エンジニアの実力に見合った正当な報酬を支払うテクニケーション。社員向けの独自制度を打ち出し、エンジニアをはじめとする社員の待遇改善に注力します。正当な報酬を社員に還元するようになった経緯とは。企業のIT導入などを支援するSES事業を通じて顧客にどんな価値を提供するのか。テクニケーションの強みについて、代表取締役社長の西田拳氏に話を聞きました。
――テクニケーションの事業内容について教えてください。
西田 当社の主な事業内容は、システムエンジニアリングサービス(SES)です。システム化したいが社内に対応できる社員がいないといった課題を持つクライアントに対し、当社のエンジニアがシステムの導入や構築を支援させていただきます。
例えば、動画制作を依頼するなら動画制作会社、音楽制作ならミュージシャンに依頼するように、IT分野のスペシャリストが必要なときだけサポートするといったイメージですね。当社にはITに精通するスペシャリストが多数います。企業のさまざまなIT化のニーズを満たせるのが、当社の何よりの強みです。

――システムエンジニアリングサービス(SES)についてもう少し教えてください。
西田 SESでは当社とクライアントとの間で契約を結び、当社のエンジニアがクライアントのプロジェクトに参画し、システム導入などを支援します。スケジュール通り進めるのはもちろん、システムの要件を固めたりシステムを開発したりなど、プロジェクトをゴールに導くまでを包括的に支援します。
当社の特徴は、基本的に正社員のみで対応する点です。現在、約400名の正社員がおりますが、彼らが直接クライアントとの打ち合わせなどから対応します。業務を外部の取引先に「丸投げ」するのではなく、あくまで当社の社員がプロジェクトに責任を持って参画するのが当社の特徴であり、強みであると自負しています。
――テクニケーションのクライアントは、どんな課題を抱えていることが多いでしょうか。
西田 最近はAIやDXなどに関わる課題解決に乗り出す企業が多いものの、当社に限ると「既存システムをどうにかしてほしい」の相談が多いですね。直近では、富士通が提供する汎用機(メインフレーム)が2035年に生産とサポートを終了するのに伴い、既存環境をマイグレーションしたいという相談が多く寄せられるようになっています。その他、オンプレミスで構築した基幹システムをクラウド化したい、新たに構築したシステムと基幹システムを連携してデータを一元管理したいなど、基幹システムにまつわる相談を受けることが多いですね。基幹システムが事業全体に与えるインパクトが大きいからこそ、喫緊の課題として解決策を模索する企業が増えていると認識しています。もちろん、AIやDX、RPA、さらにはアプリ開発など、新たなITトレンドへの追随や新技術の採用を検討する相談も少なくありません。
――テクニケーションの強みを教えてください。
西田 社員が安心して働ける、さらにやりがいを持って働ける環境や制度を徹底的に追及した点が他にはない強みです。具体的には、「単価給与連動制」「案件選択制」「チーム制」という3つの制度を打ち出しています。これらの仕組みが社員のモチベーションを向上させ、その結果として質の高い支援を提供できるようになると考えます。
明瞭な制度を設けて会社規模が拡大していることもあり、システム導入による構想策定や要件の定義などの上流工程から、すでに動いているシステムの運用保守まで、さまざまなフェーズで課題解決に貢献可能な社員が日々増えてきております。
――「単価給与連動制」について詳しく教えてください。
西田 「単価給与連動制」は、当社からクライアントに請求する単価と社員の給与を直接連動させるという仕組みです。当社に転職したいと考えるエンジニアの多くが、「前職よりも給与は上がるのか?」と思っているはずです。この疑問に対し、当社では現場の単価と連動した公正な報酬を支払うことを明言しています。
