保守王国・群馬の県都で自民、公明両党県組織が推薦した3期目の現職が敗れる「衝撃と熱狂」から一夜明け、初当選を果たした新人の小川晶氏(41)は5日朝、「市民と共にやりたいことがたくさんある。スタートを切る責任と喜びを感じている」と取材に語った。群馬県議時代からの習慣であるつじ立ちをし、通行するドライバーらからの「がんばって」の声やあいさつに笑顔で応えた。【田所柳子、西本龍太朗】
女性の市長誕生は1892年の前橋市制施行後初めてで、北関東の県庁所在地でも初。1万4099票差をつけての小川氏の勝利について、過去に非自民候補の選挙を手伝ったという市内の自営業の女性(42)は「本当にしびれた。自分は自民党に批判的でも、群馬の選挙では組織票に勝てないと信じていた」と驚いた様子で語った。男性会社員(53)は「過去には当然のように自民党に投票してきたけど、今回は何かが変わる予感がした」と話した。「二択では選べなかった」と投票しなかったという50代の女性もいた。
議会との関係構築課題
小川氏は28日に初登庁し、市長に就任する。市幹部によると、それまでに「(山本龍氏が)当選した前提での公務が山ほどある」ため、副市長らが対応するという。市は今月中旬に新年度当初予算案を発表する想定だったが、市長交代を受け、義務的経費の人件費などが中心の暫定予算を組み、次の議会で学校給食無償化など小川氏の重点政策を踏まえた予算案を編成する方針。
市議36人中26人が山本氏の「支援議員団」だったため、小川氏は市議会との関係構築が最初の課題となる。今後はSNS(ネット交流サービス)で市政や市議会について発信を強化し、議会と市民の理解を求める一方、県などとの連携関係を築く考えだ。立憲民主党関係者は「市・市議会はオール前橋となり、選挙が終わったのだから県とも『ノーサイド』になるのが理想」と期待する。
一方の山本龍氏は5日午前、市役所で中島実、大野誠司両副市長ら幹部に、これまでの協力への感謝を伝え、1人で市長室の資料などを整理した。山本氏は取材に「もう政治活動はやめる」と述べ、政治家を引退する考えを示した。
陣営は選挙戦中、共産党の小川氏への支援を激しく攻撃。医療や建設など100以上の団体から推薦を得て、連日国会議員や市議らと各地区を回り、組織票固めを徹底した。山本氏は「我々の選挙はオールドファッションだったかもしれない。それぞれが自由に応援する時代なのかな」とさばさばした表情で語った。
山本一太知事「与党の完敗、初めて目撃」
4日午後7時の投票終了直後にテレビやインターネットなどで「当選確実」と報じられると、X(ツイッター)では「山が崩れた」「保守王国の県庁所在地で前代未聞だ」と驚きの声が次々書き込まれた。法政大の山口二郎教授は「この結果はすごい。群馬県でこれとは、大きな地殻変動を感じる」と投稿。山本一太知事もブログで「30年近い政治家としてのキャリアの中で、保守王国での与党の完敗という現象を初めて目撃した」と書き込んだ。
当初、深夜の決戦を覚悟していた小川陣営。事務所は数十人入るといっぱいになるほど小さく、長丁場になるとみて、市内に支持者の待機場所を準備していた。当選確実が伝わった時は一部の支持者しかいない状態で、陣営幹部は「『当確』報道は間違いで、訂正が出るかと思ったほど。うれしい誤算だ」と興奮した。