早稲田大学 高橋利枝教授
【早稲田大学 高橋利枝教授】
2020年、世界は一転しました。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックによって、10年かかると言われていたDX(デジタル・トランスフォーメーション)やAI化に拍車がかかり、社会のパラダイムシフトが起きつつあります。2020年12月にIEEEが実施したアンケート調査によると、最も注目されたテクノロジーは「AI技術」です。さらに「AI技術」は、2021年以降、成長が最も期待されているテクノロジーの一つとしてあげられています。それでは、AI技術の発展によって、2050年、私たちはどのような社会を創ることができるのでしょうか?
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早稲田大学 高橋利枝教授
私は現在、IEEE会長の福田敏夫教授をPD(プロジェクト・ディレクター)とした「ムーンショット型研究開発事業」に参加しています。ムーンショット目標3では、「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボット」の実現を目指しています。PM(プロジェクト・マネージャー)の早稲田大学理工学術院の菅野重樹教授の元、尾形哲也教授、村垣善浩教授と共にサブ・プロジェクト・マネージャーとして、「一人に一台一生寄り添うスマートロボットAIREC(AI-driven Robot for Embrace and Care)」の開発に携わっています。
AIとロボットの共進化によって、2050年AI社会では、子どもの見守りから、学習、家事、仕事、健康管理、介護、看護、医療に至るまで、一人一人に合わせたサポートをしてくれるスマートロボットが、私たちの生活をより豊かなものへと導いてくれることでしょう。
しかしながら一方で、このようなAI社会の実現には、倫理的・法的・社会的な課題(ELSI)が数多く存在しています。また、日本と西欧では、AIやロボットに対する意識や受容が大きく異なっています。英国議会の人工知能委員会の委員長であり、自由民主党上院答弁担当者であるクレメント・ジョンズ卿(Lord Clement Jones)は、遺伝子組み換え作物の失敗を例にあげて、いかに優れた科学技術が開発されたとしても、人々の信頼が得られなければ、社会的なインパクトを与えることは出来ないと言います。日本のAIロボット技術が国内のみならず、世界の多くの人々に受け入れられるためには、どのような要件が必要なのでしょうか?
人を幸せにするAI社会を創造するためには、AIファーストではなく、「ヒューマンファースト」なイノベーションが必要です。ムーンショットR&Dプログラムでは、私は人文社会科学の立場から、世界に通じるAI搭載型のスマートロボットの実用化方策を担当しています。
現代の若者は、Z世代(Gen Z)と呼ばれ、近年注目を浴びています。「プロジェクト GenZAI」(Z世代×AI)では、ハーバード大学、ケンブリッジ大学、スタンフォード大学とともに、欧米・アジア 8ヵ国10,000人を対象とした大規模社会ニーズ調査を行い、世界に受け入れられるスマートロボットとするためのグローバル戦略(デザイン、機能、位置づけなど)を提案します。そしてこれらの調査結果を踏まえ、「誰一人取り残さないAIロボット社会」の実現に向けて、多様性と包含、人権に配慮した、具体的なガイドラインや指標などを作成する予定です。
AIがもたらす最大のリスクは失業問題と言われています。ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)は、膨大な「無用者階級」の創出の危険性を指摘し、AI時代において「人間が取り残されないためには、一生を通して学び続け、繰り返し自分を作り変えるしかなくなるだろう」と述べています。「プロジェクト GenZAI」では、ハーバード大学やケンブリッジ大学とともに「AI社会を生きるための力(AIリテラシー)」を身につけるための教育マテリアルの開発も行っていきたいと考えています。
次世代を担う世界の若者達と一緒に『現在(Genzai)』から、2050年『未来』のAI社会を創造していきたいと思います。
■IEEEについて
IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。
詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。