実はこの仕組みは、私自身の会社員時代の経験から着想しました。私が以前勤めていた会社で、「月給50万円を目指すためにどんな成果が必要か」と上司に尋ねたところ、「明確な基準はなく、実績を見て検討する」という回答だったのです。本来なら売上や粗利といった会社の業績と個人の評価は紐づくべきですよね。しかしその会社では実力に関係なく、会社の都合や社内政治によって給与が決められていました。こうした仕組みに違和感を覚え、個人の努力や実力が正当に評価されるべきだと強く感じ、単価給与連動制を取り入れることにしたのです。

エンジニアをはじめとする技術者の世界では、どのような業務を依頼可能かという観点で、予算がおおよそ定まります。例えば、プログラミング経験3年で設計業務は未経験なら、1ヵ月60万円前後、設計業務までできるようになると1ヵ月で70万円前後といった具合です。経験やスキルに応じた相場がある程度決まっていることから、当社の給与体系に「単価給与連動制」は馴染みやすいと考えました。つまり、当社が一方的に社員のランクを決めるのではなく、市場が評価する価値に合わせて給与が決まるわけです。社員にとっては高度な業務に対応できるようになれば、自然と単価も上がり、それがそのまま自身の給与に反映されることになります。
――しかし、「単価給与連動制」では、クライアントの案件に携わらなければ給与がゼロになるのでしょうか。
西田 いいえ。もし案件に関わっていなくても、基本給とプロジェクトに参画された際の想定売り上げに応じた職能給を保証しています。
――「案件選択制」と「チーム制」についても教えてください。
西田 自分がやりたいと考える案件を担当しなければ、モチベーションも維持できないと思います。そこで当社では、どのような案件に参画したいのか事前にヒアリングをして、協議をしながら案件を選択してもらう方式を取っています。
SES業界の中には、エンジニアの報酬を抑えることで利益を確保しようとする会社も存在します。そこでは案件選択においてエンジニアの希望は当然通りません。しかしエンジニアとして働く人の多くが、興味や情熱を持ってこの世界に飛び込んできたはずです。こうした人のモチベーションを下げないための仕組みづくりこそ必要なのではと考えたのです。
なお当社では、エンジニア一人ひとりに対し、「何を実現すれば仕事に前向きに取り組めるようになるか」をヒアリングしています。また「どんなことをやりたいか」だけでなく、長期的なキャリアプランを見据えることも重視しています。本人が気持ちよく活躍でき、それが長期のキャリア形成にもつながることが理想ですから、そのために今何を選択するべきなのかを、全社の経験と情報を踏まえてサポートしています。
エンジニア自身が業務を並行しながら市場の動向をリアルタイムで把握するのは極めて困難です。営業や人事が持つ情報も連携し、最終的な判断はご本人に委ねるという流れをとっています。
こうしたマッチングが社員のモチベーションを自然と高め、キャリアを積んでいく中で、結果としてクライアントの満足度向上につながると考えます。「テクニケーションは良い会社だな」や「〇〇さんに次回も頼みたい」と言ってくれるクライアントが増えれば、信用も確実に積み上がっていくと思います。
一方、一人では難しい案件もチームであれば挑戦できるようにしたのが「チーム制」です。この仕組みは、経験の浅い方や新しい分野に挑戦したい方をサポートするために設けました。
例えば、社員の中に「今までプログラミングしか経験したことがないが、設計に挑戦したい」という方がいるとします。クライアントの立場からすると、実績のない人に担当してもらうのは不安に違いありません。そこで当社では、経験豊富なベテランのフォローを受けられるように、チームで案件に参画するという体制を取っています。ベテランと若手のペアであれば「合計で2人月分のパフォーマンスを提供します」といった提案をクライアントにしています。ベテランが若手をフォローすることで、若手は安心して業務に取り組め、パフォーマンスを発揮できるようになります。クライアントからは、「ベテランの人が面倒を見てくれるなら」と安心して任せていただくケースが多いですね。
なお、当社には10代から60代までの社員が在籍しています。東大卒の社員も含め、さまざまなバックグラウンドや経験を持つエンジニアがいます。例えばAさんはこの業界に精通している、Bさんはこの技術が得意といった具合に、多様なタレントを揃えています。こうした社員たちを集めてワンチームとして案件に取り組むことで、クライアントの期待以上の成果を出せるようにしています。
