中国の新たな不安材料(1)【中国問題グローバル研究所】
ドナルド・トランプ大統領の政策による世界的な秩序の崩壊が、中国にとって懸念される状況をもたらしている。特に、トランプ政権が条約の破棄や、ウクライナとロシアの戦争に対するアプローチで示したように、アメリカは信頼できないパートナーとなりつつある。これは、アメリカが主導するグローバル秩序の弱体化を喜ぶ中国にとっても問題を引き起こす可能性がある。ウクライナ戦争に対するアメリカの対応が変化する中、EUをはじめとする他国は、自国の防衛や中国の動向に対する新たなアプローチを模索している。これにより、中国は欧州諸国との関係で好ましくない立場に立つ可能性がある。トランプ政権の政策によって生じた不確実性が、国際社会に新たな同盟やパートナーシップの形成を促している。
下り坂が続く
2期目を開始して2カ月となるドナルド・トランプ氏は、依然としてマスコミを日々賑わせており、新たなドラマや非常識な言動を毎日世に発する様子はまるで昼ドラのようだ。大統領を影で支えるチームは人々を情報の洪水に巻き込む戦略を展開しているが、これは偶然の結果ではなく、憲法違反や大統領の越権行為だと判断されうる行動に反対するだろう人たちを混乱させ、押さえつける企てである。援助プログラムやバイオメディカル研究、政府機関全体の変更や閉鎖であれ、何千名もの連邦政府職員の違法な解雇であれ、トランプ政権がもたらした変化の規模の大きさを考えると、野党の政治家や従来型メディア、裁判所が後れを取り、阻止できなかったことは間違いない。三権分立の一角を担う裁判所が先日ようやく行政府の権力掌握に抵抗し始めたが、メディアコメンテーターだけでなく閣僚の間でも、裁判所の判決を無視するよう求める声が強まっている。またトランプ氏自身も判事の判断に不満を抱き、弾劾されるべきだと判事を非難した。これは米国における法の支配の崩壊にほかならず、米国は民主主義国家から、大統領の意に沿わない法律には従わない独裁国家へと向かっている。米国と同盟を結んでいる国にとってこれは由々しき事態であり、米国は信頼できないパートナーとなりつつある。
大口を叩いていたにもかかわらず、トランプ氏はウクライナ戦争を終わらせることができていない。また大統領就任時には自身の成果だと主張していたガザの停戦すら、イスラエルがガザへの攻撃と軍派遣を再開したことで行き詰まっている。彼がこれまでに実行しうまくいったことといえば、近隣諸国や同盟国を脅して従わせることである。すでにカナダとメキシコ、そしてもちろん中国にも関税を課したほか、鉄鋼・アルミニウムにも関税を課しているが、4月2日には欧州連合を中心とするほぼすべての貿易相手国を対象とした相互関税を発表する予定である。
トランプ氏は自分とヴァンス副大統領がゼレンスキー大統領を公の場で非難すればとても面白いテレビ番組になると冗談めかして言っていたが、そのとおりの展開となった。しかしウクライナに対する今回の裏切りは実のある結果をもたらしていない。ゼレンスキー大統領はこの会談に向けた準備がしっかりできていなかったようだが、最終的に停戦に同意する意欲を示したことで、戦争を終結させるために歩み寄るかどうか、ロシア側にボールが投げられたことになる。ロシアとプーチン氏をよく知る人であれば、彼らがトランプ氏に調子を合わせるはずがないことは明らかであり、実際そのとおりの結果となった。トランプ氏が成し遂げたことといえば、彼の下で米国はまったく信頼できない国になったことを欧州の(元)同盟国に示し、米国に頼らないポストNATOの安全保障秩序への着手を余儀なくさせたこと以外にはない。
トランプ氏が自国の政府を骨抜きにし、同盟関係や友好関係を台無しにする今、中国が不安感を抱く必要などあるのだろうか。米国主導の世界秩序の崩壊は、中国が望んでいることではないのか。
「欧州の戦争」における中国の立場
トランプ氏が条約を破棄したり、グローバルな協定から離脱したりするたびに、自ずと中国が勝者になると考えてしまう人もいるだろう。確かにWHO脱退やパリ協定離脱で米国にメリットはなく、雑な解釈をすれば、空いた席に中国がつくとも考えられる。実際そうなる場合もあるかもしれないが、それは、中国が世界のリーダーとなる態勢を整えていることを前提とする。中国とロシアがこれまで掲げてきたグローバルビジョンの大部分は、自らが世界に何を提案するかではなく、米国の提案を否定することに終始してきた。
