ウェーブロックHD Research Memo(9):2024年3月期業績は、営業増益となる見通し
1. 2024年3月期の業績見通し
ウェーブロックホールディングス<7940>の2024年3月期の連結業績は、売上高で前期比1.0%増の22,800百万円、営業利益で同15.5%増の400百万円、経常利益で同8.2%減の660百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同81.9%減の420百万円となる見通し。2023年7月に発表した会社計画に対して売上高を700百万円引き下げたが、営業利益で30百万円、経常利益で160百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で150百万円それぞれ増額修正した。また、2021年3月にインテリア事業を売却して以降、初めて営業利益段階で増益を達成することになる。為替は前期と同水準の135円/ドルを前提としている。
(1) マテリアルソリューション事業
マテリアルソリューション事業の売上高は、前期比3.2%減の17,500百万円、営業利益は同45.5%増の900百万円となる見通し。既存事業の売上高は下期も上期と傾向は変わらない見通しだが、新規事業である地中熱ビジネスについてはリソース不足により従来計画の700百万円から130百万円に引き下げた。一方、営業利益は第2四半期までに収益改善が想定以上に進んだものの、2023年9月以降、ナフサ価格が再び上昇傾向となっているため、高止まりしていた原材料価格やエネルギーコスト等の上昇リスクを第4四半期に保守的に織り込み、通期の営業利益は前回予想を維持した。
地中熱ビジネスとは、自然エネルギーである地中熱を利用した高効率エネルギーシステム「ヒートクラスター(R)※」の設計・施工管理事業のことで数年前から手掛けていたが、2022年4月に設計・施工会社のエイゼンコーポレーションを子会社化し、本格的に事業の拡大を目指した。ターゲットは、ビニルハウス栽培などの施設園芸農業や工場、病院、公共施設などだが、地中熱エネルギーシステムの場合、地中熱を利用するための穴を複数本、掘削する工事が必要で設備投資額がかさみ、投資回収期間が他の再生可能エネルギーシステムと比べて長くなるのが課題と言われてきた。同社が手掛ける「ヒートクラスター(R)」は熱交換効率を従来比3~5倍に高めたことで掘削する穴の本数を減らすことができるため、設備投資額が少なくて済むというメリットがある。また、同社の場合は農業分野や工場分野でグループ製品も合わせたソリューション提案を行うことができる。農業分野では遮光シートによる日照量等の調整による生産性向上、工場分野ではシートシャッターの活用によるアクセスしやすい開放的かつ機能的な空間の提供など、エネルギー効率の最適化だけでなく現場に従事する作業者の快適性向上なども含めたトータルソリューションの提案が可能となり、競合との差別化ポイントにもなる。
※「ヒートクラスター(R)」とは、地下10~200mの地中熱を利用したヒートポンプ方式の冷暖房システムで、年間を通して温度がほぼ一定となる地中に熱交換システムを設置し、冬の暖房時には外気より温度の高い地中から採熱し、夏の冷房時には外気より温度の低い地中に放熱することによって、既存の空調システムに対して大幅な省エネ化を実現できる。
2023年1月に自社工場(ダイオ袋井工場)にも導入済みで※、運用ノウハウを蓄積している。2024年3月期はこれら実績を踏まえて1億円を超える大型案件の受注獲得に取り組んできたが、前期に採用した人材の経験値がまだ不足していることから、2024年3月期は小規模案件で実績を積み重ね、経験値を高めたうえで2025年3月期以降に中~大規模案件を手掛ける方針にした。このため、2024年3月期の売上目標は700百万円から130百万円に引き下げたが、地中熱エネルギーシステムに対する見込み顧客の関心は高いようで大型案件の商談も進んでいる。今後は展示会への出展による認知度向上や、建設会社など協力会社のネットワークを広げながら事業拡大を目指す。2023年10月に連結売上高を下方修正する要因にもなったことから、2025年3月期の計画には保守的に織り込むことになりそうだ。
※設備投資額は1億円強で、うち半分を補助金で賄った。年間の光熱費の削減効果は14百万円程度と試算しており、補助金を活用することで投資額を約4年で回収できる計算となる。システムは15年程度利用できるため、通算すると1.5億円のコスト削減効果が期待できるほか、CO2の排出量削減に貢献することになる。
(2) アドバンストテクノロジー事業
アドバンストテクノロジー事業の売上高は前期比16.6%増の5,300百万円、営業利益は同58.7%減の150百万円となる見通し。金属調加飾フィルムの中国市場向けの販売低調により、売上高は前回予想から200百万円引き下げたが、営業利益は米国工場の歩留まり改善が進むことで前回予想を維持した。減価償却費が2億円強増えるため減益となるが、EBITDAでは横ばい水準となる見込みだ。金属調加飾フィルムはエンブレム用での採用が広がっているほか、新規顧客の開拓や新たなアイテムでの採用の可能性も広がっており、中期的に高成長が期待できる事業として注目される。現時点で追加の大型設備投資の予定はないものの、大型受注を獲得した場合は一関工場の製造ラインを1本増設するなどの可能性が出てくる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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