
全国で唯一の特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)の壊滅作戦に福岡県警が着手してから間もなく11年となる中、同会で内部分裂を画策する動きが確認されたことが関係者への取材で判明した。最高幹部だった2人が脱会し新たな暴力団組織を設立しようとしたとして、会から2025年1月以降、永久追放に当たる「絶縁処分」を受けていた。結果的に内部分裂は実現しなかったが、画策の動きが明らかになるのは初とみられ、県警は弱体化が進む工藤会の内部統制に亀裂が入り始めた兆しとみて動向を注視している。
関係者によると、絶縁処分を受けたのは元同会会長代行の本田三秀受刑者(68)=21年4月に傷害罪で懲役6年が確定、服役中=と、元同会執行部の緒方哲徳被告(49)=金融商品取引法違反で公判中=の2人。県警が14年に始めた壊滅作戦によって幹部が次々と逮捕される中、2人は自らも逮捕される数年前まで組織の中心的な役割を担っていたとされる。
県警の壊滅作戦は「頂上作戦」と呼ばれ、14年9月に同会トップで総裁の野村悟被告(78)=殺人罪などで1審で死刑、2審で無期懲役、上告中=や、会ナンバー2の会長、田上不美夫被告(69)=殺人罪などで1、2審で無期懲役、上告中=を逮捕。その後も幹部が次々と逮捕され、少なくとも市民襲撃など17事件で39人が起訴された。
工藤会では若手組員らの離脱も相次いでいる。県外の構成員と準構成員らも含めた会の勢力は24年末時点で310人となり、頂上作戦前の13年末(950人)の3割程度にまで激減。会の威力の象徴だった本部事務所など同会系事務所計30カ所も撤去された。
組織の弱体化が止まらない中、本田受刑者は一時、会の運営を取り仕切る役目を担っていたとされ、行政処分を受けた際などには会の代表として県警側とやりとりしていたという。緒方被告は22年から理事長代行で会の序列4位だった。資金獲得に秀でていたとされ、会の運営に欠かせない存在だったという。
しかし、2人が内部分裂を画策していたとの情報を工藤会理事長ら別の最高幹部が把握。福岡拘置所に勾留されている現会長の田上被告らに伝達された。結果的に内部分裂は実現せず、画策の時期や具体的な内容も明らかにされていないが、上層部は2人について、暴力団組織の中で最も重いとされる絶縁処分は避けられないと判断した模様だ。
頂上作戦を指揮した尾上芳信・元福岡県警刑事部長(64)は「主要幹部を組織から追い出したことは、組織が弱体化して内部崩壊が始まった兆しという見方もできる。壊滅に向け、県警は手を緩めることなく、未解決事件の摘発や、組員の離脱支援など徹底した対策を続ける必要がある」と指摘する。