「まさか叶うとは…」。大河ドラマ『光る君へ』一条天皇役で一躍注目を浴びている俳優、塩野瑛久。10月11日(金)公開の映画『チャチャ』では一転、ヒモ男・護を演じる。本作は片思いの甘酸っぱさと誰にも言えないキケンな欲望が、独自の美しさによって共存するビザールラブストーリー。一風変わった本作でヒモ男を演じた塩野が、その“念願”の理由をたっぷりと語りながら、ヘヴィな撮影秘話も明かす。
■念願のヒモ男を演じる上でヒモを解いた?
──キョウリュウグリーン、一条天皇、からのヒモ男!塩野さんのふり幅凄い。以前からヒモ男を演じたかったとか?
その通りです(笑)。様々なインタビューの場で「次はヒモ男を演じたい!」と言っていました。インタビューの場で言う事は叶わないことが多いので、冗談半分で「ヒモ!」と。しかしそれが今回まさか叶うという…。お話をいただいた時は自分が一番ビックリしました。さらに酒井麻衣監督7年ぶりのオリジナル映画ということで嬉しさもありました。
──冗談とはいえ、なぜ「ヒモ」をチョイスしたのですか?職業だったり設定だったり、他にも思い浮かびそうなものはあるじゃないですか?
たしかになぜだろう!?刑事や医者だと専門的な技術を覚えなければいけないから、無意識のうちに避けてしまっていたのかなあ…(笑)。とはいえヒモ男の護も演じる上では人柄が大事だろうと思って色々と工夫しました。ヒモをヒモ解きヒモの本質を捉えねばと思い、言葉の抑揚を普段以上に優しくしたり、猫撫で声風のトーンにしてみたり。経済的には自立できていないけれど何故か愛されるという特有の雰囲気を出すために丸みを意識しました。セリフも角をとりながら丸みを帯びる様に発していた気がします。
■過酷な撮影もユーモアを味方に
──演じるのが難しくなさそうだから無意識にヒモをピックアップしていた…。でも本作では尋常ならざる体当たりがありましたね。
いや~、メッチャきつかったです(笑)!真冬ではなかったのでそこは助かりましたが、それにしても水をかけられたときは冷たかったです。目隠しで腕を縛られて受け身が取れない状態でコンクリートの床の上をゴロゴロしたのもしんどかった。僕は結構体の骨が出っ張っているところがあるので、そこが床に当たって痛い痛い(笑)。撮影していた場所もリアルでホコリも凄くて、耳の穴や鼻の穴を掃除したら真っ黒だった…なんてこともありました(笑)。
──見ていて肉体的・精神的にも大変そうだなと思いつつも、塩野さんが醸し出すコミカルさに笑ってしまう場面もありました。それは塩野さん自身のユーモアが自然に出たのではないかと。
残念ながら僕にユーモアのセンスはありません…。ただエンタメを提供する側の人間としてユーモアは大事なポイントだと感じています。SNSや舞台挨拶の場のトークだとかにはユーモアを忍ばせる様にしています。クール、真面目、カッコいいというのも俳優としての見せ方として理解できますが、僕は見てくれる人をクスっとさせたい。応援してくれる人にちょっとでも楽しんでもらえたらいいなと。
■10代の社会人経験が今に活きている
──高校進学はせずに、実家のクレープ屋で働いていたという社会人経験が対人関係面で活きていると感じることは?
たしかにその経験は自分の人生の中では大きかったかもしれません。同い年の人たちが高校に進学して青春を謳歌していく中で僕は実家のクレープ屋で働くことを選んだわけで、ならば進学を選んだみんなに遅れを取らないようにしなければと。お客さんと対面した時の態度、対応、話し方、思いやり。その程度の事ではありましたが、コミュケーション能力を培う努力は意識的にしていたのかもしれません。あの頃の経験は今の仕事にかなり活きています。
──周囲とは違った道を歩んだことへのコンプレックスは?
高校に行かなかった事が自分のコンプレックスになっているかというと、それはありません。中学生の頃から勉強は苦手だし自由奔放系だったので、高校に進学していたとしても楽しめていなかっただろうし、途中で辞めていた気がします。今ではむしろ高校に行かなくて正解だったとさえ思っています。色々な御縁と巡り合わせがあり今俳優をやっていて物凄く楽しいので、すべて結果オーライです!
──塩野さんは現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』で演じた一条天皇が好評です。周囲からの反響は?
大変ありがたいことに、幅広い世代の方に知っていただき、声をかけていただけるようになりました。『光る君へ』にハマっている知り合いのおばあちゃんが喜んでくれたりすると、反響は広がっているんだなと自覚します。
■30歳目前!次に演じたい役柄
──来年30歳に。20代を振り返るとどのような思いがありますか?
僕のこれまでの道のりはトントン拍子の順風満帆ではなく、かなりの紆余曲折がありました。でもそれも本当に良かった。それら一つ一つの経験は今の僕に確実に活きています。本作にしても大河ドラマにしてもそうですが、過去の積み重ねがあって参加が出来て、多くの皆さんにこれまでの人生で培ったものをお見せできる。ここまで来るのに苦しい事もありましたが、それもすべて意味のある必然的な経験だった。今となってはそう思います。
──それでは最後に、冗談ではなく本気で次に演じたい役柄を教えてください!絶対に叶いますよ!
ハハハ!次に演じたいものは教師です!俳優は色々な設定や職業を疑似体験できるので、「よし!キラキラするぞ!」と意気込んでいたものの、気づいたら30歳目前。インタビューで言うと叶わないという決まりでもあるのかなと勝手に思っていました。今回は念願のヒモ役を演じることが出来たので、願いが叶うことを信じて教師役を演じてみたいとお伝えします!『GTO』のような熱血教師、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』のようなミステリー系など…。何かを考えさせられるような、メッセージ性のある作品で教師役を務めてみたいです。
(取材・文/石井隼人)
映画『チャチャ』10 月 11 日(金)より新宿ピカデリー他全国公開
©2024「チャチャ」製作委員会
配給:メ~テレ、カルチュア・パブリッシャーズ
配給協力:ラビットハウス