
ロシアの侵攻を受けるウクライナと米国の首脳会談が決裂したことで、中国の統一圧力にさらされる台湾ではこれまで以上にトランプ大統領の姿勢が注目を集めている。頼清徳政権の掲げる「台湾海峡の現状維持」を守る上で、後ろ盾となる米国に対する信頼感が欠かせないためだ。
「米国がインド太平洋地域から撤退することはありえないと考えている。米国の核心的な国益だからだ」
台湾国防部(国防省に相当)が3日に開いた記者向け説明会で、顧立雄(こりつゆう)国防部長(国防相に相当)は国際的な状況に急速な変化が起きていると認めた上で、こう強調した。
日本時間1日未明に行われた米ウクライナ首脳会談が物別れに終わったことで、台湾の一部では「中国の侵攻時に米国は台湾を助けないのではないか」との疑念が浮上。顧氏はこれを打ち消そうとした形だ。
米歴代政権は「一つの中国」政策の下、台湾関係法に基づく武器売却などを通じて台湾の安全保障に関与してきた。ただ、ウクライナに対する軍事支援を一時停止するなどの米国の動きから、今後も米国がこれまでのような台湾政策を維持するのか、台湾には一定の警戒感がある。
台湾の外交当局者の一人はトランプ政権の台湾政策について「予断は禁物だ。動向を見極めながら、台湾のできることをするしかない」と話した。
米国が対ウクライナ支援に否定的になることで、頼政権が懸念するのが台湾社会の中に米国への不信感が広がることだ。
トランプ氏が勝利した2024年11月の大統領選直後に行われた民間団体「台湾民意基金会」の世論調査で、中国の武力侵攻時に米国が軍を派遣して台湾に協力することを「信じない」と答えた人は57%と20年9月の調査開始以来最多だった。
こうした「疑米論」は数年前から台湾の一部にくすぶってきた。米台の首脳が連携を繰り返し訴えたことなどで勢いを失ったと指摘されていたが、トランプ氏の再登場で再び不透明感が増している。
台湾の安全保障研究者は、中国当局やその支援を受けた台湾人によって疑米論をあおる情報をインターネット上で拡散されることが多いとした上で、中国に親和的な論調の台湾メディアで「今日のウクライナは明日の台湾」といった表現が目立ち始めたと指摘。「台湾社会に分断が生まれれば、中国は軍事侵攻をせずとも、理想に近い政治状況をつくることができる」と警鐘を鳴らす。
トランプ政権が求める台湾防衛のコストの肩代わりも、頼政権にとって大きな課題だ。
米国防総省ナンバー3の国防次官(政策担当)に指名されたエルブリッジ・コルビー氏は4日、人事承認に向けた上院軍事委員会の公聴会で、台湾が防衛費を域内総生産(GDP)比10%に引き上げるべきだと主張した。
近年の防衛費のGDF比率は2~2・5%。頼政権は米製兵器の購入や兵器の自主開発などを進めてこれを3%以上にする目標を掲げているが、10%は現在の予算総額に近づく額だ。
予算を審議する立法院(国会に相当)では、過半数を握る最大野党・国民党と第2野党・台湾民衆党が主導権を握る。頼政権は過去最多額の防衛費を含む25年度予算案を提出していたが、野党の反対で軍備品購入の一部が削減されたり、無人機開発拠点関連費の3割が実質凍結されたりした内容に修正され、1月に成立した。
与野党の支持者の間では対立する政党の立法委員(国会議員に相当)のリコールを求める動きが広がるなど、妥結は見通せない状況だ。【台北・林哲平】