芙蓉リース Research Memo(3):2023年3月期の経常利益は6期連続で過去最高益を更新(1)
1. 業績を見るポイント
芙蓉総合リース<8424>の売上高は、全体の80%超を占めるリース料収入のほか割賦販売による収入やファイナンスによる受取利息、ノンアセット収益(各種手数料収入など)によって構成されている。売上高(ノンアセット収益を除く)は基本的には「営業資産残高」に伴って増減することから、売上高の拡大のためには「契約実行高」を増やし、「営業資産」を積み上げることが必要となる。ただ主力のリース料収入については、売買取引に準じた会計処理となっており、リース物件の価格が含まれていることに注意が必要である。したがって金融としての本来の業績の伸びを判断するためには、売上高からリース物件の取得原価を除いた「差引利益」の動きを見るのが妥当である。
一方、本業における収益性を判断するためには、「差引利益」から「資金原価(資金調達コスト)」のほか、「人件費及び物件費」や「貸倒関連費用(戻入益を含む)」※などの費用を引いた「経常利益」の動きを見るのが最も合理的である。なお、「経常利益」は「営業資産残高」と「ROA(営業資産経常利益率)」の掛け算となるため両方の動きによって影響を受ける。また最近は、ノンアセット収益の拡大にも取り組んでおり「その他」セグメントの動きにも注目する必要がある。
※貸倒引当金繰入額(販管費)と貸倒引当金戻入益(営業外収益)をネットしたもの。
2. 過去の業績推移
過去の業績を振り返ると、「経常利益」は「営業資産」の積み上げとROA向上の両方により増益基調を続けている。特にROAの向上については、比較的利回りの高い「不動産リース」及び「航空機リース」の拡大に加え、最近ではBPOサービスを中心とした新領域のビジネス(ノンアセット収益)の伸びが寄与している。
費用面を見ると、「資金原価」はほぼ横ばいで推移してきた。調達総額が増加しているものの、市中金利の影響により調達利回りが低下していることが要因である。2023年3月期は海外の取り組み伸長による外貨調達の拡大等により調達利回りが若干上昇した。また、「人物件費」を一定水準に抑えるとともに「貸倒関連費用」も低位にて推移しており、同社の強みであるローコストオペレーションも発揮されている。それらの結果、2023年3月期の経常利益は6期連続で過去最高を更新した。
有利子負債は「営業資産」の積み上げに伴い増加してきたが、自己資本比率は10%水準で安定的に推移している。同社の水準は、流動性の高い「営業資産」を大量に保有するリース業界においては他社と比べて見劣りするものではなく、財務基盤の安定性に懸念を生じさせるものではない。
また資本効率を示すROEについても、利益水準の底上げとともに上昇し、2021年3月期以降は10%を超える水準で推移している。
3. 2024年3月期上期決算の概要
2024年3月期上期の業績は、売上高が前年同期比1.6%減の3,503億円、営業利益が同3.0%増の278億円、経常利益が同6.8%増の332億円、親会社株主に帰属する四半期純利益が同13.5%増の230億円と各段階利益で増益となり、過去最高益(上期ベース)を更新した※。
※経常利益は7期連続、四半期純利益は9期連続での更新。
事業本来の業績を示す「差引利益」(資金原価控除前売上総利益)は、引き続き「エネルギー環境」や「不動産」「航空機」といった成長ドライバーの伸びにより、前年同期比16.6%増の621億円と順調に拡大した。
経常利益についても、「差引利益」の伸びに加え、持分法投資利益※の増加などにより同6.8%増に拡大した。事業分野別で見ると、「エネルギー環境」が資金コスト計上の一部先行により一旦減益となったものの、「モビリティ」「不動産」「航空機」がそれぞれ伸びており、実態としては成長領域を中心にバランスの取れた利益成長が続いている。
※持分法適用関連会社の順調な業績推移に加え、不動産事業に伴う持分法投資利益の拡大によるもの。
費用面を見ると、海外アセットの積み上げに伴う外貨調達の拡大等により調達利回りが上昇し「資金原価」が大きく増加したものの、その点は想定内である。また、Pacific Rim Capital, Inc.※の連結化を含むグループ拡大により「人物件費」が増加したが、OHR(経費率:人物件費/売上総利益)は良好な水準を維持している。保有する債権の貸倒リスクも低く抑えられている。
※米国の独立系オペレーティング・リース会社(モビリティ領域)。
「契約実行高」についても前年同期比19.0%増の8,347億円に大きく増加した。「エネルギー環境」でのエクイティ投資(再生可能エネルギー事業への参画)や不動産ファイナンス、航空機リースが大きく拡大した。特にリースについては、注力するオペレーティング・リースの実行高が大きく増加しており、収益性向上に寄与している。また、「営業資産残高」についても、「エネルギー環境」「不動産」「飛行機」といった成長ドライバー領域を中心に着実に積み上げ、前期末比4.1%増の2兆8,144億円に増加した。
これらの結果、ROA※については2.41%(前年同期も2.41%)と高水準で推移しており、収益性の高いポートフォリオへの転換や事業領域の拡大により収益力の底上げが定着してきたと言える。
※経常利益(年換算)÷営業資産残高(平残)。
財政状態については、総資産は前期末比3.9%増の3兆2,716億円に増加した一方、自己資本は内部留保の積み増しにより同10.1%増の4,038億円になったことから、自己資本比率は12.3%(前期末は11.6%)に向上した。また、有利子負債(リース債務を除く)は前期末比3.5%増の2兆6,009億円に増加※1したが、長期調達比率※2は64.3%(前期末は63.6%)を維持し、長短のバランスも安定している。
※1 営業資産の積み上げを背景に、社債(ハイブリッド債を含む)や長期借入金による調達を拡大した。また、「サステナブルファイナンス・フレームワーク」を活用し、ESGファイナンスによる調達を積極的に実施している。
※2 有利子負債に占める、長期有利子負債(社債+長期借入金+債権流動化に伴う長期支払債務)の比率。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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