――テクニケーションで働く人は、正社員でありながらフリーランスのような働き方ができるわけですね。
西田 正社員とフリーランスのいいとこどりをしているわけです。フリーランスなら仕事や収入を自身の努力や裁量で選べますが、働かなければ収入はゼロに陥ります。住宅ローンを組みにくいといった社会的なデメリットも見込まれます。しかし当社の社員なら、フリーランスの利点を活かしつつ、デメリットを解消することができます。正社員として安定した立場で、案件を選べ、自身の努力が給与で正当に評価されるわけです。当社の環境はエンジニアとして働く方にとって、これ以上ない仕組みだと自負します。
――多くの人がテクニケーションで働きたいと応募してくるのではないでしょうか。
西田 おかげ様で多くの方から関心を集めてもらっています。ただし、採用基準は決して甘くありません。特に経験の浅い方や未経験の方にとっては大変な業界であることに変わりありません。未経験者を採用した例はあるものの、何の準備もしていない人を採用した実績はほぼありません。これまでのスキルや経験はもちろん、当社の働き方にフィットして活躍できるかどうかに重点を置いて厳密に精査しています。
なお、明確な目標を持っている方は当社と相性が良いと思います。「何歳までに年収〇万円を達成したい」「将来はこんな業務内容に専念したい」などの希望を描いていれば、そこから逆算したキャリアプランを立てやすいでしょう。実際に入社した方の中には、「自分の人生をコントロールできるようになった」と驚く方もいます。目標や希望を絶対叶えるという意思をお持ちの方は当社で活躍できるはずです。
――西田社長が描く今後のビジョンがあれば教えてください。
西田 会社の代表として数年先の輝かしいビジョンを描くべきなのかもしれませんが、正直言って、5年後や10年後の明確な計画を立てるのは難しいと考えています。IT業界に限れば、AIなどの技術進化で前提条件から大きく変わるかもしれないからです。どれだけ具体的な未来を見据えても計画通りには必ずしも進みません。私はそれより、1年や2年先のことを考え、きっちり行動していくことが重要だと考えます。変化を感じたら、その都度軌道修正する柔軟性を大切にしたいと思っています。

ただし、市場のシェア獲得は貪欲に追い求めたいと考えます。現在のSES市場規模は約4兆円と言われ、その中で当社の占める額は30億円程度です。小規模なシェアをさらに広げる余地は十分あります。売上増に向け、案件を獲得するのはもとより、クライアントの信頼を地道に積み上げることが当面の目標です。
もちろん社員の満足度向上にも引き続き注力します。税金や社会保険料が上がり続けて暮らしを圧迫する中、社員の可処分所得を増やす手段は、実質的に給与を上げるしかないと考えます。今後も社員の待遇改善に取り組み、エンジニアを取り巻く環境を変えていくことができればと思います。スキルは高いのに待遇が不十分と感じているエンジニアの方がいたら、ぜひ当社に来ていただきたいですね。
当社は「こんな企業を目指したい」と自ら主張するのではなく、「市場に合わせる」というスタンスを大切にします。天才的にイノベーションを起こせる人が社長ならともかく、私は自分を「凡人」だと思っています。だからこそ、現在の市場のルールの中で、どう効率的に戦うべきかを常に意識しています。市場ニーズや需要に対し、当社はどう合わせられるかというスタンスを貫き通すべきと考えます。夢のある話ではなく現実的な考え方かもしれませんが、これが私の導き出したビジョンです。優秀なエンジニアと共に成長し、一人ひとりの実力に見合った正当な評価と報酬を得られる環境を醸成することこそが、テクニケーションの役割だと考えます。
◆西田拳(にしだ けん)
株式会社テクニケーション代表取締役社長
大学卒業後、リユース業で起業を経験。その後、営業職として経験を経て、2019年11月に株式会社テクニケーションを設立。SES(システムエンジニアリングサービス)を軸にした事業を展開し、エンジニアの待遇改善に力を入れる。