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「天国は遠すぎて、中国は近すぎる」:新型肺炎蔓延下の中台関係(2)【中国問題グローバル研究所】


【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、台湾国防安全研究院非伝統的安全および軍事任務研究所の王 尊彦氏の考察『「天国は遠すぎて、中国は近すぎる」:新型肺炎蔓延下の中台関係(1)【中国問題グローバル研究所】』の続きとなる。

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三、中国は「一つの中国」のレンズを通して台湾を見る:「以疫謀独」
新型肺炎の世界的な蔓延のなか、台湾が国際社会において理不尽な処遇を受けているのは、前述の通りである。実際、中台関係に絡んだ防疫政策において、台湾はなおさら困難を免れることができなかった。

台湾政府は、中国にいる台湾人を帰国させる作戦にあたり、北京当局の「一つの中国」原則の下で、他国の事例に類を見ない困難を経験している。例えば、日本政府が中国にいる日本人を救出するため、全日空の旅客機をチャーターできるのに対して、北京当局は、台湾政府が台湾のフラッグ・キャリアたる中華航空(China Airlines)のチャーター便の使用を許さなかった。香港政府でさえ香港人の救出に国泰航空(Cathay Pacific Airways)のチャーター機が使えたにもかかわらず、である。

それは、中国政府は、中華航空による台湾人帰国を「国際事務」扱いと見なされることを警戒し、中国にとって台湾人の撤去が「一つの中国」原則下の「国内事務」でなければならない、と考えるからである。そのせいで、最終的に台湾政府が譲歩して中国の「東方航空」を使わざるを得ない運びとなった。

なお、台湾のWHO加盟要請や中華航空便の派遣などは、言うまでもなく、中国政府にとって決して快しとしない。現に中国国務院台湾事務弁公室は、台湾が新型肺炎の蔓延を機に国際空間の拡大を目論んでいると考え、それを「以疫謀独」(「疫病対応を口実に台湾独立を企てる」)の行為と非難している。[1]
ちなみに、2月9-10日、中国政府がH6爆撃機とJ11戦闘機を台湾を周回飛行させ、10日に台湾海峡の中間線を越えた。それは、おそらく頼清徳・次期台湾副総統の訪米(2月2-9日)を狙った行動だろうが、上述の「以疫謀独」に対する抑止も目的とも思える。

四、台湾の防疫成果と国内的・国際的評価
邦人救出のような、場合によって妥協・譲歩も必要な両岸間の協商事案とは対照的に、台湾国内の防疫は、蔡英文政府が強いイニシアティブを発揮している。新型肺炎が爆発して以来、危機感に駆られた蔡政府は、「早期配置」(中国語で「超前部署」)の方針を決め、WHOの情報発表を待たずに肺炎の流行を自ら見極めて、迅速かつ早めな対応を取ってきた。例えば、中国人の入国を拒否・制限し、医療用マスクの売買管理にあたって、輸出禁止や徴用や実名制での購入など次々と手を打って、マスク不足の混乱を避けた。そして、2月25日に、立法院(国会に相当)が新型肺炎の感染拡大防止や経済振興に関する特別条例を通過し、同日総統府で公布した。[2]

台湾政府による肺炎対応の効率の速さ・良さは、国内だけでなく国際社会からも称賛を博した。韓国の『週刊朝鮮』は、「中国を封じ込もう—台湾に鑑みて」をタイトルに、韓国より1か月も早かったマスク輸出禁止令や、中国からの入国の禁止などの、台湾の防疫政策を紹介して称賛し、「指揮官の能力が、台湾と韓国の差をつけた」、と結論を出した。[3]また、日本のオンライン・メディア「AERAdot.」の報道によると、台湾が1月15日という早い段階で新型肺炎を法定伝染病と指定し(日本政府が「指定伝染病」と決めたのは1月28日)、台湾が2月の初頭に小中高校の休校延長を発表した(日本政府の発表は2月27日)ことなどを指摘し、いずれも日本より防疫の先手を打っており、「日本は、感染症の流行対策について台湾に学ばなければならない」とたたえた。[4]

