starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

医療的ケア児が空中芸披露 パラ振付師によるサーカスが生む感動


福井市で開催された「ムーンナイトサーカス」は、障害者や医療的ケアを必要とする子どもたちがサーカスに参加し、自由で豊かな経験を提供する試みです。生まれつき筋力が低下する脊髄性筋萎縮症を患う6歳の士恩さんも参加しました。彼が布を使って空中でパフォーマンスを見せた際、観客は彼の頑張りに大喝采を送りました。このサーカスは、固定観念を覆すことで新たな感動を生むことを目的としており、障害者が感動を与える存在に変わる瞬間に深い影響を及ぼします。サーカスの運営者、金井ケイスケさんは、障害者と健常者が一体となって新たな舞台を創り上げることを継続し、その感動をさらに広めていく考えです。この公演は盛況で、多くの障害を持つ人々に新たな挑戦の機会を提供することを目指しています。

 人工呼吸器や胃ろうなど、医療的ケアを必要とする子どもに新たな経験をしてもらい、より豊かな人生を――。

 サーカスの演者に障害者や医療的ケア児を迎えて、より深い感動を与えたい――。

 そんな二つの思いが交錯した「ムーンナイトサーカス」の福井公演がこの冬、福井市で催された。

 アクロバティックな技に挑戦するサーカスと医療的ケア児は対極にあるように思えるが、両者の相性は抜群なのだという。

すいすいと泳ぐ人魚のよう

 車椅子のギタリストが演奏を始めると、音楽に乗って、医療的ケア児の三石士恩さん(6)を包んだ布が徐々につり上げられていった。

 約5メートルの高さで止まると、回転する布の中で、士恩さんは力強く体をくねらせる。すいすいと泳ぐ人魚のようだ。

 ステージが終わると、母の真奈美さん(41)が息子を布の中から笑顔で抱き上げた。緊張から解き放たれた観客席からは、割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 「本当に頑張っているのが伝わってきて、一言感動を伝えたかった」。公演後にロビーにいた真奈美さんは、涙ぐむ女性から興奮気味に言葉を掛けられた。

 長野県佐久市で暮らす士恩さんは生後1カ月で脊髄(せきずい)性筋萎縮症という、筋力の低下を伴う進行性の病気を発症した。食べ物をのみ込む力が弱く、胃ろうや睡眠時の人工呼吸器着用などのケアを必要とする。言葉を発することはできない。

4歳の時に空中パフォに挑戦

 真奈美さんは病気が分かった時「息子は狭い世界で生きていくんだろうな」と感じた。

 それでも、親心として我が子に少しでも豊かな人生を歩ませたいと願う。そこに、ケア児と健常児の区別はない。

 士恩さんが4歳の時だった。かかりつけの診療所「ほっちのロッヂ」(同県軽井沢町)が、空中でパフォーマンスをする体験イベントを開くことを知った。真奈美さんは「本当にできるのかな」と心配しながらも、息子に挑戦させた。

 すると、士恩さんは真奈美さんも見たことがない動きを始めた。表情は「ぼく、こんなことができるよ」と言わんばかりに誇らしげだった。

 この動きに「舞台に上がれる」と直感的に確信したのが、イベントを指導していたサーカスアーティストの金井ケイスケさん(52)だ。金井さんは2021年の東京パラリンピック開会式で、振り付けの一部を担当した。

固定概念を裏切って感動を

 障害者と健常者が一体となった舞台を大会後も残そうと、この年から開会式の出演者らとムーンナイトサーカスを長野県内で開催していた。

 金井さんは「『こんなこと、できないよね』という観客の固定観念をいい意味で裏切った時に、サーカスの感動は生まれる」と話す。障害者の参加で、サーカスはより感動を増すと考えている。

 「支援される存在だと思われていた障害者が、感動を与える存在に逆転する時、プロの演者でも引き出せない感動が生まれるんです」

 演者に障害者が加わることで、演じる側にもいい影響があるという。「障害者との壁を取り除こうとすることで、全てのスタッフが一丸となり優しいチームができる」

 東京パラリンピック開会式にも参加したポールダンサーの神本エリさん(41)は、聴覚に障害がある。どうやって音楽に合わせているのか。疑問をぶつけた記者に「なんだそんなことか」と言わんばかりの表情で「音楽が、私に合わせる」とさらりと話してくれた。

盛況だった福井公演

 長野県外で初めてとなる福井公演は、1月31日と2月1日に開催された。

 23年から4回ステージに上がっていた士恩さんにとっても、長野県外での公演は初めて。両日とも、会場の約600席がほとんど埋まる盛況だった。

 真奈美さんは「同じ境遇の人だけでなく、いろんな人と混ざり合って新たに生まれることがたくさんある。より多くの障害のある方にも『自分もやってみたい』と思ってほしいので、新しい場所で開催されて本当によかった」と話した。

 士恩さんの出演を機にムーンナイトサーカスでは、一部キャストの一般公募を始めた。これまでに、ダウン症や知的障害児を含む約35人が舞台を盛り上げた。

 金井さんは、プロの演者でも引き出せない感動を発信し続けることが、どんな世界につながるのかを楽しみにしている。【高橋隆輔】

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2025
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.