『一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか? (Business Life)』
(クロスメディア・パブリッシング)
「一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか?」(著:渡辺鮮彦)より
「仕事のできる人たち、特に優秀なビジネスパーソンの誰もが気にかけている共通のアイテムが一つあります。それこそが、足元、つまりは「靴」なのです」という渡辺鮮彦氏。第一印象を左右する靴に、あなたは何を選びますか?
スーツに合わせる革靴は、一般的に「ドレスシューズ」と呼ばれます。対極にあるのは、スニーカーなどのいわゆるスポーツ・カジュアルシューズです。そのスタイルは様々で、細かく見ていくときりがないものの、大まかには次の5つ「レースアップ」「ストラップ」「エラスティック」「スリッポン」、そして「ブーツ」に分けて考えることができます。
今回はシューズの種類について詳しく紹介していきます。
履き口の前にある鳩目に靴紐を通し、その結び解きによりフィット感の微調整を行う靴で、くるぶしが露出するもの、つまりブーツではないものです。ビジネスシューズと聞いて多くの人が思い浮かべるのがこのスタイルの靴ではないでしょうか。これはさらに「内羽根式」と「外羽根式」に大別されます。端的に言うと、次のような違いがあります。
・内羽根式羽根の下端が甲の下に潜り、半開きしかできないもの
・外羽根式鳩目のある革(羽根)が甲の上に乗り、全開きできるもの
内羽根式はイギリスの王室がルーツ。ヴィクトリア女王の夫君・アルバート公が1853年に考案したミドルブーツが起源だと言われています。彼が好んで過ごしたスコットランドの御用邸にちなんで、英米では「バルモラル」と呼ばれます。また、この構造で装飾のあまりないシンプルなものをイギリスでは「オックスフォード」とさらに呼び分けます。
構造上、羽根の開閉に制限がありフィット感にはやや劣るものの、見た目はよりスッキリと、清楚にまとまります。フォーマル度の高い靴に多いスタイルです。
一方、外羽根式の起源は軍靴です。1815年に起きたワーテルローの戦いで、プロシアの陸軍元帥が作らせた戦闘用ブーツが始まりだとされています。アメリカでは考案者の苗字を英語読みした「ブラッチャー」、イギリスなどヨーロッパ諸国では羽の形状が競馬のゲートに似ていることから「ダービー」などと呼ばれます。
羽根が全開するので着脱が容易で、フィット感にも優れます。そのため、スポーティな用途の靴に多く見られます。外回りの多い人、1日中歩き回る必要のあるときなどは、微調整が簡単な外羽根式を選んだ方が疲れにくく、活動的な場にも向いています。
内羽根式はフォーマルで品が良い、外羽根式はカジュアルで活動的……。それぞれの起源が、主な用途と印象にそのままリンクしているのは面白いところです。いずれにせよ、レースアップ・シューズは、微調整が容易でかつそのレンジが広く、また「靴紐の交換」という、素人でも可能なメンテナンスによって機能が半永久的に保障されるためか、今日の紳士靴を代表するものとなりました。ビジネスシーンでは、この種の靴を履いていれば、まず間違いありません。
履き口の前や脇にあるベルト状のバックルとストラップの開閉により、フィット感の微調整を行う靴です。代表的なのが「モンクストラップ」。ヨーロッパのアルプス地方にいた修道士が履いていたサンダルが原型で、彼らを意味する英語からこう呼ばれるそうです。
レースアップの靴に比べフォーマルな印象は弱まりますが、2対のバックルとストラップで足を固定する「ダブルモンクストラップ」のように、デザインによっては華やいだ雰囲気を醸し出せる構造となっています。そのためでしょうか、何年かに一度の割合で、定期的に大きな流行が訪れる傾向があります。
ちなみにダブルモンクストラップを最初に考案したのは、イギリスのオーダー靴専門店「ジョンロブ」と言われ、かのウィンザー公によるリクエストとされています。ただし、既製靴で広く知られるようになったのは1990年代以降です。フランス革命前後頃までは、ヨーロッパではバックル付きの靴が礼装用として履かれていた時代もあるようですが、今はカジュアルとみなされることの方が多いように思います。
イメージとしては、「レースアップ・シューズとスリッポンの間」といったところでしょうか。物によっては暗めのスーツに合わせてもなんら問題なく履きこなせるストラップシューズもあるので、ある程度ビジネスシューズに慣れ親しんだ方なら一足手に入れてみるのもいいでしょう。バックルの色や大きさ、それに形や付く場所次第で見た目の印象が大きく変化するのも、このスタイルの特徴であり、面白みではないかと思います。
伸縮性のあるゴムを織り込んだ生地「エラスティック」、つまり蛇腹状のゴム布を、履き口の前か脇に縫い付けた構造のものです。起源は1830年代のイギリスで生まれた「サイドゴアブーツ」だとされています。
何せゴムですので、特におろしたての頃は甲やくるぶしの周りをパシッと押さえてくれて、それでいて脱ぎ履きがしやすいという特徴があります。使い込んでいくうちにエラスティック部分が伸び切り、履き心地が落ちてしまうことがありますが、たいていの場合、ここは修理で交換が可能です。
