図1 (A,B)マイクロ粒子とナノ粒子の比較((A)製剤の外観画像、(B)電子顕微鏡画像)、(C)ミノキシジルナノ粒子の粒度分布 出展:Biol. Pharm. Bull., 47(12), 2024.(一部改変)
図2 組織内または血中におけるミノキシジル濃度の評価 N=6-7、*p < 0.05 vs マイクロ粒子、#p < 0.05 vs ローション剤 出展:Biol. Pharm. Bull., 47(12), 2024.(一部改変)
図3:マウスを用いた発毛試験結果 (A)塗布開始後12日目のマウス背部の写真、(B)マウス背部における発毛した面積の経時的変化 N=6-7、*p < 0.05 vs ミノキシジルなし、#p < 0.05 vs マイクロ粒子、$p < 0.05 vsローション剤 出展:Biol. Pharm. Bull., 47(12), 2024.(一部改変)
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大正製薬株式会社[本社:東京都豊島区 社長:上原茂](以下、「大正製薬」)と、近畿大学薬学部医療薬学科製剤学研究室教授 長井紀章は、共同研究を実施し、発毛成分であるミノキシジルをナノ粒子化する技術を開発しました。マウスを用いた実験により、ナノ粒子化されたミノキシジルが毛包へと効率的に送達され、発毛に関わる細胞が活性化し、発毛効果を早める可能性が示唆されました。なお、本研究の一部はBiological and Pharmaceutical Bulletinに掲載されました。
【研究背景】
ミノキシジルは、発毛効果が認められた有効成分として壮年性脱毛症における発毛等を目的に国内外で広く用いられています。その治療効果を最大限に引き出すためには、作用部位と考えられる毛包へミノキシジルを効率的に届ける必要があります。
大正製薬と近畿大学長井教授の研究室は、これまで湿式粉砕法※1 を用いてミノキシジルをナノ粒子化する技術を共同で開発し、国内最大濃度となる5%のミノキシジルを配合したナノ粒子製剤の製造に取り組んできました。先行研究※2 では、ナノ粒子化されたミノキシジルが、作用部位と考えられている毛包への送達性を高め、発毛効果が早まることを確認しました。今回、医薬品の添加物として汎用されるアラビアガム※3 を新たに用いたミノキシジルのナノ粒子化技術を開発し、この技術を用いて製造したナノ粒子化ミノキシジル製剤(以下、「本ナノ製剤」)について、安定性・薬物送達性の向上、および発毛効果と毛包細胞への影響を詳細に検討しました。
【研究成果】
①安定性・薬物送達性が改良されたナノ粒子化製剤の開発に成功
②ナノ粒子化ミノキシジル製剤は毛乳頭細胞や毛包幹細胞を効率的に活性化させ、発毛効果を高めることを確認
<研究成果①>
安定性・薬物送達性が改良されたナノ粒子製剤の開発に成功
大正製薬と近畿大学長井教授の研究室はこれまでに、ミノキシジルを直径約100nm(1nm(ナノメートル)は100万分の1mm)の大きさまで微細化(ナノ粒子化)することによって、ミノキシジルの毛包への移行が促進され、発毛効果が早期に発現することを明らかにしてきました。今回、食品添加物や医薬品添加物として広く用いられている「アラビアガム」を新たに配合してナノ粒子化することによって、ミノキシジルをナノ粒子化するための粉砕効率や製剤の品質(分散安定性など)を維持しつつ、製剤の粘度を約30分の1まで低減させることに成功し、外用剤としての使用感を改良できる可能性を見出しました。
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図1 (A,B)マイクロ粒子とナノ粒子の比較((A)製剤の外観画像、(B)電子顕微鏡画像)、(C)ミノキシジルナノ粒子の粒度分布 出展:Biol. Pharm. Bull., 47(12), 2024.(一部改変)
さらに、作用部位である毛包へとミノキシジルを効率的に届けることができているかどうかを確かめるために、マウス背部皮膚を用いた薬物濃度評価試験を実施しました。その結果、従来のローション剤と比較して、本ナノ製剤では皮膚中・毛包上部(バルジ領域※4 付近)・毛包下部(毛球部※5 付近)のミノキシジル濃度が増加したことから、本ナノ製剤によって作用部位への薬物送達性が向上することを確認しました(図2)。皮膚に塗布された薬物が体内に吸収される経路には、肌のバリア機能を担う角質層を介する「角質層ルート」と毛包や汗腺などを介した「附属器官ルート」があります。薬物が分子レベルで溶解しているローション剤は、普通「角質層ルート」で吸収されますが、約100nmの大きさのナノ粒子や数μmの大きさのマイクロ粒子は角質層を通過することができません。一方、ナノ粒子は毛穴に侵入できる大きさのため、「附属器官ルート」の一つである毛包を介して吸収されている可能性があります。これらの吸収ルートの違いが、作用部位への薬物送達性の違いとして表れたと推察されます。
