日韓首脳会談のため16日に来日した韓国の尹錫悦（ユンソンニョル）大統領（62）は、検察のトップである検事総長から、一切の政治経験がないまま大統領の座を射止めた異例の経歴の持ち主だ。
一橋大への留学経験もある統計学の権威、尹起重（ユンギジュン）延世大名誉教授の長男として、1960年にソウルで生まれた。79年にソウル大に入学したが、司法試験には9回目の挑戦で合格。任官後は主に特捜部畑を歩んだ。
国家情報院が2012年の大統領選に不正介入した事件に関し、国会で証言した際には「私は人（権力者）に忠誠を尽くさない」と述べ、一躍人気者になる一方、検察内部ではにらまれて地方を転々とした。16年末、保守系の朴槿恵（パククネ）元大統領への捜査のチーム長として呼び戻されると、その功績を買われ、進歩系の文在寅（ムンジェイン）前政権下でスピード出世。検事総長まで上り詰めたものの、政権幹部に対する調査に着手したことをきっかけに関係が悪化し、職を辞した。その後、再起を目指す保守系「国民の力」の大統領候補になり、昨年3月の大統領選では0・73ポイント差で辛勝、政権交代を成し遂げた。
就任直後から支持率は30～40％を前後し、決して高くはない。ソウル大や検察出身者を重用した「お友達人事」は批判を浴びたが、支持率に一喜一憂せず、信念を貫く姿は一定の支持を得ている。特に労働組合による過度な闘争に厳しい態度で臨む姿勢は評価された。
日韓関係の改善に向けてもリーダーシップを発揮。元徴用工訴訟の解決策についても、尹氏自らが最終判断したという。執務室の机の上には、トルーマン元米大統領が好んだ「最終責任は私が取る」という内容の言葉が刻まれたプレートが置かれている。豪胆な性格で酒好きとしても知られる。【ソウル渋江千春】