蔡英文政権の防疫工作は、台湾社会から大いに賛成・支持されており、それも支持率にはっきりと反映されている。(民進党寄りと見なされる)台湾民意基金会の2月17、18日に行った調査によると、94%が政府の中央感染症指揮センターのパフォーマンスが「及第点がつけられる」と考え、その中で80点以上をつける人は75%もいる。また、支持率は民進党が41.4%となり、国民党の12.5%を遥かに超えた。[5](国民党寄りと見なされる)「TVBS」テレビ局による調査(2月下旬)では、82%が蔡英文政権の防疫政策を支持する、という結果を出した。[6]

それに、民進党政府の支持率が上昇したほか、台湾社会は、台湾人としてのアイデンティティも強化した。世論調査では、自分が「台湾人だ」と考える台湾市民は85%に上る。また、「台湾が国際会議に参加するにあたって、どの呼称がいいか」という設問に対して、「台湾」と答えたのが46.7%で、「中華民国」の17.4%を超えた。[7]新型肺炎は、台湾全国を新型肺炎キャンペーンの旗の下に集結させている(rallying under the flag of “Fighting COVID-19” )、といえよう。中国軍機による台湾周回飛行は、明らかに逆効果を生じた。それは、どんどん台湾社会を、独立志向の民進党政府に回すことになった。

五、結語
新型肺炎は、ますます世界中に猛威を振るっており、まだまだ収束の日を見ないでいるようである。台湾の患者数が、国際的にはまだ多くはないが、増えつつあるのも実情である。きたる清明節(4月4日)あたりに現れうる在中国台湾人の帰省ラッシュが、大きな挑戦となろう。

また、新型肺炎が日本や韓国といった隣国で急速な蔓延するなか、台湾は、国内防疫と国際関係を総合的に考えれば、どう対応すべきか。目下、国内防疫のためには水際対策が必要であるが、今後、自国需要が満たされた場合、マスクなどの防疫物資の寄贈は、台湾の国際関係のためになろう。蔡英文政府は、どのような形で国際社会へ貢献できるかを、そろそろ検討していい。

新型肺炎によって、蔡英文政府に「因禍得福」(災いが幸いの原因となる)という側面もあるかもしれない。国際面では、国際社会は「台湾は中国と別の国だ」という事実を認知させられた。

台湾、韓国、日本は、いずれも地理的に中国に近い隣国であるため、国際政治だけでなく、感染症なども含めて、中国からの影響を免れない。日本・韓国・中国の間に保健大臣会合が行われているにもかかわらず、中国発の新型肺炎は国境を知らないのである。恐らく、いま中国の隣国たちは、「天国は遠すぎ、中国は近すぎる」というベトナムの名言の意義に、強く同感しているところではないか。

写真:ロイター/アフロ
※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/

[1] 「台灣參與世衛 國台弁:以疫謀獨絶不會得逞」、『中央社』、2020年2月6日、https://www.cna.com.tw/news/acn/202002060167.aspx。
[2] 「《武漢肺炎》蔡英文公開簽署特別條例 展現朝野一致抗疫決心」、『自由時報』、2020年2月25日、https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/3079623。
[3] 「武漢肺炎/韓媒以蔡總統為封面 讚陳時中能力造就台韓不同」、『中央社』、2020年3月4日、https://www.cna.com.tw/news/firstnews/202003040422.aspx。
[4] 西岡千史、「新型コロナ“神対応”連発で支持率爆上げの台湾 IQ180の38歳天才大臣の対策に世界が注目」、AERAdot、2020年2月29日、https://dot.asahi.com/dot/2020022800078.html?page=1。
[5] 呂伊萱、「民進黨支持度創新高41.1% 國民黨跌至12.5%比2016還慘」、『自由時報』、2020年2月24日、https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/3078042。
[6] 李鼎強 藍于洺、「TVBS民調!政府防疫滿意度達82% 提升11%」,TVBS,2020年2月27日,https://news.tvbs.com.tw/life/1283673。
[7] 林朝億、「民調:武漢肺炎重創 國民黨支持度崩盤僅12.5%」、『新頭殻』、2020年2月24日、https://newtalk.tw/news/view/2020-02-24/371439。



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