に8,686百万円(前期比1,010百万円増)を投じた。
※2 コロナ禍での負の遺産(棚卸資産等)の整理(売上原価への一時的な費用計上)が前期で一巡したほか、販管費の削減などが挙げられる。

財政状態については、自己株式の取得(約75億円)や長期借入金の返済(20億円)に伴う現金及び預金の減少等により、総資産は前期末比11.1%減の70,771百万円に縮小した。自己資本も自己株式の取得等により、同14.2%減の30,859百万円に縮小し、自己資本比率は43.6%(前期末は45.2%)とわずかに低下した。もっとも、ネットキャッシュの状況にあり、キャッシュ・フロー対有利子負債比率※も1.5倍に抑えられていることから、財務の安全性に懸念はない。

※ キャッシュ・フロー対有利子負債比率=有利子負債/営業キャッシュ・フローにて計算。

2. 事業別の業績概要
(1) テクノロジーソリューション事業
売上高は前期比2.3%増の86,936百万円、セグメント利益は同12.2%増の18,495百万円と増収増益となった。市場環境の変化の影響を受け、「AESテクノロジーソリューション」がやや軟調に推移するも、円安効果に加え、「EMRテクノロジーソリューション」におけるOEM提供先の需要増が業績を押し上げる要因となった。

(2) ブランド製品事業
売上高は前期比15.0%減の28,745百万円、セグメント損失は2,879百万円(前期は4,520百万円の損失)と、減収ながら損失幅が改善した。売上高は主力の「クリエイティブソリューション」が消費者行動の変化等の影響により、ディスプレイ製品・ペンタブレット製品ともに低調に推移した。「ビジネスソリューション」についても、わずかに減収となった。損益面では、事業構造改革によって、前期に計上された一時的な費用の縮小、固定費(人件費や償却負担など)が削減され、損失幅が改善した。活動面では、事業構造改革プランの1つに掲げた新ユースケース「ポータブルクリエイティブ」を確立するため、2024年5月に「Wacom Movink 13」をリリースしたほか、2025年2月にはフラッグシップペンタブレット「Wacom Intuos Pro」をリリースした。

3. 2025年3月期の総括
2025年3月期を総括すると、事業構造改革にエネルギーを注力したこともあり、トップラインの上昇は2026年3月期以降に期待される結果となった。その一方で、事業構造改革プランを完遂し、計画を上回る増益を実現した点は評価される。特に、「ブランド製品事業」の低迷を招いた構造的要因(外部、内部両面)を特定し、そのひとつひとつに解決への道筋をつけたところは再成長に向けてプラスの材料と言える。また、事業構造改革に取り組みながらも、次のステージを見据えた事業ドメインの拡大や技術獲得に向けた資本提携を推進し、両にらみで一定の成果を収めた。



■トピックス

事業ドメインの拡大や技術獲得に向け、資本提携を推進

1. Preferred Networksへの出資
2024年11月に、AI技術を活用したソリューション・製品やAI半導体などを開発する(株)Preferred Networks(以下、PFN)の第三者割当増資を引き受け、10億円を出資した。PFNは2014年創業のスタートアップで、AI技術の実用化に必要なハードウェアからソフトウェアまでを垂直統合で開発・提供している。これまでもセルシス<3663>とともに、クリエイターの創作過程であるペンの動きを「軌跡」としてデジタル技術で捉え、新たな芸術表現の可能性を探る「KISEKI ART」プロジェクトを推進してきた。本件を通じて、PFNとの協業関係をさらに深めるところに狙いがある。新中期経営計画「Wacom Chapter 4」においては、テクノロジーソリューション事業への応用展開も検討する。学びや医療等を含む様々な分野で、人間に寄り添い人間の活動に寄与する「ペンとデジタルインクの総合体験」を社会に提供できるよう、技術開発及び技術革新に結び付けることで新成長エンジンの進化を進める考えだ。

2. JENESISの株式取得
2025年3月には、IoTソリューションを提供する(株)JENESISの株式を20百万円で取得した。JENESISは、2012年の創業以来、クライアント企業に対してIoTデバイスの開発、製造、アプリ開発、運用、保守等のサービスをIoTソリューションとして提供している。「Wacom Chapter 4」においては、「ペンとデジタルインクをはじめとした技術の総合体験」を社会に提供するため、学びやビジネスシーンを含む様々な分野でのテクノロジーソリューション事業における新たなプラットフォームとして展開していく。

3. Holoeyesの株式取得
2025年5月には、医療用画像処理ソフトウェア等を手掛けるHoloeyes(株)の株式を97.6百万円で取得した。Holoeyesは、2016年に創業し、「医用画像と医療知見を空間的に再現・共有し医療の最適化を実現する」をミッションに掲げ、医療領域における、臨床・トレーニング・教育向けのVRアプリ等開発及びサービス事業、データ提供サービス事業を展開している。医用画像を3次元空間的に表示する「医療用画像処理ソフトウェアHoloeyes MD」は、2020年に医療機器認証を取得以来、のべ約200の診療科で利用されている。同社は、VRペンを含むデジタルペンとインク技術を、Holoeyesが持つ臨床医療や医療教育とのネットワーク及びVRソフトウェア技術と連携させることで、医療分野への事業展開を図る。これは、「Wacom Chapter 4」の注力領域の1つである。デジタルヘルスケア分野において医療ワークフローでのインク体験を臨床現場で共創するため、事業モデルの深化を進める方針だ。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)

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