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図2 組織内または血中におけるミノキシジル濃度の評価 N=6-7、*p <0.05 vs マイクロ粒子、#p <0.05 vs ローション剤 出展:Biol. Pharm. Bull., 47(12), 2024.(一部改変)
<研究成果②>
ナノ粒子化ミノキシジル製剤は毛乳頭細胞や毛包幹細胞を効率的に活性化させ、発毛効果を高めることを確認
今回開発した本ナノ製剤による発毛効果を、マウスを用いて評価しました。その結果、本ナノ製剤は従来のローション剤と比較して、より早期かつ顕著な発毛促進効果をもたらすことが確認されました(図3)。
また、毛包組織における細胞増殖や分化に関連する指標となるタンパク質の遺伝子発現量およびタンパク質産生量について解析を行った結果、本ナノ製剤を使用した群では、毛包幹細胞や毛乳頭細胞の活性化指標として用いられるCD34およびCD200の発現レベルがそれぞれ上昇していることを確認しました(図4)。この結果から、作用部位のミノキシジル濃度を高めることで毛包幹細胞や毛乳頭細胞が活性化されたことによって、発毛が早まった可能性が示唆されました。
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図3:マウスを用いた発毛試験結果 (A)塗布開始後12日目のマウス背部の写真、(B)マウス背部における発毛した面積の経時的変化 N=6-7、*p <0.05 vs ミノキシジルなし、#p <0.05 vs マイクロ粒子、$p <0.05 vsローション剤 出展:Biol. Pharm. Bull., 47(12), 2024.(一部改変)
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図4 (A、B)遺伝子発現量および(C、D)タンパク質産生量の評価 N=8-13、*p <0.05 vsミノキシジルなし,#p <0.05 vsマイクロ粒子、$p <0.05 vsローション剤 出展:Biol. Pharm. Bull., 47(12), 2024.(一部改変)
以上の結果より、ミノキシジルをナノ粒子化することによって毛包への効率的な送達が可能となり、毛包幹細胞等を活性化させることで発毛効果を早める可能性があることを確認しました。
大正製薬は毛髪に関わる様々な課題を解決するため、「"生える"を科学する大正製薬のヘアケア研究」のもと、毛髪科学に関わる研究活動を継続し、生活者のより豊かな暮らしの実現に貢献してまいります。
出展:Y. Oaku, S. Shiroyama, H. Otake, Y. Yajima, A. Abe, N. Yamamoto, and N. Nagai, "Gum Arabic Enhances Hair Follicle-Targeting Drug Delivery of Minoxidil Nanocrystal Dispersions.", Biol. Pharm. Bull., 47(12):2083-2091, 2024.
DOI:https://doi.org/10.1248/bpb.b24-00697
※1 湿式粉砕法:粉体を水や液体中で破砕することで微細化させるナノ粒子の製造法の一種。破砕時に水を用いない乾式粉砕法と比較して、適切な添加剤を選択することによって粒子の再付着や凝集を防ぎ、均一且つ微小な粒子を得ることができる。研究用途だけでなく医薬品・食品・化粧品など様々な製品の製造現場でも採用されている。
※2 Y. Oaku, et al., "Minoxidil Nanoparticles Targeting Hair Follicles Enhance Hair Growth in C57BL/6 Mice.", Pharmaceutics, 14(5): 947, 2022.
DOI:10.3390/pharmaceutics14050947
※3 アラビアガム:樹木から採取される天然の多糖類の一種。増粘安定剤や乳化剤としてアイスクリームや飲料などの食品添加物として使用されるほか、医薬品添加物としても広く用いられている化合物。
※4 バルジ領域:皮膚中の毛包上部に存在する毛包内の器官であり、毛髪のもとになる毛包幹細胞が集まっている領域。
※5 毛球部:毛包の下端にある球状に膨らんだ部分。毛を作り出す司令塔とされ様々な発毛因子を分泌する毛乳頭細胞が存在している領域。
【関連リンク】
薬学部 医療薬学科 教授 長井紀章(ナガイノリアキ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/427-nagai-noriaki.html
薬学部
https://www.kindai.ac.jp/pharmacy/