ウェザーマップ所属の気象予報士が、ビジネスや生活に役立つ気象情報をお届けします。第1回は、柔道修復師・健康気象アドバイザーの資格も持つ井坂綾氏が担当。「寒さによる腰痛への対処法」と、「天気予報から腰痛を予測する方法」について解説します。
一年で最も寒さが厳しいこの時季。天気の影響による体調不良に悩まされている方も多いのではないでしょうか?
東洋医学では、環境の変化が人の体にダメージを与えることを「六淫(りくいん)」と言います。風は「風邪(ふうじゃ)」、寒さは「寒邪(かんじゃ)」などと呼ばれ、古くから「体に影響するので、気をつけるべきもの」として考えられてきました。
寒くなると腰が痛む人は多い
冬の体調不良の中でもよく聞くのが「腰痛」です。接骨院で勤務していた頃、「寒くなると腰に痛みが…」と来院される患者さんが多かったのを覚えています。
厚生労働省の「H28年国民生活基礎調査」では、病気やケガなど自覚症状のある方のうち、腰痛は日本人男性の有訴者率第一位。
「腰痛診察ガイドライン2012」の職業別調査では、運輸・清掃・看護・介護関係の方に多く、重労働が腰痛を発症させる危険因子となっています。また、長時間同じ姿勢で作業をするデスクワーカーや、革靴を履いて外回りをする営業さんなど、腰に不調を抱えているビジネスパーソンは多いようです。
そんな中、寒くなることでさらに症状が悪化してしまう患者さんも多いかもしれません。
寒さによる腰痛への対処法
一説によると、寒さで筋肉がこわばり、血行が悪くなることで腰痛が起こりやすくなると考えられています。
よって、冷えてこわばった筋肉をしっかり温めて血流をよくすることで、腰痛の緩和が期待できます。
日中はカイロ、夜はお風呂に浸かって筋肉を温め、筋肉内の血流量を増やしてあげるのがよいでしょう。
(ただしカイロは低温やけどのおそれがありますので、使用の際はご注意ください。)
腰痛の対処ストレッチ
さらに、ストレッチなどで筋肉を動かし、ほぐしてあげることも有効です。ただし、冷えた筋肉を無理に動かすとダメージを与えてしまいます。温めて柔らかくしたあとに動かしてあげるようにしましょう。
ストレッチのポイントは、「腸腰筋(ちょうようきん)」と呼ばれる筋肉を動かすこと。腸腰筋は股関節を曲げるときに働く筋肉で、日常生活では坂や階段を上る際に使われます。
腸腰筋は、「腸骨筋(ちょうこつきん)」と「大腰筋(だいようきん)」の2つで成り立っています。
さて、あなたの腰の痛みは、腰骨より上(背中に近い)・下(お尻に近い)のどちらですか?
【ストレッチ1】腰痛が腰骨より上の場合
腰骨より上の場合は、体の背面をストレッチしてみましょう。
立った状態でゆっくり背伸びをします。このとき、手の指を組んで手のひらを天井に向けると効果的です。
肩に痛みがある方は両腕を天井方向へ伸ばすだけで良いですし、両手をおろしたまま、頭が天井へ引っ張られるイメージをするだけでも十分です。
余裕のある方は片足を一歩前へ出し、上半身を左右に曲げていきます。反対側も同様に。
ポイントは、背中が気持ち良いなと思うくらいの強さでやることです。
【ストレッチ2】腰痛が腰骨より下の場合
腰骨より下に痛みがある方は、股関節の可動域が狭く、仙腸関節の動きが悪いことが多いです。
股関節や仙腸関節の動きを良くするにはプロの熟練した業が必要ですが、ここではご自宅でも簡単にできるストレッチをご紹介します。
椅子に座り、右足首を左の太ももに乗せ、右肘で右膝の内側を下方向へゆっくり押してみましょう。右側のお尻や股関節が伸びているのを感じながらやるのがポイントです。呼吸をするのも忘れずに。反対側も同様にやってみましょう。
肘が膝に届かない方は、手で膝の内側を下方向へ押すだけでも十分です。
足首を腿の上に乗せることができない方は、座った状態で腿の付け根を親指で軽く圧迫、またはお尻をトントンと叩いてほぐしてあげるだけでも良いでしょう。
どちらのストレッチも決して無理をしないこと。できる範囲で「イタ気持ちいい!」と思うくらいで行ってください。
「冬型の気圧配置」「冬将軍の到来」は特に腰痛に注意!