これらの靴は、「センターエラスティック・シューズ」と「サイドエラスティック・シューズ」の2種類に大別されます。前者は甲の最上部にエラスティックを配し、それをアッパーの革で覆ってしまうため、ゴム生地が外から見えません。隠れている分、エラスティック部分の面積を広くとれるので、履き心地は抜群。特に甲が高い人にとっては快適に履けるスタイルの靴です。エラスティックを隠すアッパー部分に装飾を施すこともあり、全体としてはやや活動的な印象になります。
一方、後者のサイドエラスティックは、くるぶしの脇周りにゴム布をつけます。基本的には内くるぶし側・外くるぶし側の両サイドにこれをつけますが、どちらか片方だけという場合も稀にあります。こちらは構造上、どうしてもゴム生地が露出してしまいますが、それがレースアップ・シューズの羽根のようにも見えるため、品のある凜とした印象をもたせることができます。
玄関での脱ぎ履きが簡単で、かつては日本人男性に多いとされていた「甲高幅広」の足にもフィットしやすく、靴の変形も少ない。エラスティックシューズは、靴は脱ぐものとする文化をもつ我が国においては、確かに便利な一足なのかもしれません。
シューレースやバックル・ストラップのような履き口を締め上げるパーツが存在しない、靴の形状のみで足を固定するスタイル。英語で「slip-on」と言うとおり「足を滑り込ませる」だけで履けるので、脱ぎ履きがとても楽です。靴をつくる立場の人に言わせると、この種の靴はアッパーの形状だけで履き心地が決まってしまうので、設計は他の種類の靴とはまた違った難しさを極め、かなり気を遣うのだそうです。合う・合わないの感覚差が他の靴よりも出やすく、サイジングが少々難しいところもありますが、だからこそ「履き心地が良い!」と確信できるこの種の靴を見つけられたら、それはとても幸運なことなのでしょう。
スリッポンと聞くと、なかにはバンズなどのキャンバススニーカーを思い浮かべる人がいるかもしれませんが、ドレスシューズにおけるこのスタイルの代表格は「ローファー」です。
アッパーの甲周りがU字の蓋状に縫い付けられ、その上から飾り帯状の革「サドル」が水平に縫い付けられている、というのが特徴でしょう。なかでもシンプルかつオーソドックスなのが、サドルの中央部に切れ込みを入れた「コインローファー」。別名「ペニーローファー」とも呼ばれるこの靴は、1950年代のアメリカ、特に東海岸の大学生の間で、その窪みに1セント硬貨(ペニー)を入れて履くのが大流行したのが名前の由来と言われています。
そして、もう一つの有名どころが「タッセルスリッポン」。アメリカの靴メーカー「オールデン」が1948年に創ったスタイルで、同国の紳士服ブランド「ブルックス・ブラザーズ」が採用したことから広まりました。
今日では、カジュアルな雰囲気を出したいときに用いられることが多いように思います。クールビズ以降の日本のビジネスマンの足元に、この種の靴が多くなったのも当然かもしれません。ただしスーツに合わせるときは、例えばダーク系のスムースレザーを選んで、カジュアルになりすぎないよう気をつけたいところ。足元が気楽な分、全体として清潔感を大事にした装いを心がけましょう。
「ブーツ」とは、くるぶしを隠せる長靴の総称で、これまで1~4で挙げてきた一般的なシューズ「短靴」とは丈で区分されます。また、1のレースアップ・シューズは「チャッカブーツ」に、2のストラップ・シューズは「ジョッパーブーツ」に、3のエラスティック・シューズは「サイドゴアブーツ」へと、名称や形がそれぞれ変化していると考えると、わかりやすいと思います。
足首部分にある2~3対の鳩目に紐を通して履くチャッカブーツは、 世紀にポロ競技で使われていたブーツが起源とされています。この競技の1ラウンドを「チャッカー」と言うことから、この名がつきました。ダークスーツに合わせることこそ少ないものの、履く場所や合わせる服をあまり選ばない靴です。
ジョッパーブーツは足首部分に紐ではなくストラップとバックルを採用したもので、 世紀末に乗馬用長ズボン「ジョッパーズ」に合わせるブーツとして作られたのが始まりです。
サイドゴアブーツは足の外側・内側双方のくるぶし周りにゴアが施されたブーツのこと。脱ぎ履きが楽でフィット感も抜群、そして合わせる服も選ばないという、3拍子揃った一足と言えるでしょう。
ブーツは、今でこそ確かにカジュアルな印象の強い靴です。しかし、都市であっても舗装などがまだ広範囲には行われておらず、路面の安定性に難のあった 世紀初めまでは、紳士靴の本流は実はこちらでした。国がどこであれ、今日の有名な紳士靴メーカーは、ブーツがまだ主流だった頃に創業しているところがほとんどです。
ドレスシューズの中のシューズ(短靴)とブーツ(長靴)。さらに調整の仕方で細分化されていく様々なスタイル。単に「紳士靴」と言えどそこには多様なスタイルがあるのだということを、ちょっとだけ知っておいてください。
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