富士ソフト Research Memo(3):多彩かつユニークなICTサービス・プロダクトを提供(1)
富士ソフト<9749>の報告セグメントは、SI事業、ファシリティ事業、その他の3つから成る。主力のSI事業はシステム構築とプロダクト・サービスに大別され、さらにシステム構築は組込系/制御系ソフトウェアと業務系ソフトウェア、プロダクト・サービスは狭義のプロダクト・サービスとアウトソーシングに細分化される。また、ファシリティ事業はオフィスビルの賃貸、その他はBPOサービス事業やコンタクトセンター事業、再生医療事業等を行っている。
1. 屋台骨である組込系/制御系ソフトウェア
SI事業のシステム構築区分に属する組込系/制御系ソフトウェアは、全社売上の29.2%(2018年12月期)、同営業利益の37.2%(同)を占める屋台骨であり、セグメント利益率もSI事業の中ではトップであった。
組込系/制御系ソフトウェアは、特定の機能を提供するために当該機器に組み込まれたマイクロコンピュター等で動作するソフトウェアであり、同社のテクノロジーは、自動車や携帯電話、TVやエアコンなどの家電製品、プリンター等のOA機器、ロボットや半導体製造装置の生産設備、信号機などのインフラ設備、CTやMRI等の医療機器など、多種多様な製品・機器で活用されている。
同社は、当領域で国内トップクラスの実績を蓄積しており、FA等の機械制御系や自動車関連に強みを有する。車載向けに限定すれば実質的にすべての国内完成車メーカーに納入、国内トップシェアを誇っている。
自動車産業におけるCASE(Connected:コネクティッド化、Autonomous:自動運転化、Shared/Service:シェア/サービス化、Electric:電動化)やAIやロボットによる生産性革命の流れは、現在のところ、同社にとって追い風であり、2019年12月期上期においては2ケタ増収増益を達成、期末受注残高は、前年同期末比で17.0%増、前期末比で7.8%増と順調に積み上がっている。なお、新卒大量採用等の影響から、セグメント利益率は5.4%と2018年12月期の7.1%から低下しているが、前年同期比で見れば0.4ポイント改善しており、問題視する必要はない。
2. 回復傾向にある業務系ソフトウェアの利益率
SI事業のシステム構築区分に属する業務系ソフトウェアは、全社売上高の27.3%(2018年12月期)、同営業利益の23.9%(同)を占める大きな柱である。2016年12月期は足踏み局面となったが、その後は2年連続で全社増収率を上回り、セグメント利益率も回復傾向にある。2019年12月期上期においても、製造業向け、インターネットサービス、ノンバンク、グループ会社における流通・サービス向けを中心に好調を維持しており、前年同期比で26.0%増収、70.4%増益を達成、期末受注残高も前年同期末比で29.9%増、前期末比で16.0%増とハイペースで積み上がっている。なお、新卒大量採用等の影響から、セグメント利益率は4.0%と2018年12月期の4.9%から低下しているが、前年同期比でみれば1.1ポイントの大幅改善を実現しており、実質的に近年の回復傾向が継続していると考えてよさそうだ。
当領域は、オーガニックな事業拡大に加え、補完的M&A戦略が奏功し、現在では、流通業、金融業、サービス業、製造業、ネットビジネス、社会インフラ、教育、文教、医療、公共機関など幅広い業種に対し、店舗・受発注システムや生産・販売・在庫管理などの基幹システム、勘定系システム、情報システム、ネットサービスといった様々なソリューションをコンサルティングから開発、システム構築、サポートまでワンストップで提供できる体制を確立している。
国内ITサービス市場の主戦場に位置する業務系ソフトウェア領域については、1)オンプレミス(サーバー等のITシステムを自社内の設備で運用すること)からクラウドサービス利用へのシフト、2)「守りのIT(業務の効率化がメイン)」から「攻めのIT(事業の創造がメイン)」への進化、など既存プレイヤーにとって逆風になりかねない市場の構造変化が起こっている。この中にあって同社は、「変化はチャンスなり」の精神で積極的な人材投資による受託開発強化を明確に打ち出し、実行している。まさに、「挑戦と創造」という社是に相応しい経営判断であり、今後の推移に注目したい。
3. 採算性が大きく改善した狭義のプロダクト・サービス
SI事業のプロダクト・サービスは、狭義のプロダクト・サービスとアウトソーシングに区分される。狭義のプロダクト・サービスの売上高構成比は28.8%(2018年12月期)、営業利益構成比は14.9%(同)である。
売上高構成比が過去3年において上昇する一方で、セグメント利益率が総じて全社水準を下回っている理由は、利幅が薄い物販等が区分売上高の半分程度を占めるためである。残りの売上高は自社プロダクトとライセンスビジネスでほぼ等分される。なお、2018年12月期に増収減益となり、セグメント利益率が大きく落ち込んでいるのは、品質強化のための先行投資負担増によるところが大きい一過性の動きである。実際、2019年12月期上期は前年同期比で9.1%増収、24.8%増益となり、子会社サイバネットシステムの収益性改善等を受けてセグメント利益率は6.2%と前年同期、2018年12月期のいずれに対しても改善している。また、期末受注残高は、前年同期末比で11.5%増、前期末に対しては31.5%増と大幅な積み上がりとなっており、2019年12月期下期も順調な推移が見込まれるだろう。
狭義のプロダクト・サービスは、1)自社プロダクト(ペーパーレスシステムの「moreNOTE」、情報化社会における総合教育ソリューションの「みらいスクールステーション」、個人所有のスマートフォンなどを会社の業務で活用するツールである「smartBYOD」、コミュニケーションロボットの「PALRO」等)、2)ライセンスビジネス(マイクロソフト製品、AWS、VMware等)、3)物販等(PC、サーバー等)、から成る。2019年12月期上期の前年同期比増収率を見ると、自社プロダクトが2%増(2018年12月期増収率7%増)、ライセンスビジネスが29%増(同26%増)、物販等が3%増(同17%増)となり、ライセンスビジネスの好調ぶりが際立つ。ライセンスビジネスについて、Windows7のサポート終了(2020年1月14日)を控えた特需的な動きが足許の売上を押し上げている部分もあるが、一般論としては、office365や各種クラウドサービスといったICTプロダクトのサブスクリプションモデル化(売り切り商売ではなく、利用期間に応じて料金を徴収するビジネスモデル)の進展により、従来以上に事業の安定性が高まっている可能性があるだろう。なお、同社の場合、ライセンス製品の導入サポートに関わる売上は自社プロダクトに計上され、厚い利幅を確保しているもようである。
独立系SIerとして特定のハードウェアに縛られない柔軟なシステム構築力を強みの1つとする同社が、コミュニケーションロボット「PALRO」等のハードウェアを含む自社ブランド・プロダクトを投入していることは、ユニークな挑戦に見える。コアコンピタンスである「技術力と提案力」を注ぎ込んだ自社プロダクトにより、新たな付加価値の創造に取り組む戦略は「挑戦と創造」という社是に沿った動きであるが、会社側が「高い水準を求めている」としている先行投資局面後の収益性については注意深く見守りたい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 前田吉弘)
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