最大震度7を観測した能登半島地震は8日、発生から1週間が過ぎた。建物の倒壊や土砂崩れ、津波によって多くの人が犠牲になった。生き残った被災者も厳しい冷え込みの中、過酷な避難生活を余儀なくされている。
地鳴りのようなごう音とともに黒く濁った波が集落に襲いかかった。1日の能登半島地震で震度6弱を観測した石川県能登町の白丸地区。高台に避難中だった車の車載カメラが、背後から猛烈な勢いで迫る津波の様子を捉えていた。
車を運転していた住民の男性は間一髪で難を逃れたという。親族が毎日新聞に車載カメラの映像を提供した。
能登町白丸地区は半島北東の内海に面している。元日夕の地震で激しい揺れに襲われ、間もなく沿岸部に大津波警報が発令された。国土交通省によると、この地区は沿岸域を中心に約4・6ヘクタールの浸水被害が確認されている。
親族や映像によると、警報を聞いた男性は、高台に避難するために自宅から車を走らせた。海沿いの集落を抜ける狭い路地を移動中、つえをつきながら歩く近所の女性が目に入った。
「地震が起きた。上に行こう」。男性が年老いた女性に声をかけ、自分の車に乗せた時だった。「ゴー」。背後から異様な音が迫っていた。
時間は地震発生から約30分後の午後4時39分。後方に向けられた車載カメラは、どす黒い波が護岸を越えて陸地に押し寄せる様子を捉え始める。
それから20秒後。津波はごう音を立てながら集落に流れ込み、男性の車が海水につかるような場面も映っていた。
男性はその場から車を急発進させ、女性とともに路地を抜けて高台に逃げ切った。この間も車載カメラは津波が集落をのみ込んでいく瞬間を記録し続けた。
路地脇の家屋が「壁」になり、男性の車は津波の直撃を免れたことも分かる。男性は親族に「あの時は怖いというよりも、逃げることしか考えられなかった」と話しているという。【戸田紗友莉】