ロシアがウクライナに侵攻した際、ロシアが戦争を遂行できるかどうかの鍵を握っていたのは中国の反応である。おそらくプーチン氏は事前にこの特別な軍事行動を習近平氏に知らせていたはずだが、プーチン氏同様、習氏も数日か数週間で決着がつくと考えていた。3年が経っても中国は相変わらずロシア側につき、対ロシア貿易を大幅に増やし、軍事以外の技術と物資の主要な提供国であり続け、ロシア産炭化水素の最大の購入国となっている。他国の問題に介入しないという中国の神聖な理念は、ウクライナの主権問題になると都合よく忘れ去られてしまうようだ。
プーチン氏の世界観では、ウクライナは正式な国家ではなく、ロシアを弱体化させる手段として米国が支えるある種の傀儡政権であった。そのため、ロシアは表面的にはウクライナ国民と闘いながら、実際には米国と戦争をしているのである。この歪んだロジックが、まずイランがロシアにドローン技術を積極的に提供し、北朝鮮がロシアの軍事行動に兵士を派遣するという流れを生んだ。そしてこの歪んだ世界秩序は、CRINK(中国、ロシア、イラン、北朝鮮)が、ウクライナへのいわれのない攻撃の支援というより米国への間接的な攻撃としてこれらの行動を正当化することにつながっている。直接的な攻撃は狂気の沙汰としか言えないが、米国がウクライナ問題にかかりきりになれば、それ以外の地域から米国の注意をそらすことができる。だが、トランプ氏のせいでこうした計算全体に狂いが生じた。トランプ氏が実質的にウクライナ側からロシア側へと寝返る中、EUなど欧州諸国は、自分たちが中心となって戦時下と戦後のウクライナを支えなければならないこと、またウクライナ戦争は今もこれまでも米国に対する代理戦争ではないということを徐々に受け入れつつある。欧州の国であるウクライナへの攻撃であり、欧州諸国がウクライナの主たる支援者となるのである。そうなると、中国は欧州諸国との関係で極めて好ましくない立場に立たされてしまう。米国第一主義の貿易政策を取る米国への対抗勢力としてアピールし、欧州諸国との協力の緊密化を図る一方で、欧州の国への攻撃を認め実質的に支援していることになるからだ。
グリーンエネルギー化で欧州と連携する安定した確かな貿易相手国として、欧州にとって信頼できるパートナーとなる準備を万全に整えていると中国が自認していることは間違いない。そうしたナラティブがいまだに響く相手がいるかもしれないが、トランプ政権発足前には欧中貿易関係が非常に不均等かつ不平等であることにEUは気づき始めていた。
トランプ氏がウクライナに背に向けたことで、他の国々は自国の防衛について今まで以上に真剣に考えることを余儀なくされており、中国の脅威に対抗するため、新たな同盟関係やパートナーシップの構築を目指しているはずだ。アジアでは韓国と日本がその顕著な例である。米軍が駐留し、歴史的に米国と強固な同盟関係にある両国も、米国が向かう先と、安全保障を米国に依存することの現実的なリスクを憂慮しているに違いない。
また忘れてならないのは、米国は欧州との同盟関係や約束を台無しにしているが、中国に神経を集中させたいというのもその理由の一つだという点だ。それが何を意味するのか、現時点では誰にも分からない。トランプ氏のチームの中国に関する発言は驚くほど少なく、追加関税を課したとはいえ、具体的な対中政策のようなものは一切打ち出されていない。トランプ氏は習氏が訪米すると述べているものの、詳細についてはまったく触れていない。中国と取引(ディール)すると話しているが、現在までのところ彼の取引は概ね期待外れの結果に終わっている。戦争は終結せず、平和は実現せず、経済成長も見られない。
「中国の新たな不安材料(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
米、鉄鋼・アルミ製品25%関税発動へ(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
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