最後に、どんな天気のときに特に腰痛に気をつけたらよいかお伝えします。天気予報を見て「あっ!」と思ったら、カイロを持ち歩く、体をよく動かすなどして、対策してみてくださいね。
【腰痛注意報その1】冬型の気圧配置
冬に現れやすい気圧配置と言えば「西高東低」(=「冬型」)。その名のとおり、日本列島の西に高気圧、東に低気圧がある気圧配置です。むかし学校の授業で教わったことがあるかもしれませんね。
西の高気圧は「シベリア高気圧」と呼ばれ、広大な大陸が猛烈に冷やされてできる、寒気の塊のような高気圧です。
大陸の冷たい空気が北風とともに日本列島に吹き込んでくるわけですから、想像しただけでも寒さがイメージできるかと思います。
冬型のときは、日本海側で雪が降り、太平洋側では晴れやすいものの冷たい北風が吹くため、気温以上に寒く感じられることが多くなります。
そのため、体が冷え、腰痛も起こりやすくなると考えられますので、「冬型」のときは特に念入りに寒さ対策やストレッチをして、腰痛を予防しましょう。
冬型には「山雪型」と「里雪型」があり、天気図を見れば専門的な知識がなくてもなんとなくわかります。
山雪型は、等圧線がほぼ南北に走り、縦じま模様になっているのが特徴。日本海側の山間部で大雪になりやすいだけでなく、風も強まるので、太平洋側でも肌を刺すような冷たい北風が吹きつけます。
里雪型は、日本海で等圧線が袋状に膨んでいます。膨らみ部分には上空に寒気を伴った低気圧=「寒冷渦(かんれいうず)」があります。この寒冷渦の影響で、日本海側の平野部では雪が降りやすくなります。寒冷渦は動きが遅いために雪の降りやすい状態が続き、局地的に大雪になることがあります。
【腰痛注意報その2】冬将軍の到来!
また、「冬将軍の到来(寒気の強さ)」も腰痛注意報です。
日本海側の降雪に関係するだけでなく、晴れる太平洋側でも日中は気温が上がらず、朝晩の冷え込みも厳しくなるからです。
寒気の強さは日々の天気予報で教えてくれます。
お天気に興味のある方は、気象衛星で日本海にある寒気に伴う雲をみてみましょう。全国的に寒くなるときは九州の西にも雲がみられます。
天気予報を活用して腰痛予防!
以上、「寒さによる腰痛への対処法」と、「天気から腰痛を予測する方法」についてお伝えしました。
腰痛の原因はさまざまですが、天気の変化が影響することもあります。適度な栄養・睡眠・運動に加え、天気予報も上手に活用して腰痛を予防し、寒さに負けない健康な体を作っていきましょう!
※腰痛には大きな病気が潜んでいることもあります。痛みが強い場合や長期間続く場合には、専門医への受診をお勧めします。
気象予報士・柔道整復師・健康気象アドバイザー FMラジオパーソナリティとして活動しながら2003年気象予報士を取得。気象予報士講座クリアの講師、お天気キャスターのサポートや天気予報原稿などの業務をつとめたのち、2015年から約2年半福岡放送で天気予報を担当する。また気象予報士になってから体調が良くなったことをきっかけに健康に興味を持ち、2014年柔道整復師を取得。気象と健康の関係について独自で調査している。